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赤い道化師の箱  作者: miora
8/9

:box8 計画:

プログラム・・・即ち、計画。

これはどんな物事にも必要なものである。

このサーカスを開いた時だってそうだ。いつだって計画があった。

しかし、そこには予想外の事が生じる。そんな時でも、必ず計画には沿って、やり直そうと必死になる・・・。

人間はね。

だけど僕等、サーカスの準主役、道化師はそんな事では動じない。

たとえ、人が死のうと

たとえ、自分が死のうと

誰を殺そうと、誰かが不幸になろうと、

・・・そして、たとえこの世界に終止符が打たれようと―。

それらが計画外にあったとしても、我ら道化師はただ嗤って見つめるだけ。

人間どもはそれを必死に止めようとする。

―哀れだね。

こんな事を言っているけど、本当は悲しいのさ。涙だって流しているんだ。

道化師の仮面の裏にはもう、憎しみと涙しか残っていない―。


「今度はシナー!?いい加減にしてちょうだい!どうして、こうも計画を無視しようとする奴等が出てくるの!?」

リリアン、ここでは愛称でリリーと呼んでおこう。

リリーはクウェイスがエミリーに引っ張られて教会に戻ってくる丁度十分前、怒りを爆発していた。

ライアン&セリアン姉弟に引き続き、今度はクウェイスが姿を消したからである。

計画ではまず、時が来るまでミシェルを誘拐する事は一時、中断する事にした。

―そう、時が来るまで。

しかし、こうも計画を安易に無視されてしまうと、当然の如く、怒りはピークに達する。

そんな姿を見かねたエミリーが自ら「クウェイスを探す」といって教会を出て行った。

主祭壇ではライアンとセリアンが仲良く、手作りの人形で遊んでいる。

その人形はあまりにも不格好でぶきみにさえ思えてくる。その隣では足を組んで、のんきにマローが化粧をしている。マローはリリーに言った。

「そんなにイライラしていると、お肌に悪いわよ?リリー」

「五月蠅いわね。っていうか、良く化粧なんてしていられるわね、マロー。大体、リリーって誰が呼んでいいなんて言ったの?」

「あら、それじゃ、エミリーはどうなの?あの子だって、リリーって呼んでるじゃない」

「エミリーは良いのよ。あの子は可愛いから」

「・・・・・・・」

マローは呆れたように首を振った。だったら、ライアンとセリアンはどうなんだ、と問いかけようとしたがマローはあまりの脱力さに言う気が無かった。

「これだから、ロリ好きは困るわ」

小さな声で呟いた。幸い、リリーにそれは聞こえなかったらしい。

―キイッ。

扉が開かれる音がした。そこから、クウェイスとエミリーが入って来た。

リリーは足早にツカツカとクウェイスに近寄ると、口を開きかけた。それをエミリーが抑え、言った。

「リリー、怒る前にね・・・お客さん」

「え?」

ちょうど、リリーが聞き返そうとした時に『お客さん』は入って来た。お客さんは美顔の青年と少年みたいな顔立ちをした少女だった。

「久しぶりだね。パーティーの時以来かな?」

そこに立っていた人物はクラリスとレオンであった。

「あら、いらっしゃい。でも、まだミシェル様の誘拐する事が成功するまで会わない約束だった筈だけど」

「ミシェルを誘拐できなかった、落ちこぼれの道化師・・・が何を言ってんだか」

レオンはそっぽを向きながら呟いた。不幸にもリリーにはそれが聞こえていたらしい。

ぎろりとレオンを睨む。レオンはそんなリリーには気付かず、鼻歌を歌う。

クラリスはクスクスと笑いながら本題に入った。

「その事なんだけれど、少し計画を変更させて貰いたくってね」

「・・・話は聞くわ。決めるのはそのあとよ」

リリーは主祭壇へと歩み寄った。自然とセリアンとライアン、クラリス、レオン、クウェイス、エミリー、そしてマローはその教壇を丸く囲んだ。

「それで?計画の変更って言うのは?」

「うん。まず、僕にミシェルの誘拐については任せてほしい」

「はあ?何であんたなのよ」

マローは不機嫌そうに答えた。それもその筈、マローはミシェルのお目付役。一番、ミシェルに近いのはマローだった。誘拐するならば、当然、マローの方が適役だろう。

「あんたはミシェル様にあんまり会わないって言うじゃない。それにね、ミシェル様はあんたの事をあまり好いてないのよ。あんたも知ってるでしょう?」

クラリスは平然としてそれに、答えた。

「そうだね。今までは確かにあまり接触しなかった。今まではね」

「どういう事?」

「マローは聞いてないの?」

マローは首を傾げた。そんなマローにレオンはクラリスの代わりにあくびをしていった。

「ミシェルが『マッツェル学園』に転入するんだってよ」

「!?」

マローは驚いていた。そんな話はミシェルからは勿論、セインからも聞いていなかった。

「そんな・・・・。でも何で今更?」

そう、ミシェルはもう十四。今更、学校に行ったところで何の意味があるのだろう?

そんな疑問がマローの頭の中に残っていた。

「さあ、それは分からないな。でも、僕もミシェルよりは一歳年上だけど、同じ学校。会える確立も高い。マローもそうだけど、マローには別の事をやってもらった方が良いんじゃない?」

クラリスはちらりとリリーを見た。リリーは最初、自分に向けられた視線が分からなかったが、暫く考え込み、目を見開いた。

「・・・マローにセインの暗殺を頼むって言うのね?」

「なるほどね。よく考えたじゃない、クラリス坊や」

マローはふん、と鼻を鳴らす。

確かに、一人で二つの事をいっぺんにやるには荷が重い。それならば、誰かに手伝ってもらう方が合理的だった。

クラリスはにこりとマローに笑顔を向けるとリリーに問いた。

「その事なんだけど、どうしてセインを殺さなくてはならないの?」

「レイチェル様が言ったからだよ?」

ライアンはクラリスに向けて、言った。セリアンもその横で頷く。

「レイチェル様が言った事は必ず遂行しなければならない。それにレイチェル様はあんまりその理由は聞いてほしくないみたい」

「へえ・・・」

クラリスは妖しい笑顔を見せる。美顔なので妖しくても、それが逆に魅力的に見えてくる。

「じゃあ、いきなりミシェルに様付けをしたのもレイチェル様の指示?」

「そうよ」

「それだけ、アランド様を愛していたんだね」

「愛してた、じゃなくて愛してる、のよ。今でもね」

「いいな。レイチェル様は一途で。僕、好きになりそうだよ」

マローはあら、と言うとクラリスにぴったりと寄り添った。

「やきもち?それなら、私が代わりに相手してあげるわよ?坊や」

そんなマローにクラリスはにっこりと笑顔を向けた。しかし、その横でレオンはマローを睨んでいた。

「近づくなよ、オバサン」

ぴきっとその言葉にマローは眉をよせた。

「子供は引っ込んでなさい」

レオンも同じようにぴきっと眉を寄せる。二人はお互いを睨みあった。

リリーはそんな様子に呆れてクラリスに言う。

「クラリスが悪いのよ。あんた、女を誑かすことばっかり」

クラリスはそんな毒舌に笑顔を返す。

「それはしょうがないよ。僕は女を誑かすことしかできないからね」

リリーはもう今度は何も言わなかった。


ちょうど、同じ頃。ミシェルとバーク夫人、セインとシュイそして、ミゴールがミシェルの屋敷に集まっていた。本来であれば、バーク夫人の屋敷でそのまま会議をしようと思っていた。しかし、突然の襲撃で会議出来るような状態でなくなり、その結果、ミシェルの屋敷で行う事にしたのだった。

「ここでまた、お会いできるとは思いませんでしたな、バーク夫人」

「何年ぶりかしら?ミゴール伯爵」

二人は微笑みあって挨拶を交わした。そんな横でシュイは舌を出した。

「うえっ。社交挨拶っていつもこうなの?私、退屈しそう」

「で、でもシュイはさっき、バーク夫人の屋敷にいた時、ちゃんと出来てたじゃないか」

セインはおどおどとした雰囲気でシュイに言った。そんな言葉にシュイは信じられない答えを返してきた。

「え?あれも社交挨拶なの?」

セイン、フリーズ。ミシェルはあはははと笑ってシュイに言った。

シュイ、あれも立派な社交挨拶だよ。社交挨拶を初めて知った割には上手く出来てたじゃないか」

シュイは再び、舌を出すと手を振った。

「いやいやいや。あれはテキトーにやったの」

「なんか、シュイらしいね」

セインは呆れたように首を振り、ぐったりとうなだれた。

「一気に脱力しました」

セインはミシェルに言った。シュイは首を傾げる。そんな様子にミゴールとバーク夫人は笑った。


「さて、本題に入るとしよう」

ミシェルの傍にはセインがたっている。貴族のルールとして、使用人はこういう場では決して座ってはいけない。これは自然と決められている。それなのにシュイはあくびをしながらバーク夫人の隣に堂々と座っている。

さすがにシュイのこういう態度にはセインは慣れたらしい。

しかし、次の行動には意識が飛びそうになった。

「バーキット様ぁ、私、つまんないよ」

と駄々をこね始めたのだ。これじゃあ、主と従の関係ではなく、母と娘(それも三、四歳)の関係である。

「あらあら。仕様が無い子ね。セイン、気分でも悪いのですか?顔が青いですよ」

顔を青ざめ、硬直しているセインに心配そうな視線を送る、バーク夫人。

「セイン、どうかしたのかね?」

ミゴールもさすがの顔の青さに心配している。シュイもセインに声を掛けた。

「セイン、どうしてそうなったの?」

そんな問いにミシェルが代わりに答えた。

「セインは使用人になった時、特に僕の専属使用人になるって言い出した時に厳しい教育を受けたんだ。君のその行動がセインにしてみれば常識外れなんじゃない?」

笑いをこらえながら、シュイに伝える。バーク夫人はそんなセインに気を使い、椅子に座るよう、言ったがセインは首を振る。

「いえ、僕は大丈夫です。お気づかい有り難うございます」

バーク夫人はそう?と言いつつ、話を進めた。

「それでミシェル。『マッツェル学園』に転入すると言う事は誰にも話してないわね?」

「はい。勿論です」

ミシェルは頷く。ミゴールはポケットからキャンディーを取り出し、口に入れる。

「それで、君に何故、今頃『マッツェル学園』に行く事になったのか、話していなかったの」

「ええ」

「実は『マッツェル学園』にはアランド・セルカールの墓があるという」

「アランド・セルカールの!?」

セインは驚いた。勿論、ミシェルは声が出ないくらいに驚いていた。しかし、ミシェルは問いかけた。

「ですがあの学園はリレンド・マッツェルという人物が建てた、と聞いています。アランドとは何の関係があるのでしょう?」

「実はリレンドとアランドは親しい関係だったらしい。アランドの墓にそんな関係を思わせるような文が刻まれていたのじゃ」

「アランドとリレンドが?」

ミシェルは聞き返した。ミゴールは頷く。

「それでの、これはレイチェルの『五大遺品』を探す重要な手掛かりになるかもしれないのじゃ」

ミシェルは頷く。

「そこで、僕にその墓を調べろって事ですね?」

「そうじゃ。念のため、セイン君とシュイにも、一緒に転入してもらう事になった」

「宜しく~、セイン」

シュイひらひらと手を振ってにっこりと笑顔。セインはシュイも一緒なのかと思うと気が引けた。

「よ、宜しく・・・」

がっくりとうなだれたセイン。それをシュイは嬉しいのだと勘違いしている。

「うむ。それでは何か有り次第、報告をするように」

ミゴールはそう言うと、キャンディーを噛み砕いた。


―次の日。

「に、似合いますか?ミシェル様」

「似合ってるよ、セイン」

「う~ん、なんか疲れるな、制服って」

セイン、ミシェル、シュイの三人は『マッツェル学園』の校門の前に立ち、お互いの制服姿を見合っていた。制服は黒いブレザーに金のボタンが四つ、付いていてブレザーの下にはベスト、赤色のネクタイ、ズボンは茶色のチェック。女の子の制服のスカートは同じく、茶色のチェック。そして赤色のリボン。

「僕、制服は初めて着るよ。学校にも来た事は無いしね。緊張するな」

「ぼ、僕もです」

「私もだな~」

緊張するセインとミシェル。緊張すると言っている割には口笛を吹くぐらい余裕そうな水

(シュイ)。三人は重い足取りで(シュイは覗いて)学園へとはいって行った。

その様子を廊下の窓から見下ろしている者がいた。

クラリスはレオンに言った。

「計画始動だよ、レオン」

レオンはにやりと笑うと、頷いた。


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