サヨナラを二度あなたに告げる
なかなか個人的には気に入っています。
では、どうぞ!!!!!
「嫌だよ!!」
「あなたと別れたくなんてないよ!!」
これは、俺の最愛の女性が言ったセリフ。
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――俺は、彼女に「さよなら」を告げる。
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彼女の24歳の誕生日。
その日、俺は彼女と2人、近所のバーで飲んでいた。
ここは、俺達のよく来るデートスポット。
何しろ、ここは飯がうまい。
そして、店内がオシャレなのもお気に入りの理由の1つだった。
その日も、いつものように《日替わりコース5千円》というものを頼む。
そして、そんなコースも終盤に差し掛かったところで、俺はポケットに隠し持っていた指輪をテーブルの上に置いた。
そして、俺は大好きな彼女に言う。
「俺と結婚してくれないか?」と―――――
彼女とは大学1年に出会った。
それから、6年の歳月が流れ、俺は結婚を申し込む。
彼女と付き合うことになったのは、俺のもうアピールが原因。
それはというと、俺が彼女に一目惚れをしたから…。
『俺が愛せるのは彼女しかいない』と思ったからであった。
そんな感じで交際を始め、結婚を申し込み、日ごろの行いがよかったためか、「いいよ、結婚しても」と彼女は言ってくれた。
こんなに嬉しい事が、他にあるだろうか?
心の底から好きな人と付き合えて、そして結婚できるなんてことがあるだろうか?
俺には生きた人生の何処を探しても見当たらない。
彼女と出会えた軌跡。 彼女と歩めた軌跡。
彼女と寄り添った軌跡。 彼女と、、、
このすべてが俺にとっては重要で、俺にとってはすべてだった。
しかし、そんな人生が崩れ始めたのは、、、
そんな幸せな人生が崩れたのは突然だった、、、
ある日、俺は会社の定期健診で病院に行った。
いつも健康診断に行ったところで、「健康で何も言うことなんてないですよ!」と笑いながら医者が言うので、この日も『大丈夫だろう』と心のどこかで思っていた。
だって、何も俺には痛みとかそういった感情が出てなかったのだから…。
誰でも普通の病気なら〈痛いから、どこか悪いのかな?〉〈なんだか怠いな、熱でもあるのかな?〉そういった感情が働くだろう。
しかし、俺のように何も感じずに、突然「余命3ヶ月です」と言われたらどうだろうか?
まだ、愛する人だっているというのに…。
まだ、やらなきゃいけないことだってあるのに…。
俺には生きる意味が見えなくなった。
―――――◆―――――◆―――――◆―――――
そうして過ぎた、彼女との1週間。
彼女には何も言えなくて、ただある思いが俺を強く打った。
『彼女には“幸せ”になってもらおう』という思いが…。
俺はその思いに導かれるままに、彼女を自分の家に呼んだ。
そもそも、俺は彼女とまだ籍もいれていない。
俺が彼女に結婚しようと言ったのは、約1ヶ月前。
だが、彼女も、そして、俺も、どちらも忙しい身だったので、結婚をするということは決めていても、実行にまでは移せていなかった。
しかし、それが不幸中の幸いであった。
なぜなら、俺は彼女をバツ1にしたくなかったからだ。
彼女を今から“振る”ということは、彼女をそういう状態にするということだ。
俺は彼女に、そんな重荷を背負わすことなんてできない。
俺には彼女を幸せにするという“天命”があるのだから…。
そう思い、俺は彼女を自宅に招いた。
そして、俺は彼女をリビングに誘い、席に座り、向かい側の席に彼女を座らせた。
「どうしたの?」
「こんな風に改まっちゃって…?」
そう、彼女が口を開いたので、俺は迷いをどこかに消し飛ばし、覚悟を決めて彼女に言った。
「別れよう…」
「もう、俺はお前を支えることはできない」
すると、彼女は笑った。
それも、腹を抱えて…。
彼女がなぜそんなことをしたかというと、彼女は俺の話を“冗談”だと思ったから。
だが、少ししてから、彼女は俺の様子を見て、何かの“異変”に気付く。
『なんで、笑わないの?』
『もしかして…?』
『もしかして、本当は冗談なんかじゃなくて、、、』
『本当は、、、』
そして、彼女は叫んだ。
「嫌だよ!!」
「あなたと別れたくなんてないよ!!」
「嘘でしょ?」
「私と別れるなんて!!」
「お願い…」
「お願いだから、嘘だと言ってよ!!!」
「なんでなの?」 「なんで突然?」
「あなたが結婚してって、この前言ったんでしょ?」
「あれは嘘だったの?」
「他に好きな人ができちゃったの?」
「ねぇ!黙ってないで、答えてよ!!」
―――――◆―――――◆―――――◆―――――
俺は、彼女にビンタをもらった。
そして、大きな愛も…。
彼女の愛は、俺達の仲では大きすぎた。
大きすぎたんだ。
俺も愛情を、彼女に注いだはずだった。
だが、俺の愛情よりも彼女の中にあった想いの方が大きかった。
『くっそ!!』
『くっそぉぉぉ!!!』
叫びにならない想いを、俺は心で叫んだ。
彼女は俺の言葉を聞いて、泣き、叫び、そして指輪を置いて部屋から出て行った。
『これでいいんだ…』
『これで彼女は“幸せ”になれるのだから…』
俺はそう思い、彼女が部屋を出る時に言った、「しばらく、顔も見たくない!」「さよなら!!」という言葉を、心の中で“グッ”と噛みしめて思った。
俺の人生の何もかもが、崩れ落ちる。
俺の人生の何もかもが、崩れ落ちていく。
人は“幸せ”という渦の中で生きれば、それに報いるように“不幸”の谷へと落ちていくものだ。
俺はそう思った。
―――――◆―――――◆―――――◆―――――
しかし、《余命3ヶ月です》という言葉は、真にはならなかった。
俺の容体は急変し、彼女と別れた6日後、俺は入院することになった。
希望は見つからず、自分でも“自分が終わる”ということが分かった。
《命の最後》というものだろうか?
そして、俺は意識が朦朧とする中で、夢を見た。
その夢の中で、俺の隣には彼女がいて、その2人の前には小さな小学生になるかどうかという年頃の女の子がいた。
多分、病気にならなかった時の人生なのだろう。
それは、俺には歩むことができなかった人生なのだろう。
俺は最後に笑った。
いいや、最後なんかじゃないのかもしれない。
これは始まりで、新しい人生が始まるだけなのかもしれない。
俺は彼女を心に描き、『ありがとう』と『さよなら』を告げる。
そして、彼女に告げる。
『あなたが幸せでありますように…』と―――――