第一話
ヘロ一行が魔王を倒した旅から10年が経過した。
ヘロとスクは、旅の初めに訪れた草原にもう一度、やってきていた。
ヘロは丘にのぼり、そこにあった小さな岩に腰掛けた。
「ほら、ここ座って。」ヘロは隣にあった岩を指さしながら言った。私の方になめらかな方を座らせる。あいつはそういうやつだ。
「呼びだしちゃってごめんな。忙しいだろ?」
「いいや?のんびりさせてもらってましたよ。」
答えた私は隣に座り、彼の横顔を見た。
そこには、強い決心と、底知れぬ不満足さを醸し出していた。
「なにジロジロ見て?なあ、あそこの平原見えるだろ。俺はな、あそこに国をつくりたい。」
「急にどうしたんだよ。あんな大きな目的を達成したのに、またすぐできるのか?かなわないな。」
不意打ちであったし、大きな目標であったが、驚きはしなかったし、心の中で秘めていた興奮が少し漏れ出てしまった。
「お前には、子供の時から付き合わせてきたよな。今回も頼む、力を貸してくれないか?」
「またですか。いいですよ、200年に一度の勇者さん?」
これまでに彼と何回このやりとりを繰り返しただろうか。
私は、そのたびに彼についてきてよかったと思わされているのだ。
次の日から、私たちは国づくりを始めた。これまでの人脈、資金、そして名声、この国を繁栄させる要素はいくらでもあった。私たちはそれらを惜しみなく、かつ存分に費やし、外国に負けないほどの大国へと成長させることに成功した。
町の景観も変わるほどの月日がたち、私は今日、相談室に行く。
燃え尽きる寸前のような色のレンガ造りの建物をめがけて、町の中心へと歩き始める。
私は町に溶け込んでいく。予定より早く着き、冷たい大きな扉の前で、ひらくのを待っていた。ガードに声をかける。
「すみません。こんにちは。ヘロとの予定でやってきました。」
「おぉ。スク様じゃねぇか、今すぐ開けますよ。」
「もう!そんな呼び方するのは、あなたたちガードだけになっちゃったよ。」
「いいじゃねえか。この国。そして、この仕事を与えてくれたのは、おまえさんたち、ヘロ一行なんだからよ。」
「それにしても、よく私だとわかりましたね。かなり昔でしょう?会ったのは。」
「スク様は、匂いが独特だからな。神の匂いっちゅうか、とんでもなくいい匂いなんだよ!」
「ありがとな。あんまり言われたことは無いけど。」
「忘れちまってるだけだろ。」
低い声を背に、奥へと進んでいく。
「ヘロの匂いとかおもいだせないな。」
あいつは元気にしてるだろうか。
忙しいという噂をよく聞くんだが。
重々しくも豪快な観音開きの扉の前で立ち止まる。
そばに立っているメイドさんが開けてくださった。
<ぎいぃぃー>音を鳴らしながら開いた扉の先に彼はいた。
「おぉ!よく来たな。スク。ほら、ここに座って。」
明らかに、ヘロが今立ち上がった椅子より良さそうなソファに導かれる。
「今日はどんな用件で?」
沈黙をつくらせまいと彼が質問してきた。
「なあ、ヘロ?俺たちは、’’感謝’’を忘れてないか?」
「カンシャ?」
「おまえが、この国を建てることを決心したあの日から、いったいどれほどの人数に、そして誰に、感謝を伝えた?」
「あぁ。ありがとう。教えてくれて。」
なんだそれは、と私は思った。しかし、口にはださなかった。
「どういたしまして。でも、まだ話は終わってないよ。」
「おう。なんだ。言ってみろ。」
「つまりだな。俺らで、’’旅’’をし直そう。いいや違うな、’’新しい旅’’をしよう。」
「そういうことを、次はスクが言うようになったか。」
確かに、言われっぱなしだったからよかったのかもしれない。
「いままで出会った人々に、もう一度’’会いにいって’’感謝を伝えよう。」
「それじゃあ質問だが。国の運営はどうするんだ?」
「大丈夫だ。」
「わかった。」
「なあヘロ、誰のところに行きたい?」
昔の旅を思い出すようなテンポでの会話。
「そうだな……まずはリサかな、彼女には何度も助けられた。」
「そうしようか。明日の朝ここで集合でいいか?」
「ああ。」
もっていかなくちゃいけないもの。
あのとき返せなかったもの。
次の日。
「おはよう。スク。よく寝れた?」
「ああ。ばっちりだ。」
馬車の運転手がこちらを何度も見てきている。
「それはよかった。じゃあとりあえず、馬車に乗るか。」
少し車高の高いタイプだ、旧式かな。
—背の低い魔物から攻撃されないよう、少し高く作られていたのだが、魔王を倒して以降、魔物はすがたを表さなくなったため、絶版となった。—
「そうだな。そういえば、リサの故郷って知ってるのか?」
「覚えてないのかよ。スク。あのとき、リサが話してたのを。」
「あのときって?」
馬車の振動に懐かしさを覚える。
「みんなで、洞窟に閉じ込められたときだよ。あれ?あのときってスク起きてたっけ?」
「ああー。もしかして、テュラカン洞窟?あのとき、めっちゃ眠くて、すぐ寝ちゃったな。」
「あそこは、空気が悪いからな、僧侶だとそういうのに敏感で疲れたんだろうな。」
「それはおいといて。結局どこなんだよ?」
「ごめんよ。それが意外とここから近くてさ、馬車で4時間。」
ヘロは四本の指と甲を私に見せながらにやにやとしながらいった。
そして私には一つの国が思い当たった。
「まさか。」
「そのまさかだよ。」
「ウツバ公国か。」
「そうだよ!」
ウツバ公国は、輸出というよりは、人の移動によって有名な国だ。
前にも立ち寄ったことがあるが、実はごはんがめちゃくちゃおいしい。
「飯がうまいところだな。ほんといいところだよ。」
「へぇそうなのか。行ったことはなくてさ。」
そこから私たちは、ウツバ公国に期待を寄せながら、思い出話に浸った。
―——いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「すみません。着きましたよ。お客さんたち。」
運転手の声で目が覚めた。
「ありがとうございます。」
「おい。起きろヘロ。」
「んっ、なんだよ。」
「見ろよ、これはすごいぞ。」
「おお。おぉ。」
目は離さず、4時間ぶりの地面に降り立つ。
「ありがとうございました。」
「どうも。」
馬車の走り去る音と引き換えに、目の前に広がるのは、一面の木。川。その入り口に私たち。
「草原の一角に森林か。いつ見てもこれはすごいわ。」
「あぁぁ。」
「すごすぎて声も出ないか。」
「絶景だな。」
「あそこが入り口か?」
「そうだろうね。」
大きな木たちがここが入り口であると、明らかに主張しているところを見つけた。
門番たちの被っている鎧も、木でできているように見える。(明らかに木目がある。)
「スクが行ってきてくれないか。俺あんまり得意じゃないだろ、こういうの。」
「わかったよ。ここで待ってな。」
少し後ろにヘロを待たせておいた。会話は聞こえないだろう。
「こんにちは。ウツバ公国へ入国したい者なのですが。」
少しだけ門番の顔が動く。
「入国証はもってるのか?」
ヘロを手招きして呼んだ
「おい。ヘロもってるのか。入国証。」
「え?持ってないけど。」
「どうやって入ろうとしてたんだよ。」
私たちが言い争っていると、突然—
「もしかして、ヘロさんでありますか?」
門番が私には見せなかった、表情と声色で話しかけた。
「あぁ。そうだけど。」
「後でサインもらってもいいですか?」
「でも、入れないからなぁ。」
「どうぞどうぞ、お入りください。お連れの方もよろしいですよ。」
内心ちょっときたけど、入れたから許す。英雄パワー恐るべし。
「一個質問してもいいか。」
「何なりと。」
「あのさ、君たちの鎧って木でできてるの?」
「はい。ですがそこらの木とは違いまして、鋼のような硬さと、絹のような動きやすさ、肌触りを持っているのですよ!」
そんな木をどうやって手に入れているのだろうか、など質問はあふれるばかりだった。
「ありがとな、入れてくれて。名前なんて言うんだ?」
「ハギトでございます。」
「いい名だな。」
多分ハギトは私を知らないんだろう。’’一応’’勇者一行なのだがな!
「結局宿まで用意してもらって。至れり尽くせりという感じで。って、なんかスク怒ってないか?」
「別に怒ってませんが。おいしいものでも食べに行きましょう。」
「来たことあるって言ってたが、いい店知ってるのか?」
「とっておきの店があります。」
いくつなのかわからないあの婆さん、うますぎるご飯を作るんだ。
ありがとうございます。




