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赤い道化師の箱  作者: miora
4/9

:box4 己の罪:

『罪人』。 それは神に背きし者。

『裁き人』。 それは神に従い、裁きを下す者。

神に従う者と背く者。

そして『罪人』は己の真の罪に驚愕し、絶望する。

ひとは誰でも罪はかならず持っている。

それを人間に持たせたのは他でもない―。『神』である。

神は道化師に言った。

「己の罪に、決して目を背けてはならない」と。

道化師は嗤った。

「ならば、お前の罪は、愚かな人間どもの運命に無理やり、『罪』という名の最悪の幸福を入れてしまった事だ」

道化師は嗤った。

「お前こそ、己の罪に決して、目を背けるな」

道化師は仮面を外す。

「そうだろう?だって私はお前の生んだ、『罪』なのだから」

神は怒り、道化師を地獄へと貶してしまった。

―それでも道化師は嗤い続ける。闇に染まったこの世界で、

悲劇サーカスの第二章の始まりさ、と。



『僕がシンフルアクトと契約をする』


セインはミシェルを見つめた。

「ミ・・・シェル様?」

ミシェルは目を瞑って、セインを見た。

「セインが僕の裁き人になるんだ」

「何を言ってるんですか!そんな事をしたらミシェル様のお命が!!」

セインは叫んだ。尊敬し、感謝をして、命より大切なご主人様を気づ付けたくはないと。

「貴方様の命を削るなんて出来ません!」

「だけど、これしか方法が無いんだよ」

ミシェルは力無く、笑った。

「セインが裁き人になってほしいんだ。僕はセインが思ってるような良い人じゃないから」

「そんな事はありません!それに千年前の人が生きてるなんて、信じているんですか!?」

「信じてないよ」

「・・・っ!?」

セインは言葉を詰まらせた。ミシェルは静かに続けた。

「僕は、まだ信じられないよ。でもね、今の話が本当だったら、セインには生きていて欲しいんだよ」

「そんな事・・・」

「僕は十分、セインに守ってもらった。だから今度は僕が守るよ」

「でも・・・」

「セイン。使用人を守るのも、僕の、主の役目なんだ」

にっこりとセインに向かって笑った。

「守ってもらうだけじゃ、きっと僕の周りから消えてしまう」

「・・・・」

「父さんも、母さんも屋敷にはいない。僕は一人ぼっちになってしまうのは、嫌なんだ」

「ふっ・・・うっ」

セインは涙を流し、顔をあげた。その顔には笑顔があった。

「・・・・分かりました。でも、僕にもやっぱり、貴方を守らせてください。僕も一人はもう嫌ですから」

ミシェルは目を見開いたが、ほほ笑むと頷いた。

「うん」

ミシェルはセインの頭を撫でて、いった。

「ありがとう、セイン」

と。



「それでは始めるぞ」

ミシェルは暗い部屋でシンフルアクトと契約を交わす儀式を始めていた。ミゴールの声はごわん、ごわんと部屋に響いた。ミシェルの隣にはセインが手をつなぎ、立っていた。

「暫く、つらいかもしれんが、我慢してくれ」

ミシェルとセインは目を瞑り、笑った。

「大丈夫です。覚悟は出来ていますから」

「・・・それでは」

ミゴールはミシェルの胸に手を置き、何かを唱えた。

「我、神に使いし者。哀れな罪人に罰を。そして裁き人を与えよ―」

ミゴールが呪文のようなものを唱えた瞬間に、ミシェルの体に異変が起きた。

「あ゛あ゛あああああああああああ!!!!!!」

(痛い・・・熱い・・・!はち切れる!!!)

セインにも同じ事が起こっていた。体に湧き上がる体が張り裂けそうな痛みと、ふつふつと血が煮えたぎるような熱さが続いた。

「あぐ・・・うがっ!」

体は石のように固まって、動けない。ミゴールは手を首へと持っていき、最後に唱えた。

「この者には、シンフルアクトを」

言い終え、手を離すとミシェルとセインはうずくまった。

「はあっ・・・はあっ」

息が切れて何も言えない。顔は汗でべっとりと濡れていて、呼吸をするので精いっぱいだった。

「大丈夫かね?」

ミシェルとセインにミゴールは声をかけた。

「だ、大丈夫です」

「はい・・・。平気です」

やっとの思いで返事を返す事が出来た。

「そうか・・・。良かった」

ミシェルはセインに顔をむけると、セインはミシェルの首元を指さしていた。

「ミシェル様、その刻印は・・・・?」

ミシェルは何を言っているのか分からなかった。首を傾げ、ミゴールを見た。

ミゴールはにっこりと笑って、部屋のドアを開けた。

「一休みをしてから、君たちに説明しよう。・・・紅茶でも用意しようかの」


紅茶の良い香りがセインとミシェルの気を落ち着かせた。二人は一口、それを飲むと体の底から、体力が回復してくるような、そんな感じがした。

「少しは落ち着いたかね?」

ミゴールはクッキーの缶とキャンディーを持ってくると、テーブルの上に置き、一つキャンディーをつまんだ。

「さて、ミシェル君の首にあるその刻印は、罪人・・・シンフルアクトを持つ者に付けられる」

「僕の首に刻印が・・・?」

「うむ」

ミシェルの首には確かに、十字架に羽が絡まっている刻印が付けられていた。ミゴールはキャンディーの包み紙を剥がしながら、続けた。

「シンフルアクターは罪人にとっての裁き人、つまり君の場合、セイン君に許可をもらわなければ使えない。そして、君の罪は・・・」

胸のポケットからカードを取り出し、それをトン、とミシェルの額に当てた。すると、カードに男の子が小さく写り、頭からは何か、白いもやの様なものが出ていた。そしてその子の手には槍。

「・・・『忘却』じゃの。君のシンフルアクトは『忘却槍』じゃ」

「忘却?ミシェル様が何か、忘れていてそれが罪だと?」

セインは眉を寄せた。

「ふうむ。わしには何とも言えん。己の罪は己で見つけ、償うものじゃからの。他者には他者の罪は分からない」

「己の罪・・・」

ミシェルは呟いた。

(僕は何を忘れているのだろう?どうしてそれが罪なのだろう?)

「罪を見つけるって、一体どうやって?」

「ある人物は突如思い出し、ある者は人から自分の罪を聞かされ、償った。色々な方法で見つけた。しかしそれは決して、偶然ではない。神が運命の中に人を正す為に組み込んだ『必然』な『偶然』なのじゃよ。じゃから必ず、いつか、そして思いもよらない方法で分人間は己の罪を分かってしまうのじゃよ。それは実に残酷じゃ。じゃが、それが罪人にとって幸福なのかもしれない。まさに神がわし等人間に仕組んだ、とんでもなく残酷な幸福なのかもしれんの。・・・・悲しい事にな」

ミゴールは口の中にキャンディーを入れると、口の中で転がした。ミシェルは紅茶をまた一口飲むと、ふと、ある疑問が浮かんだ。

「あの、先ほどの千年前の『血塗られた大虐殺事件』で質問があるのですが・・・」

「ふむ。聞こう」

「何故、レイチェル・ソルシアーナを復活させるのにこんなにも、時間が掛かるのでしょう?」

「・・・・・・」

「ひょっとしたら、レイチェル・ソルシアーナの復活には何か、必要な物があるのではないのですか?」

(でも、それだけじゃない。それだけだったら、こんなにも時間はかからない筈だ。他に何かがあるのかもしれない。僕のパーティーでの事件も、父さんの事件も何か関係があるとしか思えない。待てよ?もしかして・・・)

「ミゴールさん。これは僕の、あくまで僕の予想ですが、レイチェル・ソルシアーナと僕は何か関係がるのでは無いのでしょうか?」

ミシェルはミゴールを見つめた。ミゴールは一瞬、目を見開くと、突然何かを思い起こしたように立ち上がり、バッと本棚の中をあさり始めた。本をバサバサと床に落としていく。

「ミゴールさん?」

セインは心配そうにミゴールを見つめた。無理もない。なぜなら、狂ったように本棚をひっかきまわし始めたのだから。しかし、ミシェルにはその意味が分かっていた。これから来る真実に覚悟を決めて・・・・。



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