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剣士への第一歩

 晴奈はもう一度、頭の中を整理する。

(だって――これは試験。試験なんだから。

 重蔵先生は特に仰ってなかったけれど、柊さんもここの剣士なんだから、以前に試験を受けているはず、よね? じゃあ、ここに入っている、……よね? だったら、鬼が出るって言うのも、襲うって言うのも知っていたはず。それなら身を護るために――例え歯が立たないとしても――防具なり武器なり、装備しているはず。でも柊さんは、道着だけを着てた。襲われると分かってるのに、道着だけ?

 じゃあ……以前は、出てこなかった? 襲われなかった? 二度入ったら、襲われるって言うの? そんなバカな話、ない。それなら重蔵先生は、何度襲われているか分からないじゃない。と言うことは、鬼は襲わない。普通は、襲わない? じゃあ、襲ったのは何で? ……あれ? 襲った? 物音もなく? ううん、あれだけドスドス音を立ててるんだから、柊さんが気付かないわけがないじゃない!? 気付いていたら呑気に坐禅なんか組んでるわけない。絶対に振り返るはず。何もせず背中から殴られなんて、するわけない!

 おかしい。考えれば考えるほど、矛盾が広がっていく)

 納得行く説明を求め、迷走していく晴奈の心が、少しずつ静まっていく。

(おかしい、おかしい! 大体、この堂の入口は、前にある一ヶ所しかない。前から入って来たのなら、すぐ分かるはず。でも足音が聞こえて来たのは、いつも後ろから――前からの足音は、一度も聞こえてなかった。じゃあ、鬼は突然現れたの? いつ? どうして?)

 そこまで考えたところで、晴奈にある閃きが走った。

(殺されると思ったら、柊さんが殺された。鬼の足音のことを考えたら、鬼が出た。子鬼かなと思ったら、笑い声。

 考えると、現れる?)

 晴奈はもう一度目をつぶり、心を落ち着けて考えた。

(柊さんは死んでない。じっと、座禅を組んでいる)

 心の中で強く思い、目を開けて横を見た。

 そこには重蔵が戸を閉めた時と同じ姿勢のまま、雪乃が何事もなかったかのように、静かに座っていた。




 伏鬼心克堂――その意味は、「鬼が潜む心(伏鬼心)を、抑える(克する)堂」。雑念によって現れる様々な「鬼」――迷いや不安、猜疑心を、冷静になって消し去ることを学ぶ堂である。

 そして焔流の真髄、炎を操るには、冷静沈着な心が不可欠なのだと言うことを第一に学ぶために、この試験は用意されているのである。




 一旦その真意に気が付くと、不思議なほど晴奈の心は静まり返った。極めて冷静に、心を落ち着けて、時間が過ぎるのを待った。

(心の中のことが、ここには現れる。……それなら)

 幸い、時間を潰すのは非常に簡単だった。どう言う理屈か晴奈には分からなかったが、この堂は念じれば、何でも出てくるのだ。時間が過ぎ去るまでの間、晴奈は妹のことを思い浮かべることにした。

(明奈。あなたには、感謝してもしきれない)

 目の前に明奈が現れ、にっこりと笑いかけてくる。

(あなたの言葉があったからこそ、私はこうしてここにいる)

 明奈は前に座り込み、穏やかに笑っている。

(明奈、……ありがとう)

 そうして晴奈はずっと、明奈と声を出さずに語り合っていた。


「はい、そこまでじゃ」

 どうやら3時間が過ぎたらしく、入口の戸が開き、重蔵が入ってきた。そこで雪乃がすっと立ち、深々と頭を下げる。晴奈も慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。

「憔悴した風でもなく、怯えた気配もなく。どうやら合格のようじゃな。3時間、よく頑張った」

 重蔵は笑いながら、晴奈の頭を優しく撫でた。

「あ、ありがとうございます!」

「これで()()()も、晴れて焔流の門下生じゃ。精進、怠らんようにな。

 それから雪さん。よく考えればもう、入門して16年になるのう。そろそろ教える側に回っても良かろう。師範に格上げしておくから、さらに精進するように」

「はい!」

 雪乃はとても嬉しそうな顔をして、もう一度頭を下げる。その頭を、先程晴奈にした時と同じように優しく撫でながら、重蔵はこう続けた。

「それでじゃ。晴さんは、君が指南してあげなさい」

「え!?」

「元々君に師事したいと言っておったのじゃし、年老いたわしの下に就いておっては、折角の若い才能も枯れてしまうじゃろう。しっかり、鍛えてやりなさい」

「……はい。しかと、拝命いたしました」

 雪乃は三度頭を下げ、晴奈に向き直った。

「改めてよろしくね、晴奈ちゃん。……ううん、晴奈」

「はい! よろしくお願いいたします、師匠!」

 晴奈ももう一度、深々と頭を下げた。




 こうして黄晴奈は焔流に入門し、師匠・柊雪乃の下で修行を積むことになった。

 これが後の剣聖、「蒼天剣」の原点であり――ここから彼女の、波乱万丈の人生が始まっていく。


蒼天剣・立志録 終

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