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問題の家

もう少し、コンパニー会長さん目線の状態が続きます。

 道中襲ってくる者がいないか(!)など、いろいろ心配はあったが、ミスターの運転する車に乗ったコンパニー会長は、無事にスカーレット氏の家にたどりついた。

 車を降りると、あたりは、2人が拍子抜けしてしまうほど静かであった。


「静かですな。」ミスターが言った。

「そうだな。まるで何も起こっていないかのようだ。」

「もしだれかいたらどうします?始末しますか?」ミスターの目が鋭くなった。

「ミスティーのためには仕方なかろう…おや、だれか来るぞ、ブローディーかな。」


 2人の車に近づいてきたのは、ミスターの部下のブローディー。堅い表情で部下を統率するだけでなく、もし喧嘩沙汰になったとしても十分対応できる体力も備えた人物だ。不測の事態に備えて、事件の一報を聞いてすぐに、数人の仲間を連れて守りを固めに来てくれていたのだ。


「ブローディー、御苦労であった。何もなかったか?」コンパニー会長が聞いた。

「何もないわけございませんが、我々が着いた時には、奴らはもう引き揚げた後のようでございました。

確かに、面白いほど静かではございますがね。」

 この暑いのに、相変わらず堅めの服で身を包んだブローディーは、家に目をやりながらそう言った。

「そうか。」


 コンパニー会長一行が話しながら玄関に着くと、中から扉が開き、恰幅の良い体格で、会長達と同じくらいの年齢としの女性が出てきた。

「オリーブ夫人、そなた、いてくれたのか!」

 コンパニー会長は、よしみの女性を認めると、ほっとしたように言った。

「会長、会長、ああ、やっと来てくださったのでございますね!もう、それはそれは、大変なことになってしまいまして…」

 中から出てきたオリーブ夫人は、主婦のいないこの家の手伝いをするためにしょっちゅう出入りしており、もちろんブローディーやミスターの一味だ。

「大変なことになったな、オリーブ夫人。」

「はい、それはもう、ひどい目に遭いました。さあ、中にお入りくださいまし。」


 オリーブ夫人に導かれ、家に入った3人は、言葉を失った。

 玄関すぐのリビングと、そこに続く台所は、どこもかしこも荒らされてしまい、見るも無残な様子になってしまっている。

「これは…」百戦錬磨のブローディーも、なかなか言葉が出なかった。

「家宅捜索と称して、それはもう、荒らし放題に荒らしていったのでございます。」説明しているオリーブ夫人は、半泣きになってしまっている。

「さぞかし、いろいろと持って行ったことでしょうな。」ミスターも、平静を保とうと必死になっているかのようである。

「はい、それはもう、ミスティーさまのお部屋まで入ってきまして…」

「そうだ、ミスティー!!ミスティーはどうしてる?」最も重要なことを思い出したコンパニー会長が叫んだ。

「無事でございますとも!隠し部屋にお隠れです。」

「隠し部屋!?いつの間にそんなものを?」親友のコンパニー会長でも、その存在を知らなかったらしい。

「こういうこともあるかと思って、用意してあったのですわ。ミスティーさまと、ごくごく何冊かの書物だけが、無事でいらっしゃるはずでございます。」

「そうか。それはよかった!会わせてはもらえんか?」

「もちろん、ご案内いたしますとも。」

 オリーブ夫人に連れられて、コンパニー会長、ミスター、ブローディーは、階段を上がっていった。




 一行は2階に上がった。2階のどの部屋もひどい状態であったが、とりあえず子どもスカーレット氏の娘、ミスティーのための部屋へと向かう。

「この部屋も大そう荒らされたようですな。お気の毒なことに。」ミスターが一番につぶやいた。

 8歳の彼女が何を疑われたのか、部屋は憲兵達にすっかり荒らされてしまっている。

「まったく、ひどい話だ。して、ミスティーはどうした?」

「まあまあ、焦らないでくださいまし。大丈夫でございますからね。」

 オリーブ夫人はそういうと、ミスティーの使っている小ぶりのベッドの布団やマットレスをどけると、四隅に枝のようなものを差しこんだと思いきや、寝台の“すのこ”を取り外した。

「このすのこを外すのには、ドライバーの代わりに鍵が必要になりますからね、幸いにもばれずに済みましたよ。」

 オリーブ夫人は得意そうに言った。彼女自身は特に調べを受けなかったので、細長い鍵を隠し持っていることが分からなかったのである。

 そしてベッドにできた空間の中に入ると、カーペットをめくっていく。

「ほう、外せるのか…おや?」


 コンパニー会長、ミスター、ブローディーは、カーペットの下から現れた扉を見て驚いた。ついに隠し部屋の登場だ。

「ベッドがあり、カーペットがあり、なかなかこれには気付かないでしょう?」

 オリーブ夫人は少し元気を取り戻し、得意そうだ。

「しかし、入るのも大変そうではないか。」

「普段は、すぐ入れるようにこの部分のカーペットはめくってあるし、すのこだって鍵をかけてないんですよ。掃除もしなくてはなりませんからね。」

 オリーブ夫人は何でもないことのように、コンパニー会長に答えた。


「さあ、この下です。」オリーブ夫人は続いて、床の扉の鍵を開けにかかった。

「ミスティーさまぁー、お待たせいたしました。コンパニーのおじさまがいらしてくださいましたよ。いま開けますからね。」

 そうして声をかけると、重たい扉をゆっくりと持ちあげた。

「ミスティー、大丈夫だったかい?」

 コンパニー会長はたまらずに、扉の中に向かって声をかけた。

 すると、父親譲りの大きな瞳を持ち、母方譲りの茶褐色の滑らかな髪を2つ結びにした少女が、恐る恐る顔を出してきた。

 彼女こそ、スカーレット氏の1人娘、ミスティー・スカーレット。

「おじさま…コンパニーのおじさまなの?」

 それこそ生まれる前から会長と知り合いのミスティーは、彼のことをおじさまと呼んでいる。

「そうだよ。助けにきたんだよ。」コンパニー会長は優しく言った。

「おじさま…怖かったわ!!」

 ミスティーはコンパニー会長に飛びつき、わあわあと泣いた。


 コンパニー会長とミスティーが再開を果たした、その時。

「大変、まただれか来たようですよ!」

 ブローディーの声で、大人全員が我に返った。

「だれだ?」

「警察関係者のようです。ですが…人数は、2人だけ。少ないですね。とても家に押し入ってくる感じじゃない。一体何でしょう。」

 彼らに見つからないように外をうかがっているのは、ブローディーだ。子ども部屋は幸か不幸か、玄関のすぐ上に位置している。

 全員、外から見えないように窓のすぐ下に座り込み、様子を見てみることにした。


ドンドンドン。扉を叩く音がする。

「あのー、スカーレットさーん、どなたかご在宅ですかー?」 

 玄関から声が聞こえてきた。

「今度はだれなの?」ミスティーはすっかり怖がっている。

「居留守を使おう。押し入ってくるような雰囲気じゃない。」

 コンパニー会長が、胸にミスティーをしっかりと抱きしめながら言った。

 ブローディーの部下達には、強引に押し入ってくるような感じでない限り、部外者に手を出さないように言ってある。無用のいざこざを避けるためだ。

 このまま、接触しなくて済めば、一番いい。


 応答がない、と判断してくれたらしく、玄関の奴らは、それ以上は声をかけてこなかった。その代わりにゴトリ、と玄関先で音がした。

「今の音は…郵便受けか?」数秒待ってから、会長が静かに言った。

「そのようですよ。あの2人連れ、帰っていきますね。もう車が出て行きますよ。」ブローディーはずっと外を見ていた。

「じゃあ、行ってみるか。」

 ブローディーの言葉を合図にしたかのように、会長以下全員が玄関へと降りて行った。




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