第一章8話『大きな壁』
「ゾンビたちのことは、必ず俺がどうにかしてやるからな」
そうしてレックスがこうして森の中で手を合わせるのには、とある理由がある。
一日前、チーフを殺したあの日、レックスは誓った。
チーフが成し遂げられなかった、ゾンビとニンゲン二種族の共存。それを、チーフの想いを背負って必ず成し遂げるのだと。
それが、レックスにできる最大の弔いだと信じて。
「ーーそうか。そりゃ安心だな」
その瞬間、落ち葉を踏む足音と共に、一瞬チーフの安心した声が聞こえた気がして感激ーーいや待て、なんだ今の。
「えっ! ち、チーフ!?」
それはレックスの幻聴ではなかった。
そこにいたのだ。昨夜、赤い瞳にレックスを写し、腰に手を当ててこちらへ向かってくるゾンビの長ーーゾルト•チーフが。
「よう、昨日ぶりだな」
「なんで生きてるんだ!?」
本当に信じられない。だって、チーフはあの日レックスがこの手で斬り殺したはずーー、
「驚いただろ? ゾンビは一度死んでも生き返るなんて、殆ど知られてないからな」
「そんなの、ありかよ……っ」
こうして、馬鹿らしく笑ってチーフに生き返った経緯を説明されたレックスは、複雑な驚きと喜びに駆られることとなった。
「あと、今の俺は魔王軍に所属してないから、そこも安心してくれていいぜ」
「まぁ、とにかくよかったよ。チーフ」
「ーー驚いたな。俺はてっきり、なんで生き返ることを教えてくれなかったんだ! とか言ってくるのかと思ってたぜ」
「ーーーー」
レックスの真似をしながらレックスの心中を読み取ってくるのには、思わずムッとしたが、チーフにも何か考えがあったのだと結論づけて、なんとかその衝動を抑えた。
無論、これでただレックスを驚かすためだけの理由だったなら、躊躇なく殴るが。
「それで、村の人たちと仲良くするためにはどうするんだ? なんか策でもあるのか?」
「ーーそうだな。とりあえずゾンビを数体引き連れて村に向かって謝罪しに行く。それで、お詫びに村の防衛をしようかとも考えてるぜ」
「んー、でも前まで敵対してきてたゾンビが急に謝ってきて、それで村の防衛を任せろとか言ってきても、それこそ難しくねぇか?」
「まあ、そうだ。でも、とりあえず謝りには行く。ケジメくらいは付けないといけないからな」
そう言ってチーフは、シェイク村の方向へと向かって歩き始めた。その道中、周りの木々から急に仲間のゾンビが出てきて、当然のように歩いて行ったのは思わずツッコミそうになったはご愛嬌。
そして、チーフたちが村の門についた頃、村の見張りの人たちがチーフたちを見て驚き、手に持っていた槍をチーフたちに向けた。
それに対してチーフたちゾンビは、両手を上げて戦う意思がないことを示した。
「村長を呼んでくれないか? 話がしたいんだ。心配なら手錠でも、なんでもしてくれていいぜ」
その態度を見て、見張りたちは槍を下ろした。が、当然ながら微かにまだ警戒はしているようだ。
「ーー村長からゾンビたいとは仲良くしたいとは聞いていたが……急に信用しろってのもなかなか難しいことだ。どうすればいいものか」
「まあ……そうなるよな」
木の上から誰にも聞こえないように呟いたレックス。レックスが説明すれば少しはマシになるだろうと信じて、木から降りて弁明しようとしてーー、
「いや、やっぱりやめとくか」
当然これはレックスの嫌がらせでなどではない。ではなぜか。簡単な話、これはチーフたちゾンビがどうにかするべきだと思ったから。ただ、それだけだ。
「んー、悪いが、急に村長に会わせるわけにもいかない。また今度来てくれ」
そう言って見張りはチーフたちを信用できないと判断して追い払った。
流石に分かってはいたが、信用というのは長期に渡り培っていくか、何か大きなことをして証明しなければならない。決して、そう易々と獲得できるものではない。
そうして落ち込んだチーフを励まそうとレックスが歩み寄った。
「チーフ」
「ーー見てたのか。でもまだまだこれからだぜ。俺が必ず、ゾンビの未来を照らしてやる」
「おう、その息だ!」
その後、レックスは村に戻ると伝え、チーフと別れた。
「信頼は、すぐには勝ち取れない。それ相応のことをして示さないとダメって、確かじいちゃん言ってたっけ……」
その日は、『信頼』というものがゾンビとニンゲンの間にある大きな壁なのだと、チーフだけでなくレックスも痛いほど実感させられたのだった。




