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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第四章『地下都市奪還作戦』

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第四章60話『ハンディル•グレイ』

「ーーっ、いきなりガツンとやるじゃねぇか。だいたい初めってのは、お互い様子見みたいな感じじゃねぇのか?」


「それは違うな。我は貴様を殺しに来たのであって、貴様と戯れに来たのではない。よって、初めから殺しにいっても何ら不思議はないはずだ」


「あー、そうかよ。そんじゃあお前が正しい、なッ!」


 右手で受け止めていた黒刀を無理やり押し返し、後ろに一回転して距離を取る。

 しかしどうしたものか。おそらく下半身を見るに、スーホ•トラムは馬獣族だ。

 馬獣族の大きな特徴。それはーー、


「足速ぇんだよ! お前!」


 おそらく常人の三倍は速いだろう。それが刃物を振り回すのだ。厄介極まりないったらありゃしない。


「フン、外したか。ーー足ッ!」


 そう言い放った瞬間、また先のように四本の足を働かせて腕一本分のところまで急接近。そして、鞘から黒い刀を抜き、言った通りグレイの足に向けて刃を放った。


「っと、危ねぇ。おらァ!」


 それを後ろに一回転して回避。それから僅かな隙を突き、黒い拳を馬獣族の誇り高き足の一本に減り込ませる。


「うぐっ……小癪なッ!」


 割と拳が効いたのか、『刀騎』の動きが一瞬鈍り、少しだけよろけた。


 その隙を更に突くことにし、もう一度膝を引いて空気を押し返し、そのまま拳に魂力(こんりょく)を集中させる。そして、その拳の一閃を奴の胴体に打ち込む。ーーこの動作を、瞬きの間にやってのけることにより成り立つ技。それが、二十年前『拳雄』に教えてもらった技である、



「ーー砲魂(ほうこん)突き!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ーーハンディル•グレイは、師であるジュリアス•ルーカーのように上手くはできない。


 

 彼がルーカーの教えを欲したのは、今から二十五年前ーーちょうどグレイが十五歳で、ルーカーが五十歳になった時である。

 当然その頃には、もうルーカーは現役の座を降りていたが、それでも体中から溢れ出る覇気は、全盛期からの衰えを感じさせないものだった。


 ルーカーと出会った時、グレイは『愛情』を知らなかった。

 ルーカーと出会った時、グレイは『友情』を知らなかった。

 ルーカーと出会った時、グレイは幸せを得る方法を、拳を振るうこと以外知らなかった。



 ーールーカーと出会った時、グレイは『情』を知らなかった。



 自分にはこれしかーー拳を振るうことしかないと思っていた。強くなることで、この拳に意味を見出せると信じて。


 強くなるためには、『愛情』も『友情』も邪魔なものだと思っていた。そんな『情』は、拳を振るうときに足を引っ張るものだと。ーーそれが揺らぎ始めたのは、一人の超人と出会ったときだった。



「お前は、何のために拳を振るっているんだ?」



 誰かにそう聞かれるまでは、ずっと「強くなるためだ」と答えると決めていた。

 しかし、いざ聞かれるとどうだ。自分の中で決めていた答えを口に出せず、遂には黙り込む始末。


 そんな中、なんとか言の葉を紡ぎ、「強く、なるためだ」と答えた。


 今話してる相手は、間違いなく化け物の領域に踏み入ったニンゲンだ。もしかしたら、何か強くなるためのヒントが貰えるのではないか。


 そう期待して、彼の口から発せられる言葉を一言一句聞き逃すまいと、顔を上げ、彼の顔をじっくりと見て、神経を集中させた。ーー何故だ。何故、彼の顔は笑っている。

 

「お前、さては友達いないだろ?」


「ーーーーは?」


 ーーああそうだ。いないとも。いてどうする? 余計な『情』が生まれ、強くなるために無駄な労力を割くことになるだけだ。


「あぁ、いない」


「はっはっは! やはりか! お前の目、血の気が多かったからな!」


「ーーどういう意味だ?」


 まさか、友達がいないからと言って馬鹿にしてくるのではなかろう。

 それとも、超人の域に達した者からしか見えない何かが、彼には見えているというのか。


「言葉の通りだ。ーー多分お前は、『情』なんてものは邪魔だと思っているんだろう?」


「ーーーー」


「覚えておくといい。ーー『情』を持たざる者、拳を振るべからず! とな」


「ーー俺は、どうすればいい?」


「私について来い。まずはお前に『情』を教えてやる」



 『情』が自分に必要かはこれから考えるが、とにかく強くなるためには、この人についていくしかない。


 その一心で、ハンディル•グレイは、ジュリアス•ルーカーに『情』を叩き込まれることになるのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「がはッ……小癪なッ!」


 グレイの渾身の一撃を見事に受けて吹っ飛んでしまったトラム。そんな彼は小さく舌打ちし、再び立ち上がって両手で刀を構え、それから馬獣族自慢の馬脚が、殺意の赴くまま動き出した。


「足ッ! 腕ッ! 肩ッ! 腕ッ、腕ッ、腕ッ!!」


 やはり奴は、攻撃する際に必ずどの部位を狙うかを口に出している。ならば、


「おらッ! とりゃッ! はッ! はァァァ!!」


 どれだけ早くて見事な太刀でも、言われた部位をなぞるように防いでおけば、何ら問題はなかろう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「よし、始めは人助けからだ。手始めに、あの村、救ってこい」


 ルーカーが指差した先を見ると、そこには無数の魔王軍に襲われている村があった。


「私が行けば一瞬だろうが、ここはお前が行け」


「ーー分かった」


 そう言われるがまま、グレイはおおよそ百人いた魔王軍の兵士を、その拳で全滅させた。

 そうして、また自分は強くなったと、無数の敵を殴った拳を見つめ、そして頷く。


 こちらへ向かってくる足音がする。おそらくルーカーだろう。

 そう思い顔を挙げると、そこには杖をついた見知らぬ老婆が立っていた。


「ありがとうねぇ。おかげで村のみんなも助かったよぉ」


 おかしい。

 この老婆は傷ついている。なのに、自分の身が助かったことよりも、他のみんなが助かったことを喜んでいる。



 ーーアリガ、トウ?



 その言葉は未知だった。

 その言葉は言ったことも言われたこともなかった。

 その言葉は奇妙だった。


 その言葉は、何故かとても響きのいいものだった。


「ーーふふ」


「おや、どうかしたのかい?」


「いや、何でもねぇ。こちらこそありがとよ、婆さん」


「おや、面白い子だねぇ。別に、感謝されるようなことはしてないよぉ」


 ハンディル•グレイは初めて、まともに人と接した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あ、グレイお兄ちゃんだ!」


「ん、どうしたんだ?」


「みんなでガツンと遊ぼうぜ!」


「おう、いいぜ」


「やったー!」


 この村に滞在して一週間経った。

 グレイは完全に村の子供に好かれるようになり、声をかけられては、それに応じて遊んであげるという毎日を送っていた。


 これが強くなるための方法だなんて信じていない。でも、今は別にこれで構わないと思う。


「グレイ。村の生活はどうだ?」


「ルーカーさん。ーー悪くはねぇな」


 子供達と円陣を組んでボール遊びをしていると、そこにただならぬ存在感を放つ男ーージュリアス•ルーカーが現れた。


「はっはっは。それはなによりだよ。それでは、私は少し離れる」


「おう。分かった」


 そう言い去って、ルーカーは地面を蹴って、あっという間にどこかへ行ってしまった。

 あれでも全盛期より衰えているなどと言うものだから、彼には本当に困らされたものだ。


 それはそうと、ここの生活はとてもいい。ーー『情』なんていらないと言っていた自分が馬鹿らしくなるほどに。

 考えてみればそのはずだった。力がなくても、得られる幸せはある。



 ーーハンディル•グレイは、幼い頃親に捨てられ、路頭を彷徨っていた。

 頼れる人も誰一人としておらず、食べるものを手に入れるのも至難の業。


 だから、生きるためには奪うしかなかった。その為には力が必要だった。

 『情』なんて与えたことも与えられたこともない。そんなもの、自分には程遠い世界の話だと、勝手に解釈していた。


 だが今はどうだ。この生活を守りたい。この現実を永遠に生きたい。たとえ、それが強くなるための道に続いてなかったとしてもーー、


「ーーグレイ! 急いで皆を守ってくれ!」


 そんな超人の声にさらされるまでは、そんなことも考えていた。


 空から舞い戻ってきたルーカーの話によると、どうやらこの村に向かって、総勢五百の魔王軍の兵が進軍中らしい。

 そしてそれは、もう時期村に到着するらしい。

 残された猶予は五分ほど。その間に皆を避難させ、ルーカーとグレイでどうにかするしかない。


「私とグレイで、村に入るまでに迎撃する。行くぞ!」


「おう! 分かった」


 あぁ。やはり自分は、拳を振ることからは逃れられないのだ。


 構わない。それが、この幸せを守ることにつながるのなら。


 それで、また自分がこの村に帰ってこられるのなら。


 ーー何度でも、この拳で戦ってやるよ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どうした、『刀騎』さん。ガツンとやって、こんなもんか?」


「フン。まだまだこれからだ。ーー胴体ッ!」


 次の瞬間、瞬きの間に黒い刃がグレイの胴体を切り裂こうとすぐそこまで迫っていた。


「おっと、危ねぇ。今のはまずいところだったぜ……」


 それを何とか、拳を駆使して下に叩きつけ、未然に防ぐ。

 それから後ろへ移動して距離を取り、それから拳を後ろに引いた。


 空気が、歪む。


「それじゃあ俺も、ガツンといかせてもらうぜ。ーー奥義•砲魂終突(ほうこんしゅうとつ)!!」


 グレイは、恩師が独自に編み出した奥義そのものを、自分なりに再現して放つ。ーーそれはまるで、ジュリアス•ルーカーが繋いだ

強くなるための道を、ハンディル•グレイが貫き通したことへの結果を、そのまま描いているようだった。


 次の瞬間、『拳雄の一番弟子』によって生み出された衝撃波が、『刀騎』の体を大きく飲み込んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「私は奥側を倒す。グレイは、手前側を頼む!」


「分かった。それじゃあ、ガツンとやってやろうぜ」


 そうしてルーカーは、馬顔負けの桁外れな速度で移動し、あっという間に軍勢の奥側で戦闘を始めた。


 それはそうと、まさか村の子供の口癖である「ガツンと」が口癖となって出てくるとは、自分自身も言う直前まで思っていなかった。本当に、影響とは、凄まじいものだ。

 だが、この口癖は気に入った。これから愛用するとしよう。


 村のみんなには、少し離れた場所に避難してもらった。だから万が一、村に魔王軍が侵入してきても、幸い犠牲者は一人も出ないはず。


「いや、それじゃあダメだ」


 ここを突破されれば、その先にあるのはグレイの、みんなの愛する村だ。

 そこに魔王軍が足を踏み入れることなど、断じてあってはならない。

 

 守るために戦うのだ。この力で、この拳で。


「ーーそれじゃあ俺も、ガツンといかせてもらうぜ!」


 次の瞬間、一つの拳が魔王軍の軍勢に向かって一直線に突き進んでいった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あれは……っ! ぜ、前方からも敵襲だぁ! ーーぐわぁぁぁっ!!」


 止まることのないグレイの拳が、縦横無尽に魔王軍の隊列を破壊する。

 

「敵襲だぁぁ!! 急いで取り押さえろー!」

「ダメだ! こいつ、強い!」

「後ろからもくるぞ!」

「ぎゃぁぁ!! 助けてー!」


 そしてその拳が進むごとに、成すすべなく倒されていく声が一つ、また一つと増えていく。


「ーーはァァァ!!」


 あれだけいた魔王軍の軍勢も、気がつけば残りも、もう僅か。


「こんなもんか? 魔王軍の奴らは」


「ーー下がれ! お前ら」


 そうほざいていた最中、突如として威圧感のある声に襲われた。


 魔王軍の兵に埋もれていた前方を見ると、兵士たちが続々と真ん中に道を開け、その道を通る一つの大きな人影が現れた。


 右手には大剣を、そして普通の人の三倍ほどの大きさを誇るその体は、おもわず鬼獣族なのではないかと疑ってしまうほどだ。


「お前は……ここの中で一番強ぇな」


「ーーいかにも」


 その男の立ち振る舞いと空気感から、そいつがこの軍勢を率いる者なのだと分かる。


「お前を倒せば、この戦いは終わるんだな?」


「ーーそうだ。やれるものならな」


 必要最低限の言葉で返される。


 今まで数え切れないほどの強敵と戦ってきたが、これほど体が恐怖を覚える感覚を味わったのは初めてだ。


 だからこそここで倒さなければ、こんな者をこの先に進ませるわけにはいかない。


「ーー俺の名前は、ハンディル•グレイだ」


「リーゼ•アイン」

 

 人生で初めて行った名乗り合いを終え、グレイは戦闘体制へと入った、

 大剣を肩の上に担ぎ、瞳の中に一切『情』を宿さないアイン。その瞳を見ていると、グレイに出会う前の自分が重なって見える。ーー自嘲。


「ガツンといくぞッ! はァァァ!!」


 相も変わらず無感情の視線に晒されたまま、グレイは拳をその巨体に向かって放った。


「ーーそれで終わりか?」


 それはグレイにとって絶望そのものだった。

 自分が今まで心の底から信じきっていた拳を、反撃することなく受け止められたのだから。


 自分の中で、何かが大きく砕け散る音がした。


 ーーあー、ちくしょう! せめて声を漏らすぐらいしてくれよ!


「まだまだァァ!!」


 そうだ。まだ終わってなんかいない。一回でダメなら次だ。それがダメなら次。それもダメなら次だ。


 そう思い、巨大に放った拳をもう一度引き、それからまた動かぬ巨体へと放った。ーーダメだった。


「っ、なら次だーー」


「ーーもういい。お前は弱い」


 届かなかった。

 三度目をやろうとした拳を、空の左手で抑え込められた。


「クソッ! 放せ!」


「ーーさらば、弱者よ」


 抵抗するにも体が動かない。なんだよこいつの握力。どれだけもがいてもピクリとも動かない。まずい。大剣が来る。斬られる。やられる。殺される。負ける。打ち砕かれるーー、



「様子を見に来たら、酷い有様じゃないか。グレイ」



 ーーあぁ。今回もまた、この人に助けられるんだな。


「ーーっ、お前は!」


「『拳雄』ジュリアス•ルーカーだ。そいつを殺すのは、私に勝ってからにしてもらいたい」


「ーー良いだろう。リーゼ•アインだ」


「それはご親切に。それではいかせてもらう! ーー砲魂(ほうこん)突き!」


 少し離れたところからの一撃。それをルーカーが放った直後、左手で押さえ込まれていたグレイは横に放り投げられ、それからアインは両手で大剣を構えて放たれた衝撃波を打ち消した。


「まだまだいかせてもらうよ!」


 そこに生まれた僅かな隙に漬け込み、一瞬でルーカーの黒い拳が、アインの巨体と触れ合う。ーー否、そんな可愛いものではない。

 アインの巨体を穿とうした、と言った方が正しいのだろう。


 アインの大剣は、ルーカーの拳を防ぐのには到底間に合わない。


「うぐっ……」


 ーー完全に穿った。とは言い難いが、それでもルーカーの黒い拳はアインの巨体へと減り込み、あの動かぬ巨体に膝をつかせた。


 そのままルーカーは一旦下がり、アインの行動を見守る。

 一方これまで感じたことのない痛みを味わったアインは、大剣を杖代わりにして、何とか立ち上がる。


「流石だな、『拳雄』。そこに倒れ込んでいる弱者とは、格が違う」


「ーーーー」


 おそらく時間を稼ぎ、この状況を立て直すために必死になって頭を使っているのだろう。

 心外。なにせ時間稼ぎのために、グレイへと軽蔑の眼差しが向けられるのだから。


 たとえそれをしたのが敵であっても、今のグレイにとって、どんな攻撃よりも致命傷を与えることとなる。


「あまり私の弟子を馬鹿にしないでもらえるかな? それに、グレイは弱者ではない」


「では、一体何だと言うのだ?」


「ーー『拳雄』の一番弟子だ」


「ルーカーさん……っ!」


 だがそれとは裏腹に、世界で一番尊敬してるナックラーの言葉は、今のグレイにとって、どんな回復魔法よりも回復してくれるものとなる。


「では、そろそろ終わらせるぞ!」


「ーーっ、こい!」


 アインは賭けに出ることにした。

 もうアインにこの状況を打開することはできない。

 ならば、一か八か『拳雄』の一撃を捌き切り、少しでも勝利に手を伸ばさなければ。

 そんな焦燥に駆られ、アインは再び大剣を構えた。


 ルーカーが拳を引いた瞬間、空気が歪んだ。

 ーーそしてその拳で空気を殴った直後、世界に破壊をもたらす出鱈目な衝撃波が生み出された。


「ーー奥義•爆魂終突(ばっこんしゅうとつ)!!」


「ーーくッ、化け物め……」


 そしてその衝撃波は、空気と共にアインの巨体を丸ごと穿った。


 驚嘆。この二文字が、今の光景の全てを表していると感じたのは、グレイにとって初めての体験だった。


 そうして呆気に取られていたグレイに、ルーカーが手を差し伸べた。

 そしてその手を取り、硬直しかけていた体を何とか起こした。


「大丈夫かい?」


「ーーあぁ。助かった」


 複雑な感情だ。

 これまで信じていたものに裏切られる気持ち。ーー否、裏切られたのではない。

 信じていたものが、自分が思っていたものと違っていただけだ。


 ルーカーがいなかったら、この戦いは負けていた。


「ルーカーさん」


 このままではいけない。自分の大切なものを、自分の力で守れない。


「ーーなんだい?」


 今の自分は、アインの言う通り弱者だ。この拳を、この力を過信しすぎていた。


「俺、は……」

 

 声が震える。


「俺は……っ!」


 それでも言わなくてはならない。


「俺はもっともっと強くなって! そしていつか、俺の大切な人たちを、俺の拳で守れるようになりてぇ!」


 守りたい。この拳で、『情』を知らなかったグレイに、新たな感情を芽生えさせてくれたあいつらを。


「そしていつか、『拳雄の一番弟子』と、そう名乗っても恥じない俺になりたい! ーー修行を、つけてくれないか?」


「はっはっは! よく言った。ーーいいだろう。お前は今日から、私の弟子だ。しっかりついて来い!」


「ーーっ、はい!」


 この時、ハンディル•グレイは『約束』した。ジュリアス•ルーカーが繋ぐ強くなるための道を貫き通すと。

 そしていつか、『拳雄の一番弟子』と、そう名乗っても恥じない自分になると。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ーーッ、これは、防げない……ッ!」


 『刀騎』は、『拳雄の一番弟子』の一撃に沈められ、その身に敗北を刻みこんだ。

 意識を暗闇に閉ざした。


「ルーカーさん。ーーっ、ガツンと、勝ってやったぜ!」


 この時『拳雄の一番弟子』は、『拳雄』によって繋がれ、鍛え上げられた拳を、誇らしく天に向かって掲げた。



 ーーあの人との『約束』を、少しは果たせたかな。


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