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赤い道化師の箱  作者: miora
6/9

:box6 過去:

『過去』。

それは生きている限り、付いてくるモノ。

脆く、気付けばそれすらの存在を忘れてしまうモノ。

それでも、『過去』は存在し、付いてくる。

それは『脆く』て、『確実』なのだ。

『過去』は書き換えられない。

忘れてしまっていても、いつかは思い出す。

それは残酷なのかもしれない。

苦しい『過去』ならば―。

でも、時には楽しい『過去』だってある。

そんな『過去』を振り返り、幸福になれる人間は羨ましい。

道化師は壊れた時計を取り出し、見つめた。

何故、羨ましいかって?

それは僕がそんな『過去』を幸せだと思えない、愚かな道化師ピエロだからだよ―。



―キンッ。シュン、シュヒッ。

ミシェルは相変わらず、双子と戦闘を繰り広げていた。

「はッ!一体、その小さい体に何処にそんな力があるんだ?」

槍を突いても、ライアンの盾で防がれ、その隙にセリアンに矛で攻撃をされる。

セリアンの場合、思いっきり槍で突いても、ビクともしない。それどころか、逆にミシェルが盾で押し返されるほど。

「きゃはは♪僕ね、『大きい子』って大好きなんだ♪だって、強いし、カッコいいでしょ?」

「は?」

ミシェルは聞き返した。セリアンはにやりと嗤った。

「だってね?僕ね、もの凄く我が儘だからね?『大きい子』に背負ってもらわないと駄目なの♪」

セリアンは続けた。

「それでね?ミシェルとセインのやりとりを見てたら、セインが羨ましくなっちゃった♪」

ふっと、ミシェルも笑った。

「何で?」

聞き返すと、セリアンは「きゃはは♪」と笑った。

「セインの事は僕が守るから、っていう時にね、ミシェルの背中って温かくて、大きく感じるんだぁ♪」

そう言うと、双子は突然、攻撃を止めた。

「何・・・?」

「アランド・セルカール様もそんな人だった」

「やっぱり、アランド様の血は争えないね♪見た目も性格も全て似ている♪」

「だけどね、僕らは寂しくなんかないんだ♪」

「だってね、レイチェル様が喜んでいるから♪」

「僕らも喜んでいるから♪」

「・・・・・・」

「だから、僕はミシェルが大好き♪」

「へえ?アランドって人、レイチェルって言う人好きになる位、立派な人だったの?」

ミシェルは俯き、聞いた。

「うん♪だ「見つけたわよ、マルテロナ姉弟」」

セリアンが口を開きかけた時、頭上からりん、とした声が降ってきた。巨大なウサギの人形の上にのっている。その人形はふわふわと宙を浮き、やがて、双子とミシェルの間に降りてきた。

「また、あんた達、勝手な事をして!何、計画を無視してんのよ」

リリアン・ピルット。双子が見当たらないので、今まで探していたのだ。長いストレートな髪が印象につく。色は茶髪で、ツヤがあり、顔も整っている。

リリアンは目をミシェルに向けると、にこりと笑う。その顔にいささか、ミシェルもドキッとしてしまう。

「やはり、アランド様に似ていますね、ミシェル様。この双子がご迷惑をお掛けしました」

そう言うと、リリアンは頭を下げた。

「本当に迷惑だったんだけれど?さっさと双子を連れて行ってくれる?」

「・・・そうですね。そうします。性格はアランド様に似てないようですが」

ミシェルは笑って、リリアンを見つめた。

「はは。そうみたいだね。言っておくけど、僕はそのアランドって人に似てないと思うよ?寛大でじゃないし、性格も良い方ではあるけど、それでもアランドには遠い存在だと思うよ」

「・・・・帰るわよ、マルテロナ姉弟」

三人は人形にのった。リリアンは振り返り最後にミシェルに告げる。

「ミシェル様、それでも貴方は『正直さ』という面ではアランド様に似ていますわ」

「それでは御機嫌よう」とリリアンは最後に言葉を残し、あっというまに人形は豆粒ほどに小さくなってしまった。

「―ッ」

ミシェルがその人形を見送った直後、どくん、とミシェルの心臓が波打った。

「ミシェル様!」

倒れそうになったミシェルを慌ててセインが受け止める。視界は真っ暗になり、ミシェルは意識を失った。


「今から、孤児院に行くんだ。ミシェルも行くかい?」

温かい笑顔で、ミシェルに手を伸ばす、父、ルーカス。

「うん!僕の弟を選ぶんだよね?」

幼いミシェルは、満面の笑顔でルーカスに聞いた。

「ああ・・・。そうだよ」

―ああ、これは過去の記憶か。懐かしいな。

ミシェルは暗闇の中でルーカスと幼いミシェルの記憶を見つめ、立っていた。

―孤児院。そうか、ちょうどクリスマスにセインを養子にしたんだっけ。

目の前で、ミシェル達の周りの景色が一変し、二人は雪が降る街の中を歩いていた。

ルーカスの隣で、一生懸命に話しかける幼いミシェル。ルーカスは微笑みながら、それに応えていた。

しばらくすると、二人の目の前に大きな孤児院が現れる。その中に二人は入って行った。

また、景色は一変する。

「まあ、ルーカス様。ご無沙汰です。この子がミシェル様?」

歳の老けたおばさんがルーカスに話しかけてきた。

「ああ、そうだよ。ところで、早速見ても良いかな?」

「もちろんですとも」

三人は歩いて、廊下を歩いた。その先にあるドア。それをおばさんが開いた。

「さあ、選んでいいぞ。ミシェル」

その部屋の中にはほんわりと明るい光の中で、遊びまわる子供達。ミシェルにはそれが眩しく感じた。

―楽しそうだな、眩しいや。

ミシェルは疲れて、その場に座り込んだ。映画を見ているような感覚で自分の過去を振り返るのは何とも不思議な感覚だった。

幼いミシェルは遊びまわる子供たちの中を歩いた。プレゼントを包んでいる子もいれば、クリスマスツリーの飾り付けをしている子もいた。皆仲良く、それぞれクリスマスに向けての準備をしている。

ただ一人、幼いセインを除いて。

セインは部屋の隅でうずくまり、顔を組んでいた腕に埋めていた。幼いミシェルはセインを見つけた。セインに近づき、話しかける。

「きみ、こんな所で何をしているの?」

セインはピクリとも動かない。幼いミシェルはその隣に座った。その時、セインの肩がピクッと震えた。幼いミシェルはそれに気づいてはいたが、話しかけずにじっと遊んでいる子供たちを見つめた。

しばらくの沈黙。聞こえるのはがやがやと騒いでいる、子供たちの声。それしか聞こえなかった。そんな沈黙を破ったのはセインだった。

「君は・・・親に捨てられたの?」

顔を埋めたまま、ミシェルに質問をした。

「ううん。僕はね、弟を選びに来たの」

幼いミシェルは笑って、それに答えた。幼いミシェルは続けた。

「でもね、お屋敷にはね、お母さんはいないんだ。お母さんは僕がちっちゃい時に出て行っちゃった」

「・・・・・・」

セインはまた、黙り込んだ。それでも続けた。

「でもね、それからお父さんは早く、仕事から帰ってくるようになったんだ」

「・・・・・・」

「それでも、やっぱりお父さんがいない時、寂しいから弟を貰う事にしたの」

「・・・・・・」

「でも、まだ、良い子はいない」

「・・・・・・」

「君は親に捨てられたの?」

「・・・・・・」

幼いミシェルは耳を傾けた。すると、腕の中からはしゃくり上げるような声が聞こえた。

―セイン・・・。

ミシェルはその光景を目にし、少し、目をそむけたくなった。

記憶の中で幼いミシェルは肩をポンポン、と叩いた。っして、にっこりと笑う。

「きーめたっ」

短くセインに囁きかけるように耳に小さな声で言った。

その時、初めてセインが顔をあげた。幼いミシェルはセインの腕を掴むと、足早に子供の中を歩き、ルーカスの目の前にセインを連れてきた。

ルーカスは笑って、幼いミシェルに聞いた。

「その子にするかい?」

問いかけられたミシェルは嬉しそうに頷く。

「うん!」

笑顔のまま、セインに話した。

「今日から、君は僕の弟だよ」

その瞬間、幼いミシェルは幸福に包まれた。おばさんも子供達も幸福に包まれた。記憶を見ていたミシェルも幸福に包まれた。

セインが初めて笑顔を見せたから―。


「ミ・・・・様」

「う・・ん」

「ミシェ・・・様」

「ん・・・」

「ミシェル様!」

セインに怒鳴られ、ミシェルはバッと起き上った。

「セ、セイン・・・。声が大きいよ」

キーンと耳鳴りがする耳をミシェルは塞ぐ。セインは慌てて、謝罪した。

「すすすすみません!耳は大丈夫ですか!?」

そんな姿にミシェルは笑ってしまった。

「ミシェル様?」

ミシェルは笑いが止まらなかった。それは幸せだった。そして、温かかった。

セインも、そんなミシェルを見て、笑った。

(良かった・・・。セインがちゃんと笑顔になれるようになって)

二人は笑いつづけた。

それはあっという間の幸せなのかもしれない。

それでも二人は笑いつづける。

始まった悲劇サーカスを忘れるように―。


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