第四章48話『嵐の前の平和』
ーーその時だった。この決意を固めた戦士たちが集う真剣な空気が漂う空間に、大きな爆音が響き渡ったのは。
そしてその爆音の正体はすぐに判明した。
それは、少年の体中の臓物全てが、飢えを訴えかける音だった。
「ーーまあ分かるぜ。もう昼過ぎだし、俺も腹減っちまったし。ネオ、昼飯作りに行こうぜ!」
「分かりました。それでは、レックスをめちゃくちゃ驚かせるくらい、美味しい料理を作りましょう!」
グレイとネオは互いに得意げに笑い、そうしこの部屋から出てキッチンへと向かった。
その二人の背中を見ていたレックスに、アンが、これまた得意げに笑って話しかける。
「あの二人の料理は格別に美味しいんだから! 楽しみにしとくといいわ」
「おう! 分かった」
「それじゃあ、私たちも行きましょう」
「そうね」
グレイとネオの後をついていくように、レックスたち三人は食卓へと足を向かわせた。
「さて、やってやりましょうか。グレイさん」
「そうだな。とびっきりってやつを作ってやろうぜ」
二人はキッチン内で互いの拳をぶつけて、とびっきの料理を作ることを決意した。
「そんで、何作る?」
「そうですね……それではーー」
「楽しみだなー!二人の料理」
「美味すぎて、他の人が作った料理を食べられなくなるかもしれないわよ?」
「そりゃ嬉しいけど、でもロンの料理も食べたい! あとじいちゃんのも」
「ロンって、レックスの連れ去られたっていう仲間の?」
リサの問いかけに、レックスは「あぁ」と自信ありげに答え、
「あいつの料理もめちゃくちゃ美味えんだ」
「へー。それはいいわね」
そう言って、あのロンとルーカーの料理を食べることができていた半年間の記憶を噛み締めた。
今でも目を閉じれば、ルーカーが握ったおにぎりや、ロンが作った卵焼きが頭の中に鮮明に浮かぶ。
やがて、キッチンの方から二人の姿が現れ、手には美味しそうな料理がさらに盛り付けられていた。
「さあ精一杯食いやがれ! 新しい戦士に、乾杯ー!」
昼間から酒を片手に大はしゃぎしようとするグレイを、アンが「グレイさん」と言って止めた。
「しれっと昼間から、酒飲もうとしない! バレバレなんだから」
「い、いいじゃねえか……ちょっとくらい」
「だーめ! ほら、これ没収っ」
頬を大きく膨らませたアンがグレイの右手にあった酒を取り上げ、そのままそれを冷蔵庫の中へと封印した。
落ち込むグレイに、酒を冷蔵庫へと追いやったアンが、元気付けようと一声かけた。
「そういうのは、この戦いに勝ってからにしましょ?」
「まあ……分かった」
グレイも、少なくともこの場ではアンに勝てないことを悟り、おとなしく言うことを聞くのだった。
その光景は、まるで娘に叱られる父親のようだった。
「ーーさて、それでは気を取り直しまして、昼飯といきましょう!」
「いただきまーす!」
「「いただきます!」」
ネオの仕切り直しのより、ようやく待ち望んだ昼飯の時間がやってきた。
食卓には、肉から野菜がたくさん並んでおり、どれもとても美味しそうだ。それはまるでーー、
「すげぇ美味ぇ! これならロンとかといい勝負するぞ!」
「そんだけ言うってことは、さぞレックスの仲間の料理の腕前も高いと言うことですか?」
「おう! でもネオとグレイさんの料理も最高だ!」
ネオは頬を赤らめて得意げに笑って「ありがとうございます!」と言い、グレイは鼻の下を擦って「へへ」と言った。
その光景はレックスにとって、久しぶりに仲間という存在を与えてくれるものだった。
食い終わったその後、レックスはアンの案内の下、グレイの家を散策していた。
最初に訪れたのは、さっき訪れた見覚えのある部屋だった。
「ここがさっき私たちが話をしていた場所、会議室だわ」
「なるほど」
そして階段を上り、新たなる扉の前に辿り着いた。
「そして次がこの部屋。ここは、私の部屋よ!」
アンが扉を開けて入ったので、レックスもそれについていって中に入った。
中は家具とかもきちんと綺麗に設置されていて、とても綺麗だった。
「いい部屋だな」
「っありがと」
その後もアンの案内の下、ハンディル•グレイの家中を約一時間ほど歩き回った。そのおかげで、大体の構造は把握することができた。
最も、把握してどうこうという話ではないが。
そうして家を一周したので、アンとは一旦離れ、リビングに戻った。
するとそこにはグレイがいて、なにやら本を読んでいた。
「あ、戻ったのか。どうだ? 俺たちの家、広いだろ?」
「あぁ。大変だったよ。ーーそれ、何読んでんだ?」
レックスがグレイの持っている本を指さし、内容を尋ねた。
「あーこれか。これは、能力っていうやつについて書かれてる本だぜ」
「ぎふ、と……ってなんだ?」
レックスが聞いたことも、当然口にしたこともないような言葉を口にしながら、それについてグレイに尋ねた。
「能力ってのは、簡単に言うと一部の選ばれた人間だけが持つことのできる、いわば特殊能力ってやつだ。もしかして初耳か?」
「うん。聞いたこともねぇ」
「ーーそういや、確か能力の有無は冒険者カードで確認できた気がするぜ。見てみたらどうだ?」
「あぁ、分かった」
レックスはバックから冒険者カードを取り出し、グレイに確認してもらうために差し出した。
「確かこの本によると、冒険者カードの裏側に載ってるだとかーーまじかよッ」
グレイがレックスの冒険者カードの裏側を見た瞬間、その表情が驚きに変わった。
グレイの震える手に握られた冒険者カードの裏側を、レックスが初めて確認する。そこにあったのはーー、
「『雷の戦士』?」
「お前、能力者だったのか! すげぇじゃねえか!」
「なんだこれ、強いのか?」
「だいたい能力ってのは、全部強いが……こりゃ見たこともねえな。ちょっと待ってろ。一応本に載ってねえか調べてみるからよ」
グレイが手に持っている本のページを一枚ずつめくっていき、レックスの能力『雷の戦士』について調べる。
しかしどれだけページをめくっても『雷の戦士』という能力は出てこず、グレイが小さくため息をついて本を閉じた。
「悪いが、この本には載っちゃいねえようだ」
「そっか。……まあでもいいや。強そうだし」
雷の魔法を用いた技を使うレックスにとって、持つ能力が『雷の戦士』というだけで、嬉しいことだった。
それに、いつか必ず分かる日が来ると思い、レックスはあまり気に留めておくことはしなかった。
やがて日が暮れ、またレックスたちは食卓を囲んでいた。
「いただきまーす!」
今レックスにとっては、この日はあまりにも多くのことが起き過ぎて、ようやく今一息つけたと言っても過言ではなかった。
美味しい食べ物を食べると自信が湧く。勇気が湧く。元気も出る。
食事とはこのように人々が営む大切な儀式だ。いや、人々だけではない。動物も、多分植物も食事を営み、そして生命を育む。
最も、普段はそんなことを考えたりしないのだが。
そんな儀式の時をレックスは一番に楽しみ、そして来たるべき戦いへと魂を向かわせる。
「明日は、ぜってぇ俺たちが勝つ。そのためにここまでやってきたんだ!」
「えぇ、あったりまえよ!」
「ですね!」
「私も同じことよ」
「俺もだ!」
この場にいる全員が、明日への戦いへと魂を向かわせる決意を示したのだった。
そうして食べ終わり寝室に入ったレックスは、疲れ切った体を休めるためにいつもより早く寝床についた。
やがて瞼が重くなりそれに任せて目を閉じた。
次に目を開けた時は、グレイの家でアンたちと戦い、すなわち『地下都市奪還作戦』の始まりを告げる挨拶をして、それでーー、
「ーーえっ?」
目を開けると、そこは知らない天井と壁とベット。それだけでも十分驚くための材料は揃っているが、それ以上に一番驚いたことがあった。
「ここは……どこ、だ?」
ーーそこは、戦士ジュリアス•レックスの記憶にない場所だった。




