:box3 罪の玩具:
道化師はサーカスを操り、プログラムの第一章が始まる。
道化師は嗤う。このサーカスを止める事は出来ない―。
生き残るためには自分の顔に仮面を張り付けろ、と。
そして、自分の罪に裁きを下せ。
人には必ず罪がある。裁きを下される者には「死」を。
下すものには「罪」を。
それぞれの歯車は未だ、廻ったまま―。
「此処か・・・・」
ミシェルとセインはミゴールある建物の前に馬車から下りた。
「お気を付けて行ってくださいませ。ミシェル様、くれぐれも礼儀には―」
「気を使うように、でしょ?」
ミシェルはマローににっこりと笑って、足を進めた。セインもミシェルについていく。
マローはそれを見送った後、馬車を進めるように前の人物に話しかけた。
「馬車を進めてくれない?クウェイス」
クウェイスは頷くと馬車を進めた。
「良いの?ミシェルにシンフルアクトを身につけて。命が縮んじゃうんだよ」
クウェイスの隣に座っていた、エミリーは言った。エミリーは飴を舐めている。
「知らないわよ。リリアンが言ったんですもの。理由は言わなかったわ」
腕を組んで、ドアの小さな窓から見える景色を見た。
「何で突然あんな事を・・・。計画には無かったのに」
そう呟くと、エミリーは空を見上げて、マローにほほ笑んだ。
「きっと、リリアンにも事情があるんだよ」
「・・・・事情ね」
(それなら親友の私にも言ってくれたって)
「ま、良いわ」
ぱっと髪を払った。
パカパカと馬車は進んでいった。
一方、ミシェルはミゴール警察署の受付で揉めていた。
「だから、ミゴールさんに会いたいの!」
ミシェルは受付の男の人に怒鳴った。
「ですから、予約された人しか会えません。それに今はミゴール様は外出して不在です」
「あ、あの、ミシェル・セルカールで予約をしたのですが・・・」
セインはモゴモゴと口を小さく動かして、抗議した。
「予約リストには書かれていませんが」
「そんなはず無い!!よく探して!」
ミシェルは大きな声で怒鳴った。その時、肩をポンと誰かが手を置いた。
「そんな大声で叫んでは、皆が驚くじゃろう?坊や」
振り返ると、白い髭を生やしたおじいさんが笑ってミシェルを見つめていた。
「ミ、ミゴール様!!」
受付の人は叫ぶと、周りの人々はお辞儀をした。
「貴方がミゴール・ヴィグレットですか?」
ミシェルは振り返って、きいた。ミゴールと呼ばれた人は頷いた。
「いかにも。して、なぜこんなにかわいらしい坊やがいるのかな?迷子かい?」
ミシェルはちゃんとミゴールと向き合った。そして、軽く会釈をした。
「ミシェル・カルセールです。貴方と話がしたくて、来ました」
「カルセール・・・・。ああ!君はルーカス公爵の息子かな?」
ミゴールは手を差し伸べ、握手をした。
「こんな所でお会いするなんて思わなかったよ。・・・お父様の事は誠に残念だ。しかし、気を確かに」
優しくほほ笑まれ、ミシェルは頷いた。セインに目をやり、ミゴールにセインを紹介した。
「こちらはセイン・ファルータです」
その時、ミゴールの顔がピタッと止まった。
「セイン・ファルータ・・・?」
「・・・・?」
セインの顔をまじまじと見つめた。セインは思わず、後ずさりをする。
「はて?どこかで聞いたような名前だったんじゃが・・・。思い出せんのぅ」
ミゴールは首を傾げ、しばらく考え込んでいたが首を振るとミシェルとセインに笑いかけた。
「駄目じゃのぅ。この頃、どうも歳でいかん。まあ、その内、思い出せるじゃろう」
そういった後、受付に言った。
「この二人はわしの部屋に連れてゆく。署名に記入しといてくれ」
「し、しかし、予約リストには・・・」
「ほっほっほっ。たまには突然の来客も悪くなかろう。皆の者、持ち場に戻りなさい」
ぱっと人がまばらに動いた。ミシェルとセインはミゴールに連れられ、部屋に辿り着いた。
ミゴールは紅茶とケーキを持ってくると、二人を椅子に座らせた。その向かいの椅子にミゴールも座った。
「さて、話とは?」
「僕の継承式が終わった後のパーティーで赤い服の者たちがいきなり、襲ってきた事件をご存知ですか?」
「もちろん。それをルーカス公爵の事件とともに、調べておる」
「それは何か、関係があるとお思いで?」
「左様。君の周りで二件も事件が続いておるのだ。関係が無いとは到底、思えん」
ミゴールは紅茶に、ミルクを入れ、一口飲んだ。セインはモゴモゴと口を動かし、言った。
「そ、れで、その僕たちもその事件を調べたいのです」
ピタッと、ミゴールの動きが止まった。ミゴールは真剣な顔で二人を見つめた。
「君たちはまだ、若い。この事件に関わっていたら、危険な目に遭う」
首を振り、ミシェルに告げた。
「この件には深く関わらない方が良い」
「でも、ルーカス様の死因が知りたいんです!」
「ここまで言っても分からんかね。危険だと言っておるんだぞ?」
駄目だ、とミゴールが言おうとした時、黙っていたミシェルが口を開いた。
「危険な目にはもうとっくに遭ってます。それに今更、関わるなって、既に関わってしまっているんです」
ミシェルは真っ直ぐにミゴールを見詰めた。
「覚悟は出来てます。生半可な気持ちでこんな所にいるんじゃないんです」
セインも頷いた。先ほどのモジモジした顔は無く、目は真剣にミシェルと同じようにミゴールを見つめている。ミゴールは暫く、二人の顔を見つめた。そして、ため息をつくと、
「はあ。若い者には敵わんの。じゃが、その目は立派じゃ」
ふっと笑顔を見せた。
「よかろう。君たちにはミゴール警察署と一緒に調べてもらう。君たちを全面的にサポートしよう」
二人は笑って、お互いを見合った。しかし、ミゴールは真剣な顔に戻ると、ミシェルを見つめた。
「しかし、この件に関しては少し、特別じゃ。君らのどちらかは『シンフルアクト』と契約してもらう」
「シンフルアクト?」
首を傾げ、ミシェルはきき返した。
「うむ。シンフルアクトは人の罪を形にしたものじゃ。それは武器として扱う。じゃが、シンフルアクトを扱う者は裁き人によって、使うたびに命を削られる」
「け、削られるって!」
セインは立ち上がり、怒鳴ろうとした。それをミシェルは止めた。
「セイン。ミゴールさん、続きを」
セインは仕方なく、座り、ミゴールは頷いた。
「これが赤い服たちから守る、一つの方法じゃと思っておる」
「それは赤い服たちはただ者では無いとおっしゃりたいんですね」
セインは目を見開き、あの時の事を思い起こした。
「サーカスの始まりって・・・」
セインは小さく呟く。それは二人には伝わらなかった。ミゴールは続けた。
「昔の歴史書を見ると、およそ千年前、レイチェル・ソルシアーナという女性がパールという町で大虐殺をおこなったと言われている」
「あの千年前の『血塗られた大虐殺』事件ですか?」
ミシェルはきいた。ミゴールは頷き、続ける。
「その時に今回の事件と同じように赤い服を着た者たちがレイチェルと共にいたという」
「え・・・?」
「千年前の人がまだ生きていて、僕たちを狙っていると?」
「それだけではない。レイチェルはセトリック教会の神父たちの手によって死亡したが、赤い服たちは生き続け、またレイチェルを復活させようとしている」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ミシェルは立ち上がった。
「千年前の人たちですよ?生きている筈がない!きっと誰かが千年前の真似をしようとしているんだ!」
ミシェルは動揺していた。
(千年前の赤い人たちはどうやって、生きてきたんだ!?)
ミゴールは写真を取り出し、本棚から一冊の本を取り出した。座るとページをぱらぱらと捲っていく。
「これじゃ。これらは赤い服たちの当時の写真が載っておる。そして、これは最近入手したものじゃ」
そこには緑の髪の男の写真が載っており、下には名前が記入されていた。
「クウェイス・ハロン・・・?」
「うむ。そして最近の写真」
「―!」
そこにはクウェイスと同じ顔の男が女の子と手をつないで歩いているところが映っていた。
「そんなバカな・・・」
セインは言葉を失った。ミシェルは黙って、その写真を真剣に、見詰めた。
「何かの力によって生きながらえたんじゃろう。これで分かったじゃろう?シンフルアクトと契約を交わすしかない。どちらがシンフルアクトと契約するかの?」
最後に二人にきいた。セインはごくっと唾を飲み、口を開こうとした。
(僕が、ミシェル様を、ご主人様を守るんだ!)
セインは決心をし、口を開こうとした。その時だった。
「僕がシンフルアクトと契約する」
ミシェルが真剣なまなざしで、ミゴールに言った。