第四章61話『魔女とシノビ』
「ーーフランメ!」
「ライトレーザー!」
戦いの火蓋が切られたと同時に、『爆裂術師』によって生み出された業火が、『豪光の魔女』によって生み出された光の刃に穿たれた。
「なるほど。『豪光の魔女』と名乗るだけあって、光属性の魔法を操るのデスね」
「半分は正解。だけどもう半分は、不正解よ!」
そう言い終わる直後、『豪光の魔女』であるリサの杖先から、光属性の魔法ーー否、火属性の魔法であるフランメを繰り出した。
その威力こそフォンド•クロムに劣るが、着目すべき点はそこではない。
「あなた、もしや二属性の魔力を操れるのデスか!?」
「それも外れよ。ーー正しくは、六属性全て。『豪光の魔女』と名乗ったのは、その中で一番光属性の魔法が得意だから」
そう言うリサの空の左手には、それぞれ色の違う六つの魔力でできた、小さな球を浮かばせていた。
色はそれぞれ火属性の赤、水属性の青、雷属性の黄色、風属性の緑、闇属性の黒、そして最後に光属性の白だ。
通常、優れた魔法使いでも、扱える魔力の種類は三つか四つといったところである。
だから、光属性に適性があるリサが、土属性と無属性以外の六種類の魔力全てを扱えることが、異常極まりないのだ。
「あなた、一体全体なんなのデス?」
「さっきも言ったじゃない。私の名前はヘクセ•リサ。『豪光の魔女』よ」
気味が悪いほど笑顔で答える魔女。ーーそれに気を取られているフォンド•クロムの背後には、闇が忍び寄っていた。
「ネオのことも、お忘れなく!」
その瞬間、背後へ振り向くと、少女の手から振り翳される一本の刀が自分へと迫っていることに気づいた。
それを防ぐため咄嗟に後ろへ下がり、それから少女の振り下ろされた小さなを掴んで、動きを封じた。
「ーーっ」
「せっかく背後を取ったというのに、なぜあなたは自分から言ったのデス? ーーまあいいでしょう。ダクサ•ネオとヘクセ•リサ。この二人も必ず生捕りと命じられていますし、手間が省けるのデス」
まずは一人。そう思いながらフォンド•クロムは、少女の首を掴む左手に力を込めて少女を気絶させーー、
「ーーッ! これはどういうことなのデス!?」
意識を奪おうとして力を込めた直後、小柄な少女の体は崩れ落ち、やがて何も残らなかった。
その代わりに、今度はまたもや背後から少女の声が聞こえた。
「どこを見ているんですか? あなたが探してるネオは、ここにいますよ?」
振り向くとやはり、さっきまで崩れ落ちたはずの人物が、薄ら笑いを浮かべて立っていた。
ーーどういうことだ?
「図に乗らないことデスッ! フランメ!」
小柄な少女の体が、杖から放たれた業火にさらされ、今度こそ倒した。ーーかと思われた。
「残念。ネオはここです」
声のする方を、何も考えず業火で燃やした。
「それも外れです。ネオはここですよ?」
だんだんとダクサ•ネオという少女が、心の底から憎たらしくなってきた。
ーーなんで何度も攻撃してるのに、一向に倒せない?
その理由は、すぐに分かった。
「ネオはここですよ」
「あ、やっぱりこっちです」
「いえ、本当はここですよ?」
「ーーあなた、もしや闇魔法の使い手デスか?」
「「「ーー当たりです」」」
フォンド•クロムが杖を構え、視線を送る先。そこには、全く同じ見た目、そして同じ動作を行う三人のダクサ•ネオが、薄ら笑いを浮かべながらフォンド•クロムの周りを三角形状に囲っていた。
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ーーダクサ•ネオは、闇魔法の使い手である。
今更だが、魔法というのは空気中に漂っている魔力の元となる魔素、または体内にある魔力を使用して発動することができる。
そして当然そのうちの一つである闇魔法は、闇の魔力を使用して放つことができる。
闇魔法と言われて皆が思い浮かべるのは、闇の魔力の塊を放つダークボールという魔法や、影の中に潜る潜伏魔法などだろう。
その他にも、剣に纏って斬撃を放ったり、レーザーとして放ったりと、他の属性の魔法と同じように様々な使い方ができる。
だがその中でも、ネオの扱う魔法は珍しいものだった。その名も、
「忍法•影分身の術です!」
体内から引き出した闇の魔力と魂力を応用して使用することができる魔法ーー否、忍法。
それこそが、影分身という技である。
「なるほど。シノビと名乗るだけあって、忍法を操るのデスか。非常に厄介デスね」
とは言っておきながらも、ネオが出せる影分身のは、最大三体まで。
それに加え、フォンド•クロムの使用する魔法は、広範囲攻撃。
よって、全員で一気に攻め込むのは得策とは言い難いのだ。
「どうします? リサ」
「そうね……それじゃあ、こうしましょう」
そうリサが言い終わった直後、先まで離れて聞こえていた声が、突如耳元で囁くような声に変わった。
『フォンド•クロムに聞かれるとまずいから、声を風に乗せるわ』
「いいですけど、少しくすぐったいですね……」
それもそのはず。リサは口元で囁いた小さな声を、風魔法を使って風に乗せて、そのままネオの耳元に届けているのだから。
『それじゃあ話すわ。まずはーー』
それからネオは、風に乗せたリサの声から、フォンド•クロムを討つための策を聞いた。
「なるほど。ーー分かりました。やってみせましょう!」
『そう言ってもらえて嬉しいわ。ーーそれじゃあ、作戦開始!』
その合図と共に、リサは上空へと上がった。ーー風魔法の応用だ。
そしてその様子を見たフォンド•クロムも、同じ魔法使いとして、リサのいる空へと飛び立った。
「作戦会議は終わりデスか? それでは、遠慮なくいかせてもらいマスッ! フランメ!」
火に強いのは水。ならば、
「ウォーターショット!」
とれだけ強力な火でも、水には逆らうことができない。
そしてそれは、自然でも人工でも同じこと。
当然、生み出された業火は、成すすべなく放たれた水によってかき消された。
「くっ、ならばこれはどうなのデスッ!」
その瞬間、フォンド•クロムの杖からまたもや業火が生み出される。
先と違うことといえば、それは数が増えたことだろう。
先の場合だと一本の大きい業火だったが、今回はそれが無数に分裂し、あらゆる方向から空気の上に立つリサへと襲いかかった。
「分散させたのね。でも、甘いわ。ーーライトニングピラー!」
その詠唱を唱えながらリサが右手に握る杖を上に掲た次の瞬間、無数に広がる業火の目の前に、無数の光輝く魔法陣が生み出された。
そしてその魔法陣から、白い光の柱が形成され、それらは無数の業火を穿った。
「バカな! 私の炎を全て穿ったのデスか!? ありえない……ありえないのデス!」
「そう? それじゃあ、次はその身で持って分からせてあげるわ。ライトニングピラー!」
「私の、私の魔法が、あなたの魔法より劣るなど、あってはならないのデスッ!」
生み出された無数の光の柱が、今度は業火ではなくフォンド•クロム本体へと迫る。
それに対してフォンド•クロムは、迫り来るそれらの動きを的確に見極め、予測した空の着弾地点に、炎で作られた盾を生み出して防いだ。
「見ましたか! これが私の力なのデス!」
「そう。それじゃあ、あまり大したことないのね」
「何? いいでしょう。それでは、私も本気を出して差し上げましょう!」
そう言い終わると共に、フォンド•クロムは空に浮く自分の体を勢いよく後ろへ下げ、それから萎えたぎるような赤を纏った杖を、空に浮かぶ少女へと向けた。
「喰らうのデス。私の、爆裂魔法の、集大成を! ーーフランメ•ヘル!!」
「ーーこの時を待っていたわ」
次の瞬間、杖に光を灯す少女の前に現れた巨大な灼熱が、一刀両断に斬られた。
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『まずは、私が空であいつと対峙する。しばらくすればあの大魔法を放ってくるはずだから、それをネオが真っ二つに切って』
この作戦を聞いた時、頭の中に不可能という文字は浮かばなかった。
むしろ面白そうだと、心の底からそう感じた。
「そんなこと……余裕です」
『そう言ってくれると信じてたわ。その後は、私に全部任せて』
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『ーー今よ、ネオ!』
その合図が風に乗って耳元に流れてきた時、全身の力がみなぎった。
「この時を待ってました。行きますよ、ムラマサ!」
右手に握っている自分の愛刀、そして相棒でもあるムラマサに声をかけ、それから地を蹴って生み出された灼熱へと手を伸ばす。
届かない。
「そんなことは、初めから分かってます。だからーー」
もう一度今の場所で地面を蹴ることができれば、あの灼熱に手が届く。
風魔法など、当然使えない。使える魔法は、闇魔法だけだ。
だが、忘れてはならない。ダクサ•ネオが、シノビだということを。
「二人とも、お願いします!」
足場など一つもない空中で、空の左手に闇を纏わせる。
そしてそれを空気しかない足元に向け、闇の魔力で二つの影を生み出す。ーーもちろんそれは、自分の影分身だ。
「「行ってらっしゃい、ませ!」」
空に浮く二人の自分が、それぞれが両手を伸ばして作ってくれた足場。それに足を乗せ、それからもう一度先のように、地面を穿つような勢いで蹴る。ーー成功。
下を見ると、紫紺の瞳が空高く飛び立つ自分を映して、そして消えていくのが見えた。
そして勢いのまま体を上に持っていかれ、あっという間に迫る灼熱の真上へと到達した。
それから愛刀を握る右手に、空気中に漂う闇の魔素と体内に漂う闇の魔力、そして魂力を纏わせる。
闇を纏い、疼く右腕を左手で押さえ、それから天に掲げる。
上へと上がる勢いが死んだ。あとは落下するのみ。
あの灼熱を両断するのに、これ以上適した状況はないだろう。最高である。
「ーー闇虎滅刀!!」
闇の魔力と魂力、それと重力が味方し、巨大な灼熱を切り裂いた。
切り裂かれた灼熱は大きな爆音と共に爆風を生み、それが落ちてゆくネオの体に打ちつけた。
「後は頼みましたよ、リサ」
地上で二人の分身体によって受け止められたシノビは、空に立つ魔女へと全てを託した。
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「期待以上だわ。流石、ネオね」
ヘクセ•リサは、土属性以外の魔法を全て操ることができる魔法使いーー否、魔女である。
そしてほとんどの魔法を操ることのできる彼女だが、その中でも光魔法の精度は群を抜いている。
だがそんな彼女でも、『爆裂術師』の大魔法を打ち破ることはできなかった。
レックスの元へ駆けつける際にあの灼熱を瞳に映したが、正直あれを自分の力でどうにかできるとは、到底思えなかった。
だから、あの灼熱の突破は仲間であるネオに託し、自分は『爆裂術師』を撃ち倒すトドメの一撃を放つ準備に取り掛かった。
不安は一切なかった。なにせ、ネオは絶対にやってくれると信じていたから。
そして案の定、彼女はやってくれた。
ならば次は自分の番だ。
自分の体内を漂う全ての魔力と魂力を杖に注ぎ、大魔法を放つ杖先を、切り裂かれた灼熱の隙間に見えたフォンド•クロムへと向ける。
「喰らいなさい。レーザーキャノン!!」
その瞬間、全身が反動によって震え、空気を眩い光が穿った。
「なっ、破られたのデスか!? って、マズイのデス!」
自分の大魔法を破られた驚きをなんとか抑え、目の前に迫る光の刃を、瞬時に生み出した炎の盾で受け止める。けれど、
「あんな大魔法を二回も使ったのよ。もう魔力もそれほどないはず」
リサの言うとおり、フォンド•クロムの魔力は、もはやゼロと言っても過言ではなかった。
それでも『爆裂術師』として負けられないプライドなのか、最後の力を振り絞って光の刃を受け止めた。ーーだがそれも『豪光の魔女』の前には、悪足掻きに過ぎない。
「負けるわけには、いかないの、デスッーー」
ーー光の刃が、『爆裂術師』の体を貫いた。




