なんてことのない朝、突然婚約破棄を告げられまして……? ~幸せの形は色々ですね~
「おはよう、カリー」
「ああ、おはよう、ルシレリア」
私ルシレリアと彼カリーは婚約者同士。
深く愛し合っているかと問われればはっきりしないが、付き合いの長さはそこそこ長く喧嘩もないので、なんだかんだで仲良しなのだろう。
恋人よりかは友人に近い、そんな関係。
それでも、変に気を遣うことなく関われる関係ではあるので、居心地は悪くない。
「パン、どれする?」
「そうね……レーズンにしようかしら」
「オッケー」
「二個にするわ」
「はーい」
こうして共に朝食をとる時でも何も気にせずただひたすらに自然体でいられるのは、きっと、これまでに築いてきたものがあるからこそなのだろう。
「「いただきまーす」」
なんてことのない平凡な朝。
これからも続いていくはずだった。
……しかし。
「ルシレリア、君との婚約だけど、破棄することにしたよ。関係はここまでにしよう」
「えっ」
「そのままの意味だよ。婚約は破棄。悪いけどもう決めたことだから、何を言っても変わらないよ。決定は絶対だから」
「何を、言って……」
「今までありがとう。それは言うよ。お世話になったことは事実だし」
カリーはそう言って柔らかく笑う。
「でも、もっと素敵な女性に出会ったから。もう自分に嘘はつけないよ。だから、さよなら」
すっとした、とでも言いたげな顔をして、彼は私との繋がりを躊躇うことなく断ち切った。
◆
婚約破棄から数日後、カリーは住んでいる家の近くで馬車に当たられ負傷。
家族がすぐに気づいて対応したため速やかに病院へ送られたのだが、残念なことに既に手遅れであった。
素敵な女性に出会い、その人のために婚約者を切り捨て、自身が望む道へ歩み出そうとしたカリーだったが、呆気なくこの世を去ることとなったのだった。
婚約破棄していなければ事故は起こらなかったのか?
あるいはあのままでいても事故に巻き込まれたのか?
そこは誰にも分からないけれど。
ただ、彼が望んだ未来は訪れず、命を失うこととなったのだった。
◆
「あーもー、ルシレリア、可愛すぎるぅーっん!」
あれから三年ほどが経った。
私は今、乙女な心を持った青年と同じ家に住み、平和な生活を楽しんでいる。
「あ、ありがとう……」
「でね? 作ったの! カップケーキ! 食べてくれるぅん?」
「いただくわ」
「やっふふぉぃぃーっん! 嬉すぃすぎるぅーっ! じゃ、持ってくるからね、そこで待っててねっ」
愛し合っているわけではないけれど仲良し。
そういう意味ではカリーとの関係との共通点もあるのかもしれない。
けれども、もう二度と、あんな失敗はしない。
裏切られたからこそ見える世界があるから。
今度は必ず幸せになってみせる。
単純な夫婦という形ではなくてもいい、どんな形でも構わないけれど、たとえどんな状況にあろうとも幸せな日々を掴み取ってみせる。
「はいっ、これ! チョコ味とぉ、いちご味とぉ、紅茶味とぉ……どーれにっするっ? 選んで選んで!」
「じゃあチョコ味を」
「はーい! じゃ、これねっ」
「上のカラフルなのが素敵ね」
「やったぁ! 褒められた! それね。実はこだわったの。だからぁ……褒められてとーっても嬉しいの!」
小さな楽しさを集めて、幸せな日々をより確かなものにしていこう。
過去の出来事。
残念だったこと。
すべてを糧にして、今日を生きる。
「美味しいわ!」
「ほんと!?」
「ええ、とっても。良い味。甘すぎないし、でも優しい味だし、素敵」
「うわーっ、んもぉーっ……やったぁ! 最高だわぁ! やったやったやーったたったたたぁーっん!」
◆終わり◆




