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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第三章『終焉を知らせる黒炎』

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第三章43話『再スタート』

 おそらく痛みからして足をレーザー魔法で撃ち抜かれたのだろう。もしルーカーが回避行動をとっていなければ、今頃どこを撃ち抜かれていたかなど分かったものじゃない。


「Rさん。ロンとスイプを連れてきました」


 激しい痛みの中、見えたのは黒いローブを被った背丈の高い男だ。

 この場に居合わせ、さらにルーカーを襲う人物など、魔王軍ーーすなわちRの部下としか考えられない。


 さらに驚くことが起きた。さっき倒したRの体が黒い炎に包まれ、やがて立ち上がった。


 そしてその復活した思い声が、この森に響き渡る。


「ーーガートか」


「おや、もしや私は余計なことをしてしまいましたか?」


「いや、気にするな。ーーロンとスイプを捕らえたのか。ご苦労だ」


 Rといえど、やはり正々堂々の決闘で自分を倒した男を部下に攻撃されては思うところも大いにあるだろう。


 だが、今のRは腐っても魔王軍特別幹部という立場の人間。自分を援護しようと、ルーカーに攻撃したガートが攻められることは断じてない。


「褒めていただき光栄です」


 ガートはその言葉を噛み締め深々と礼をし、魔王軍とは思えないほど上品な振る舞いを見せた。


 やがて足を撃ち抜かれた男ーールーカーは、なんとか着地した。だが、足の痛みが予想以上に骨に響き、上手く立ち上がることができなかった。

 そして、ルーカーは怪訝そうな顔をしてRたちを見る。


「悪いなルーカーさん。卑怯な手を使って」


 Rは自らの立場に縛られつつも、せめて謝罪の一言くらいは言うべきだと思い、謝罪の言葉を発した。


「ーー何も卑怯だとは言わないよ。実際、攻撃が来ると分かっていながらも、避けられなかった私のミスだ」


 ルーカーは顔色一つ変えずに、Rの謝罪を自分のせいだと否定した。


「ーーそうか」


 Rの安堵とも取れないその呟きを発した時、雷が走るような音が森中に響き渡り、やがてそれはこちらへと迫ってきた。


「ここらへんか?じいちゃんがいたのは……っていたーーっじいちゃん!」


 そこに現れたのは白髪の剣士の身柄を抱えて走ってきた青髪の男ーージュリアス•レックスだ。


 レックスはそのルーカーの様子を見るあまり、驚いて急いで駆け寄ろうとした。だが、それを本人に止められた。


「来るな!こいつらの目的はあとレックスだけだ。ーー分かるだろう?」


「モートのやつ、しくじったのか」


「俺だけって……っ二人とも!」

 

 レックスはそこで初めて仲間が敵に捕まってしまい、そしてここで自分まで捕まってしまうことの罪深さを理解した。


 だが、捕まえたというならばこちらも同じこと。レックスが抱えている人物こそ、魔王軍の二大幹部だ。


「レックスか。久しぶりだな」


「久しぶりだと?俺はお前みたいな奴とは会ったことも、なんなら戦ったこともないぞ」


「ーーやっぱ忘れてくれ。それより提案がある」


 状況を冷静に判断した結果、Rはとある提案をレックスに持ち掛ける。レックスもそれをおとなしく聞くのがいいと思い、黙って頷く。


「今回、俺たちはロンとスイプを。レックスはモートを捕らえたわけだが、これでは埒が開かねえだろ」


「ーーーー」


「そこでだ。レックスはモートをこちらに返す。そうすりゃ、今回はレックスを見逃す」


「俺を見逃すって……ロンとスイプは返してくれねえのか?」


 レックスは左足を下げて剣の柄少し触れ、いつでも戦えるように構えを見せた。


 だが、そんなレックスのことを、鬼の仮面が恐ろしいほどに睨みつける。まるで命令するかのように。


「この状況が、どれだけお前たちにとって不利なものなのか分からないのか?ーー俺はいつでもお前たちを倒せるぞ」


 背筋が凍り、絶対に逆らってはいけないと言う生存本能が身体中に呼びかけている。


 だが、レックスはそんなことを言われて下がるような男ではない。

 そこにいたのがレックスだけならば、今すぐにでもRに斬りかかっていたことだろう。


「レックス!……お前も消耗し、私も怪我を負っている。さらに奴の言っていることは脅しのための虚言でもなんでもなく、単なる事実だ。ーー飲み込みなさい」


「っじいちゃん。ーー分かった」


「ーー決まったようだな。それでは、事を隠密に進めよう」


 レックスはモートの身柄をRたちの前にそっと置いて、そこからゆっくりと離れた。


 鬼の仮面の男はそれを確認すると、それを肩に担ぎレックスたちの方向を見た。


「ホール魔帝国だ。ここから北の方角に進むと辿り着ける。そこにこの二人を監禁しておく。助けたければ、そこへ来るがいい」


「ーーーー」


 なぜRがわざわざレックスにそれを伝えたのかは分からない。だが、レックスはその助言を素直に受け止めるのだった。


「また会おう。ルーカーさん、そしてレックス」


ーー鬼の仮面を被った男、そして黒いローブを被った背丈の高い男。そして倒れた三人の身柄が、黒い炎と共に消えた。


「くそっ!」


「ーーすまないレックス」


「じいちゃんは悪く、ねえよーー」


 レックスはこの戦いで、手の届かないほど強い格上の存在のこと。そして初めての味わう敗北の味と、それにより失ったものの大きさを実感した。


 そしてモートとの白熱した戦い、そしてその後に降り注いだ悪夢。それらが疲労として積み重なり、今その積み重ねていた分が一気に押し寄せてきて気を失った。


 ーーそしてそれと同時に、ブレイク冒険団団長、ジュリアス•レックスの冒険は終焉に包まれ、そして闇へと葬られた。





 ーーどれだけ寝たのだろう。ここずっとこの黒い世界に囚われている気がする。

 

 初めて味わった敗北。

 それによって初めて失った大切な仲間。

 そしてそんな大切な存在に、どれだけ自分が助けられていたかということに初めて気づく。


 そんな大切な存在がいなくなったことにより、独りになってしまった。


「ーーここは……」


「レックス、起きたのか」


 目を覚ますとそこは見慣れた木でできた壁と天井。そして左足を負傷して椅子に腰掛けている見慣れた老人の姿。ーーつまりここはルーカーの家だ。


 レックスはルーカーにより、あの戦いから二日間ずっと寝ていた事を知る。でもこれだけ寝ても、全てが良くなるわけではない。


 話を聞いていると、途端にレックスにあの苦い記憶が刃物のように、そして津波のように襲いかかる。


 もし時間が戻るならば。

 もし、これが何かの悪い夢ならば。

 そんなことを何度も願った。

 

 後悔の雨がレックスに降り注ぐ。それは時計の針が進むごとにレックスの心を蝕み、そして闇へと葬ろうとする。


 レックスは悔恨に打たれ、そして泣き叫んだ。このルーカーの家で。この焼けた森で。この、残酷な世界で。


 「っくそ、なんでなんでなんでなんで、なんで! ……なんで俺はこんなに弱いんだ……?」


「ーーーー」


 そんな身勝手な質問に返ってくるのは、長い長い沈黙だけ。決してレックスが望む答えが返ってくることはない。


 そんなことを分かっていても、レックスは自分が納得できる答えを求めることを止まない。


「じいちゃん!俺はどうするべきだったんだ? どうすれば! ……どうすれば、あの結果を免られた?」


「ーーーー」


 もしもあの時、モートとの戦いを拒んで逃走し、他のみんなと合流して戦えば、何か変わっていたのだろうか。


 もしもあの時、もっと早く自分の焦りをもっと早くなくすことができていたらば、何か変わっていたのだろうか。


「俺は、俺は、俺は! こんな俺が惨めで嫌いで仕方がないんだ……」


「レックス……あれはーー」


「仕方ないわけねえよ! 俺がもっと強ければ、もっと強ければ……あいつらも、いや全部、守れたはず! なのに……」


 ルーカーは仕方がなかったと言おうとしたのだろう。だが、そんな声をレックスの無念な叫びが遮った。


 根本的な話、レックスにもっと力があれば、このような事態には陥らなかったのかもしれない。

 レックスは、自分の弱さを可能な限り限界まで呪った。


 そんな絶望と呪いと悔恨に埋め尽くされたレックスの世界に、優しい声が響き渡る。それは紛れもないレックスの祖父ーージュリアス•ルーカーの優しい声だ。


「ーースイプ君は、初めの頃どうすれば極限集中(ゾーン)を会得できるか全く分からなくて、大いに悩んでいた」


 それがどうしたというのだ。そんなスイプも戦いに敗れ、あいつらーー魔王軍に連れて行かれた。


 それもレックスがもっと強ければ防げていたかもしれない未来だ。


「だが、彼は彼なりに答えを見つけ出して、そして強さを手に入れた」


「ーーーー」


 だけど、スイプが見つけ出した答えも、強さもあっけなく打ち砕かれた。一体そんなこと、何の意味があると言うのだ。


「ロン君は初めの頃大変だったな。なんせ過去の記憶がなく、それに加えて自分のことを心から信じることができなかったもんだったからな」


「ーーそう、だったのか」


 どうだっていい。そんなことを知るよりも、あの時どうすべきだったのかを知るほうがもっと楽になる。


 辛い時、一番楽なのは過去の自分を恨むこと。

 それは何も生まない。

 それは何も変えられない。

 そんなことは分かっている。分かっているが、それに心が追いつかない。

 だから、弱者は大人しく過去の自分を呪う。


「だけど、彼も彼なりに答えを見つけ出し、そして強さを手に入れた」


「ーーーー」


 でも、ロンが見つけ出した答えも、強さもあっけなく打ち砕かれた。

 もうだめなんだ。なにをしても、どうにもならないんだ。


「レックスも同じだろう? ここに来た時は、魂力(こんりょく)と言う言葉すらも知らないで、相当苦労したはずだ」


「ーーあぁ」


 そんなことは分かっている。

 やめろ、やめてくれ。過去の自分を肯定しないでくれ。じゃないと、余計に今の自分が惨めになる。


「だけど、お前もお前なりに答えを見つけ出して、そして強さを手に入れた。ーー違うか?」


「ーーいや、違わない。けど……」


 ルーカーは快感に打たれた少年であり、そして自分の大切な孫ーーレックスに歩み寄り、そして肩に手を乗せた。


「ならば、自らが見つけ出した答え、そして強さを信じ、諦めずに貫き通すべきじゃないか?」


「っでも……」


「それともお前の、仲間に対する思いはーー約束に対する思いは、一回の絶望で簡単に折れてしまうものなのか?」


 レックスが少し前、ルーカーに自らが子供の頃にとある少女と交わした約束のことを話していた記憶がふと蘇る。


 その想いだけは否定されてはならないと、胸の奥から凍りついていたものが一気に溶ける感じがした。

 そしてやがて身体中がぐっと熱くなるような感覚に襲われ、そしてつい心のーー否、魂の叫びが漏れた。


「そんなことねぇ! ……ぁ」


 ルーカーはその言葉を聞いて、優しく微笑んだ。そして、続けて言葉を(つづ)る。


「ならば、それを証明してこい。それが、それこそがブレイク冒険団団長、ジュリアス•レックスに課せられた務めというものだ」


「俺に課せられた、務め……」


「あぁ、そうだ」


 絶望と呪いと悔恨に埋め尽くされていたレックスの世界に、光が灯った。


 やらなければならないことは分かった。

 あとはそれをやるだけだ。


「ーーありがとうじいちゃん。俺のやるべきことが分かった」


「……あぁ、それでこそ私の自慢の孫だ」


 ルーカーはレックスの頭をそっと優しく撫でた。



 もうたくさん泣いた。

 もうたくさん叫んだ。

 もうたくさん自分を罵倒し、そして呪った。


 ならば次は自分を傷つけて楽になろうとした分、前を向いて剣を掴み、再び前を向いて立ち向かわなければならない。


 それがブレイク冒険団団長、ジュリアス•レックスに課せられた務めなのだから。



 ーーここから再スタートするのだ。一度は終焉に包まれて闇に葬られてしまった物語ーーブレイク冒険団団長、ジュリアス•レックスの冒険を。


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