第一章7話『シェイク村一の武器』
太陽が昇り、暗闇に染まっていた森が明るく照らされ始めた。当然、それは唖然としていたレックスもそれに見つめられる塵も例外ではない。
「大事なことって、なんだよ……」
チーフの首を切り落とした剣を鞘に戻し、レックスは問う。そな質問に塵が答えてくれるはずがないと知りながら。
「ーーっ」
もっと他の結末がなかったのかと自問自答を繰り広げるが、結局この現実しか迎えられないと言う結論に至る。
それからしばらくその場で立ちすくみ、それから村の方向へと足を向かわせた。
それからレックスは、チーフを殺したあのシーンを何度も、何度も頭の中で再生しながら、それ以外のことを考えずに村の方向へと歩いていた。
『レックスが、俺に大事なことを、教えてくれたからだーー』
それが再生される度、必ず最後にこの声も響き渡る。そしてその度、自問自答が開始されて再び思考の迷宮へと誘われーー、
「おー、レックス君。どうじゃった?」
「ーーぁ」
その思考の迷宮から、泣きたくなるような優しい声が、レックスを引き摺り出した。
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レックスは森での戦いであったことを、洗いざらい全て村長に話した。すると村長は静かに瞼を閉じ、再び開けて茶色の瞳にレックスを映した。
「それは、辛いことを頼んだな。すまない」
「いやいやいや! 村長さんは悪くねぇよ!」
「うむ、しかし一つ分からぬことがあるな……」
村長の発言にレックスは「分からないこと?」と首を傾げる。
「私がゾンビを殺したことはないから知らぬが、モンスターが死んで塵になるなど聞いたことがないな」
「ーーえっ?」
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瘴気に囚われていた感覚が消え、魂が浄化されて気分がいい。これも全て、あいつのおかげだ。
そして気づいた。世界には、まだあいつみたいな優しい奴らがたくさんいるということに。
次からは、きちんと歩み寄ることをしよう。何も見えない暗闇の中で、そう決意したのだった。
「あ、あぁ……」
そう、今回こそはやり遂げなければ。でなければ、愚かだった自分についてきてくれた仲間、そしてあいつに顔向けできない。
「全部やり直してみせる。この、最後の命で」
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「まぁ、とにかくありがとう。なんでも望みを言ってくれ」
「そうだな。じゃあ、この村一の剣を俺にくれ!」
言っておきながら割と無茶を言ったかと後悔したが、所持金もないので村長に甘えるしかないなと思った。
だが、その無茶かと思えるお願いを言われた村長の表情は、決して険しいものではなく、むしろ笑顔だった。
「そんなことじゃったら、お安いご用じゃ」
「ほんとか! ありがとう」
「なに、気にするでない。これで、お互い様というやつじゃ」
そしてレックスは、心優しい村長の案内の元、遂にシェイク村の武器屋へと辿り着くことができた。
中に入ると、そこには数多くの剣、弓、盾、防具。どこにも貧弱そうなものはなく、全てに目を奪われそうになる。
「へい、らっしゃい! ーーって村長さんじゃないですか。そこにいるのは?」
「この子は、あのレックス君じゃよ」
この子、という表現をレックスが気にしないか言われれば複雑だが、それ以上に武器屋の品に心を奪われてしまっていたので、レックスが何か反応を示すということはなかった。
「あー、あのゾンビを倒してくれたっていうレックスか」
「おう! さっそくだが、この武器屋で一番強い剣ってどれだ?」
「それならついてきてくれ。とっておきの品があるぞ」
そう言われて店の奥へと向かう店主についていくと、やがて一つの黒い剣の前に辿り着いた。
「これが、シェイク村一の武器。大業物の一つである『魔剣』スレイヴだ」
「大業物、『魔剣』スレイヴ……」
ーー大業物。それは、世界に幾つか存在する武器につけられた名称であり、この世界の枠に収まりきらない常識を逸するモノである。
子供っぽい言葉で言い表すと、まさに『伝説の武器』そのものだ。
そんな世界中の人々が喉から手が出が出るほど欲する伝説のうちの一つが、今レックスの目の前にある。まずその事実に腰を抜かしそうになってしまう。
「ちなみに、いくらだ?」
いくら村長と約束したとはいえ、あまりに高過ぎれば申し訳ないと思い、一応値段を聞いてみた。すると店主と村長は互いに目を合わせ、そして静かに頷いて微笑んだ。
「そういえばレックス君。聞いていなかったが、君の目的はなんなんじゃ?」
「俺の目的? そりゃ、魔王を倒すことだな」
腕を組みながら、得意げに答えたレックス。それを見て、店主は何かを決意したようだ。
「そんで金の話だが、レックスは村を救ってくれた。そして魔王を倒そうとしている。なら、金はいらねえよ」
「えっ、いいのか!?」
「あぁ、いいとも。持ってけ、英雄。そんで、この村みたいに世界を救ってこい!」
「ありがとう! 絶対やり遂げてみせるよ!」
こうしてレックスは、約束と引き換えに世界の伝説の一つ、ーー『魔剣』スレイヴを手にしたのだった。




