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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第一章『モンスターの襲撃』

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第一章5話『ケジメの付け方』

「やべぇ……っ!」


 突然変異した十三体のゾンビ。原因は不明。ただし肉体面においても、精神面においても力が倍増したのは確か。

 理由など考えてる場合ではない。対処しなければ。なのにーー、


「これじゃあ、考える暇もねぇ!」


 突然変異したゾンビを倒せないわけではない。どんな生き物も、例外を除けば首が切られたら死ぬ。心の臓を貫かれたら死ぬ。ただ、そこまでの道のりが遠ざかっただけなのだ。


 だがそれらが一斉に自分を取り囲めばどうだろう。成すすべなく、袋叩きにされて終わりだ。ーーそんなことは分かっている。


 だからこそ、あったはずだ。この状況を打破する究極の一手が。なのに、それを思い出そうとするのを、迫り来る『死』が邪魔してくる。


 突然変異したゾンビのパンチの威力は高く、その威力は剣で防いだとしても少しよろけてしまうほどのものだった。それが何発も繰り返されるとなると、『死』の身近さを感じずにはいられない。


「思い知ったか、ニンゲン! これが俺たちの決意の力だ! どうだ、反撃することも叶わぬだろう?」


「はん、げき……」


 レックスがチーフの言った『反撃』という言葉の言の葉を紡ぐ。なにかが引っかかるのだ。


「はん、げき……はん、げき……反撃……って、そうだ。あれだ!」


 レックスが諦めることなく言の葉を紡ぎつづけそれがついに功をなした。思い出したのだ。究極の一手を。


「チーフ、ありがとよ。おかげで、勝てそうだ」


「ーーは?」


 敵ながら勝利の可能性を与えてくれたチーフに感謝を言い、レックスは反撃の準備へとかかる。無論、殺したいと思っている相手から感謝を言われたチーフの反応など、言うまでもないが。


 剣に蓄積したダメージは、溜まっている。

 倒すべき敵は、全員近くにいる。

 体力は、残っている。

 ーー条件は、満たされている。


「ーーなにをするつもりだ、ニンゲン!」


「何って、そりゃ反撃に決まってるだろ。お前が叶わぬとか言ってた反撃をだよ」


「ーーお前、名前は?」


 チーフは込み上げてくる無数の疑念と憤怒を抑え込み、今までニンゲンに聞いたことがなかったことを聞く。


「俺の名前はジュリアス•レックスだ」


「ジュリアス•レックスか」


 チーフが憎いニンゲンの名前を小さい声で紡ぎ、そしてニヤリと笑った。


「改めて、俺は魔王軍幹部、ゾルト•チーフだ。いいぜ、お前の反撃を見せてみろ!」


「そんじゃあ、いくぞ!」


「こい! ジュリアス•レックス!!」


 チーフが両手を大きく広げ、そして構えの姿勢に入る。

 一方レックスは手に握る剣を天に向かって突き上げる。

 絵に描いたように綺麗な戦闘構図。残念なことは、それが一対一ではなく、一対十四ということだが。


「ーーっ」


 突如チーフはゾンビで隠れて見ることができず、知る余地もなかったことだが、攻撃が当たったわけでもないレックスの体を、致命傷級のダメージが蝕んでいた。


 その代わりに天高く突き上げたレックスの剣が、空気を歪ませるような青い光を纏っていた。

 そしてその剣の様子はチーフも確認しーー、


「ーーこれがお前の反撃か。面白えじゃねえか」


「セーブカウンターぁぁぁーーーっ!!」


 そして、天高く突き上げられていたレックスの剣が振り下ろされ、それからこの森の全てを覆い尽くすような青白い光の暴波が放たれた。


「ちっ、やるじゃねえかよ。ジュリアス•レックスーー」


 刹那、チーフの世界から音という概念が失われ、世界の色が白一色に染め上げられた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 セーブカウンター。それは、ジュリアス•レックスが、強敵との戦いを繰り広げるために自ら編み出した必殺技ーー否、諸刃の剣の技だ。


 そして、技の威力は、文字通り敵の強さに依存する。理由は単純。その源は、剣に蓄積されたダメージに依存するのだ。

 相手の攻撃をたくさん防げば防ぐほど、その分セーブカウンターの威力が上がり、防いだ攻撃の威力が高ければ高いほど、その分セーブカウンターの威力が上がる。つまり、受けた相手の攻撃を全て丸ごと跳ね返して、大逆転を狙える技なのだ。


 では何故、こんな便利な技が必殺技ではなく、諸刃の剣なのか。その理由は、セーブカウンターを発動した瞬間に、蓄積されていたダメージの半分を自分も受けてしまうというペナルティにある。

 だから、悲しいかな、セーブカウンターを相手に当てる前に自分が倒れることも少なからずある。それで敗北したことは幸い前例がないが、きちんと発動する際はこれを踏まえなければならない。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ーー白一色に染まり切った世界が色を取り戻し、失われた音という概念も取り戻されつつあった。

 色が取り戻された世界では、周りにあった木々は消滅し、ジュリアス•レックスのことを取り囲んでいたゾンビ十三体は塵となっていた。


 悔しいが認めざるを得ないだろう。チーフはレックスに勝てない。そして、心の底から憎むことができないということを。


「はぁ、はぁ、はぁ……おい、チーフ。これで、話くらいは、してもらう気に、なったか?」


「ーーーー」


 あいつはーージュリアス•レックスは大馬鹿野郎だ。

 こんなにボロボロになってもなお、自分のことを心の底から殺そうとしてくる敵と話をしようとするのだから。大馬鹿野郎以外になんだというのだ。


 でも、そんな大馬鹿野郎のおかげでハッキリと分かった。これから生まれてくるゾンビが、ニンゲンに怯えずに暮らす方法を。

 ニンゲンを皆殺しにするよりも、ニンゲンに歩み寄る方がいいのだということを。


 でも既に魔王の瘴気に侵されてしまった、魔王軍幹部、ゾルト•チーフには、こんな綺麗な夢を叶えるどころか、その夢に向かうことすらも許されない。

 だが、それでも同胞たちの未来を守りたい。そして、それがどんなに傲慢なことであっても構わない。ならばーー、


「ジュリアス•レックス。頼みがある」


「ーーあぁ、なんだ?」


「俺を、魔王軍幹部、ゾルト•チーフを……殺してくれ」


「ーーーー」


「解放してくれ。俺を、魔王の瘴気の呪いから」


 これが、塵となった仲間と同じ運命を辿ることが、魔王軍幹部、ゾルト•チーフなりのケジメの付け方であり、傲慢な望みなのだ。

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