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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第四章『地下都市奪還作戦』

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第四章62話『『地下都市奪還作戦』のこれから』

やってくれた。手筈通りに、リサがフォンド•クロムを倒した!


「リサ! やりましたね!」


「ええ。私たちの勝ちよ」


 それからリサが空から完全に降りたったことを確認し、足りない高さをジャンプで補ってハイタッチを交わした。


 そうして嬉しさを体全体で表現していると、向こうからグレイが手を振ってこちらへやって来た。

 そしてその隣にはレックスがいて、彼の腕には眠りについた銀髪の少女ーーアンが抱かれていた。


「ネオ、リサ。ガツンとやったな!」


「はい、やりましたね!」


「レックスとアンは、大丈夫なの?」


「なんとかな。アンも無事だ」


 念のため、レックスの腕に抱かれている少女の顔色を伺ったが、やはり問題はない。一安心だ。


「ーーそういえば、北門の方は大丈夫かな?」


「ん、北門がどうかしたのか?」


「北門に敵兵が千人押し寄せて、俺たちの仲間が戦ってるんだ」


 千人という莫大な数に、ネオはただ驚くことしかできなかった。

 情報によると、地下牢の看守でさえ五十人だったはずだ。それの二十倍を相手にするなど、考えただけで気が暮れそうになる。


 そうして弱気なことを考えていると、五十ほどのーー否、それ以上の数で、大地を強く踏み締める音が次々と近づいて来た。


 北の方角だ。馬に乗った茶色い髪の男が手を振って、七十ほどの兵を連れてこちらへ向かって来ている。その隣にも、どこかたくましい雰囲気の男が馬に乗っていた。


「まさか、今言ってた北門の……!」


「旦那ー! 敵は、全部片付けて来やした! 皆も無事です」


「レックスさーん! なんとか勝てましたー!」


「おー、シュテルニスか! よくやったー!」


 千人の敵兵を迎え撃ち、全員生還。俄かに信じがたいが、おそらく本当なのだろう。

 だとしたら、一体どのようにして勝利を手にしたのだ。ネオは、それが疑問で仕方がなかった。

 その疑問は、隣にいたリサの一言によって解消された。


「シュテルニス……っまさか、あの『星斬り』シュテルニス!?」

 

 リサの信じがたい一言に答えるように、この場に帰還して馬から降りた男が、それを肯定するように頷いた。


「名乗る必要はなさそうですね。ーーいかにも、『星斬り』とは某のことでありやす」


「『星斬り』……なるほど。それだったら、千の敵兵を迎撃したというのも、説明がつきます」


 ネオは顎に手を置き、そして解せたと顔に書いたような表情で頷いた。


「いやー、シュテルニスさんが来るまでは自分たちも押されてましたけど、彼が来てからは敵が一瞬でやられていきましたね。それも、刀を使わずに」


「別に、大したことはしていやせん。ーーさて、旦那。これからどうしやす?」


「んー、困ったなぁ。そういうのは俺じゃなくて、アンの方に聞くべきなんだろうけど……」


 レックスが腕に抱いてる少女の顔を見るが、それでも彼女は目覚めない。

 皆が困った表情でしばらく悩んでいると、突如声がした。


「う、うぅ……こ、ここは?」


 皆の期待に応えるかのように、少年の腕に抱かれていた少女がようやく目を覚ました。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 少ない時間だったが、ネイレス•アンは微睡の中に囚われていた。

 動く手足もない。そこにあるのは自分の意識だけ。それも朦朧としたものだ。


 そんな中で、彼女は温かなものに包まれ、そして温かなものを感じ取った。


 そして、探し求めていたモノがすぐそこにあると感じ、存在しない手足を動かして、微睡から脱出しようとーー、


「ーーアン! よかった。目覚めたのか」


「れ、っくす……そうだ私、あいつを倒して、それで二人の口調が攻めて来て、それで……」


 眠りにつく前の情報が、津波のように押し寄せてくる。

 けれど、まだ状況を完全に整理し切ることはできない。


 そんな朦朧とする意識の中でなんとか状況を整理しようとするアンを、レックスはそっと腕から下ろして立たせた。

 体は痛む。けれど、立って歩くぐらいなら可能だ。


「そこを、グレイさんたちが助けてくれたってわけだ」


 ーーーー。「グレイさん」という名前を聞いた瞬間、少女の意識が微睡から、完全に解き放たれた。


「ーーっ、グレイさん!?」


「おう、やっと会えたな。アン」


 ここ数日、ずっとずっと探し求めてきたモノ。彼女はそれに走って、そしてそれに抱かれた。

 頭を撫でられた。待ち望んだ再会を果たせた。後は自分の役割を果たさなければ。


 その決意を持って、アンは待ち望んだ幸せから身を起こし、それから『ブレイク反乱軍』でのネイレス•アンの仕事を始める。


「ーーさぁ、待たせたわねみんな。会議を始めましょ!」


「ーー見ねぇ間に強くなったじゃねぇか。アン」


「よし! シュテルニス、シュバイス、そしてグレイさんたち。今後の方針について話し合おう」


 『ブレイク反乱軍』による、『地下都市奪還作戦』達成への会議が、今再びこの場で開かれることとなった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここは東区の地区庁舎の中にある会議部屋。皆はこれから『地下都市奪還作戦』のこれからについて話し合うところだ。


 レックスは会議を始めるにあたって、これまであったことを全て、グレイ、ネオ、リサの三人に話した。


「なるほど。そりゃ大変だったな」


「まあでも、これで私たちは全ての区長を倒せたことだし、東区と北区の囚人の解放は簡単にできそうね。そしてそれが終われば、残るはスローンと普通の兵士だけね!」


 東区庁舎に残りの区長二人が襲撃して来たことは予想外だったが、アンの言う通り、結果的に今後の行動の難易度が下がったのはいいことだろう。


「アンの旦那、大変なのはここからです」


 楽観的に考えていたところを、どこか暗い表情のシュテルニスが放った一言によって遮られた。


「そうなの? だって、あとはスローンだけでしょ?」


「これよりお話ししやすは、某がスローンに敗れてしまった要因でありやす」


「シュテルニスが」


「負けた……」


 かつて世界に名を轟かせていた『星斬り』シュテルニス。

 そんな彼がスローンに敗北したという事実だけで、会議の場が騒然となるはおかしな話ではない。


「ーーあれは今から五年前、某はこの国ーーアジャ王国各地を巡って旅をしていた時。某はこのワイレスに足を運び、そしてスローンと対峙しやした。ーーそして某は、奴の絡繰を見破れず、敗北を許してしやいやした」


「絡繰?」


「左様。奴は無属性魔法である結界魔法、それも物理攻撃無効化と魔法攻撃無効化の効果を持ったものを、鎧の如く自分の体に纏っていやした」


 無属性魔法。それは魔法の原点にして最も魔力の消費が激しく、そして最も扱いが複雑で困難な魔法である。

 多くの者は、その複雑さゆえに無属性以外の七属性魔法に手をつける。ーーそれはリサも例外ではなかった。

 しかし逆に言えば、それを完璧に扱うことができたのなら、その人物は最強の称号を得ることになる。


 だからこそ、リサはそれに耳を疑った。


「結界魔法、それも物理攻撃無効化と魔法攻撃無効化の効果を持ったものを……スローンとは、それほどに強力なの?」


「ーーだからこそ、某は何か絡繰があるのではと睨んでいるのです」


「魔王軍、それも長官ではない普通の幹部が、それほど強力な魔法を操れることはおかしい……」


「あー、それなんだがよ。その絡繰の正体、俺知ってるかもしれねぇぜ」


 そう言って手を上げたのは、グレイだった。


「本当!? グレイさん」


「あぁ、ガツンと心当たりがあるぜ。おそらくそれは、魔王軍で開発されてる魔力クリスタルってやつを使ってるはずだぜ」


「魔力、クリスタル? 聞いたことがないわ」


「まぁ知らねぇのも無理はねぇよ。なんせ、魔王軍の、それも限られた奴しか持ってねぇからな」


 そう言い終わると、皆が座っていた中で、グレイは一人立ち上がる。


「地下牢に放り込んだ奴らに会いに行くぞ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 東区の地下牢には、看守と襲撃含めた大量の兵士、そして四人の区長が囚われている。ーー当然、鍵がかかっていない扉は改良済みだ。

 当然、全員無力化の首輪をつけているので、暴れ出す心配はない。


 そしてグレイと会議に参加していた全員は、この地下牢の廊下に橋を下すため、制御室の中にいた。


「グレイさん。ほんとにここにスローンを倒すための手掛かりがあるの?」


「疑うなよアン。そりゃちょっと悲しいぜ? それに今回は、アンの手柄でもあるんだしよ」


「どういうこと? 私がやったことと言えば、東区の区長だったスタン•ガーオを倒したことだけよ?」


「それが、お前の大手柄だ」


 そんな感じで会話を終え、グレイはレバーを引いて、魔獣避けの橋を下ろした。


「内容は歩きながら話す。だから、ついて来てくれ」


「ーー分かった」


 グレイたちは、制御室を後にし、下ろした橋を二列になって歩き始めた。


「なあアン。さっきのフォンド•クロムとスーホ•トラムによる襲撃。おかしいと思わねぇか?」


「おかしい? そんなことなかったと思うけど……」


「一見すれば、『ブレイク反乱軍』が東区に到達して、それを鎮圧するためのものに思える。ーーだが、それはあくまで表向きの理由なんじゃねぇか?」


「それってつまり、この襲撃には裏の理由があるってこと?」


「そういうことだ。俺の予想はな」


 ーーそうして歩いていたとき、グレイの足が一つの檻の前で止まった。


 そこの檻の中を見ると、そこにはアンが死闘を繰り広げた相手ーースタン•ガーオが威風堂々あぐらをかいて座っていた。

 その堂々とした立ち振る舞いを見るに、やはり鬼なのだなと再度実感させられる。


「ーーネイレス•アンか。また会えて嬉しいぞ」


 解放を望んだり、暴れ出すようなことはしないと分かってはいたが、やはり予想と本物は違うものだ。

 そしてよく見ると、アンとの戦闘で皮膚が所々負傷していた。


「グレイさん。このスタン•ガーオが、今回の襲撃に関わってるってことでいいのよね?」


「あぁ。そうだ」


「ーー当方に、何か用か?」


「アン。中に入っても、こいつは暴れたりしねぇよな?」


「うん、大丈夫だと思うけど……何する気?」


 そう問うと、グレイは「まあ見とけ」と言って檻の扉に手をかけ、それから檻の扉を開いて中へと入った。


「お前、スローンの魔力クリスタルを持ってるだろ?」


「ーー何故、そう思った?」


「簡単な話だ。他の区長と多くの敵兵が、お前のことを助けようとしていた。それは、お前が俺たちの手に渡るのがマズかったからじゃねぇか?」


 そう言い終わると、スタン•ガーオは諦めたようにため息をつき、それから立ち上がって右腕を横に伸ばした。


「なるほど。全部知っているのだな。ーー右腕だ。そこに、スローンさんの魔力クリスタルが埋め込まれている。壊したければ壊すがいい」


「潔くて助かるぜ」


「殺されては言語道断だからな」


 そんな会話を終え、グレイは黒く染めて後ろに引いた。それから左足で踏ん張り、スタン•ガーオの左腕を穿つ勢いで殴った。


 ーー何かが、砕ける音がした。


「もういいぜ」


 そう言うと、スタン•ガーオは左手を下ろし、それからまた堂々と座った。

 その様子を背中に、グレイは檻の扉を開けて、再び橋の上に体を乗せた。


「えーっとつまり、スローンの魔力クリスタル? がスタン•ガーオの体内にあったから、それを守るために、わざわざ他の区長もやって来たってことよね?」


「あぁ。それで間違いねぇ」


「それで、グレイさん。一体魔力クリスタルっていうのは、どういうものなの?」 

 

 それまで静かに見守っていたうちの一人であるリサが、我慢できない様子で質問した。


「まあ簡単な話、自分と同調した魔力クリスタルが壊れてない限り、そこから無限に魔力を取り出して使えるって感じだ」


「そんなことができるの!? 一体どうやって?」


「それは、俺も分かんねぇ。なんせ俺は魔王軍じゃねぇからな」


 こうして、スローンの魔力クリスタル問題は事なきを得たように思われた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 スローンと同調した魔力クリスタルを破壊して地下牢を出た後、アンたちは会議室に戻り、大きな机を囲んで再び今後の作戦について話し合い始めていた。



「さて、それじゃあ今後の作戦について決めちゃいましょ」


「とりあえず、残りの二区に囚われている囚人たちを助けないといけやせんね。それと、後は旦那の鍵探しですが……」


「あぁ。多分、俺の鍵は中央区にあるはずだよな」


 レックスが首につけられた無力化の首輪を乱暴にいじってみたが、やはりびくともしない。


 当然だ。地下牢で魔獣とあれほど傷だらけになって戦闘を繰り広げていたのにも関わらず、あの首輪には傷一つついていないのだから。


「左様。ですが、他の二区にある可能性もありやす」


「げっ、確かに……それじゃあ俺も残りの二区制圧について行く!」


「旦那、その状態で余計な戦闘に身を晒すのは得策ではありやせん」


 シュテルニスの言う通りだ。

 レックスには、残りの二区の残党を倒すための戦いに出向く必要はない。


 それに、もき首輪が外れた際にレックスに疲労が蓄積していれば、それこそ中央区での戦闘に大きな支障が出ることとなる。


 ここは、シュテルニスたちに任せるほうがいいだろう。


「でも、もしそこに鍵があるかもしれねぇなら、俺も行きたい! ーーそれに、俺は『ブレイク反乱軍』のリーダーだし。だから、俺がみんなのことを導かなくちゃいけねぇ気がする」


 理由も分かる。筋も通っている。だが、それでもレックスには体力を温存してもらわなければ困る。


 そう思い、アンが「レックス」と言いかけたとき、その声を「旦那」という優しさに満ち溢れた声に遮られた。


「某は旦那の刃です。旦那はスローンを倒すために体力を温存し、某はそれを手助けする。これじゃあ、いけやせんか?」


「シュテルニス……分かった。そんじゃあ、任せた!」


 アンが言わなくても、シュテルニスが言いたいことを全部言ってくれた。それにどこか親近感を覚えた。


 とにかくレックスが納得してくれてよかった。これで、話は円滑に進められそうだ。


「それじゃあ東区と北区は、南区で解放した囚人百人を加えた『シュテルニス部隊』百二十五人で攻め落としてきて」


「承知しやした。必ずや、攻め落としてきやしょう」


 説得力に満ち溢れた彼の心強い返事に、アンは心の底から安堵を覚えた。


「中央区の作戦については、とりあえず東区と北区を攻め落としてから考えましょう。それじゃあ、解散!」


 彼女の掛け声と共に、『地下都市奪還作戦』の後半戦が、始まりの鐘を鳴らした。


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