第三章41話『エスケ•モート』
さっきより、随分気が楽になった気がする。
レックスは自分の勝利を諦めない。無論、それはいつもやっていることだ。
これまでと違うこと、それはレックスがルーカーの教え通り、自分が勝利する未来を鮮明に思い描いたことだ。
またもや、モートは姿を消した。
だが、今度はさっきとは違う。なにせ、ルーカーの教えをまた一つ、自分のものにしたのだから。それがあくまで精神論だとしても、その効力は計り知れないだろう。
「また消えた。でも今度はーー」
「ーーちっ」
「目で追える!」
故に、このような命のやり取りでも、焦らず自分の本領を全て出す事ができる。そんなレックスには、もう戦闘において恐れるものは、ほとんどないだろう。
今も実際、雷そのもののようなモートの刀を、焦らず対処する事ができた。
「楽しいなぁおい!」
「ああ、そうだな」
その後も二人は雷を纏って、共に剣やら刀やらを振りかざす。それはまるで、雷の織りなす舞のようだった。
二人の攻撃がぶつかるたび、この森中に大きな衝撃波と、金属音が走るのが分かる。
そして、レックスはこの戦いに終止符を打つための準備に取り掛かる。
するとレックスは、さっきまでのように高速で移動してモートに斬りかかるわけでもなく、ただ何もせず立つ事をした。
「ーー? 何をやってるんだ?
「ーー特訓の日々を思い出せ」
そう呟いたレックスは、全方位から迫りくる雷の刀を、ただ焦らず落ち着いて、一つずつ全て避けた。
「ハハ! すげえ。まるで未来でも見てるなかった思っちまうぜおい」
その後も全方位からの攻撃が止むことはなく、それをレックスは時々剣で防ぎつつも、大体避けていった。
その様子に、だんだんとモートも疑念を示すようになってきた。
「さっきから何をやってるんだ?さっさと反撃しちまえばいいのに。ーーまあ俺がいうセリフじゃぁねえがな」
ーー分かるのだ、どこに攻撃が来て、今モートがどこにいるのかが。分かるのだ、今すべきことは何かが。
そして見えるのだ、『道』が。
そして、モートが空中で縦に一回転した後、その体制のままレックスに斬りかかった。その速度は相変わらず凄まじく、避けられなかったらひとたまりもないのは、さっきと同様だ。
「喰らえ、サンダーギロチン!」
そう、このモートの技は、言うならばそれはまるで罪人の命を奪うギロチンのようだった。
だが、極限集中の景色を見ているレックスには、これを避けることも難しい芸当ではない。
モートは、刀が地面に刺さった時、本来ならそこで剣を抜いて次の攻撃に移動することだろう。だ
が、ここでは本来の通りにはいかなかった。
「ーーっ! お前さん、俺の足を……それになんだ、そのボロボロの体は。お前さん、俺の攻撃は全て避けていたはずだぞ」
攻撃を避けたレックスは、今度はその攻撃を行っていた張本人の足を掴んでいた。これでは、次の攻撃に移行するどころか、攻撃を避けることもできない。
そしてさらに驚くべきことに、これまでモートの攻撃を一回も喰らっていないレックスの体は、なぜかボロボロになっていた。
まるで、モートの攻撃を何度も喰らったかのように。
そしてさらに、レックスの剣はこれまでの青色の雷に加えて、青いオーラのようなものも放っていた。
「ーーどうやらまずいようだな」
そして、刀使い、エスケ•モートは自分の敗北を自ら悟った。だがそれでも命乞いはしない。なにせ、自ら始めた決闘に負けたのだから。
むしろ、さっきよりも笑っているように見える。
「ありがとな、モート。お前のおかげで、俺はさらに強くなれた。ーー楽しかった」
「ははは。煽りじゃねえかよ、まるで。でも嫌いじゃないぜ。お前さんのこと」
「セーブカウンター!!」
モートは、自分に降り注ぐ敗北の運命から免れるために、悪足掻きをすることも可能だっただろう。
だが、モートはそれを選ばずに、自らの敗北を潔く受け入れた。
潔く負けを認める事が、いい事だとは限らない。実際モート自身も、そしてレックスも、その答えに辿り着けていない。
だがそんな中、モートには確かな決意が一つ生まれた。そして、倒れ際にその決意を呟いた。
それは、負け犬のような言葉だが、モートにとって、たとえ今後何があろうと、絶対に揺らぐことのないものだ。それはーー、
「ーー次は絶対負けないぜ。レックス」
「……望むところだ」
二人は固い握手を交わし、やがて刀使い、エスケ•モートの意識は遠ざかった。
こうして、雷の織りなす舞のような祭りは幕を閉じた。
レックスは倒れたモートの身柄を抱え、先ほど黒い炎が空に向かって上がっていた地ーールーカーのいる場所へと、向かうのだった。




