第一章4話『暴挙と共犯者』
「や、やべぇ……っ!」
チーフのお腹を斬ることができず、刹那の一瞬、レックスの動きと思考が止まってしまった。無理はない。誰でも、ゾンビを斬ろうとして剣を当てた時の感触が、鋼鉄に当たった時の感触ならば、必ずしも一瞬は驚いてしまうものだ。
ただ悪かったのは、それを、チーフは全て計算した上で作戦に入れているという彼自身の恐ろしい頭脳の高さだ。
しかし、誰にもこの状況をなかったことにはできない。ならば立ち向かわなければならない。この絶望の状況に。なのにーー、
「数が、多すぎる……っ」
ゾンビは個としては非力で弱いモンスターだ。しかしそれらを導く者がいる場合は別の話。
集団で頭脳を使って一斉に襲ってくるとなれば、それは他のどんな猛獣もモンスターも魔獣すらも凌駕する脅威へと成り果てる。まさに、数の力だ。
「なんて、言ってられるかよ!」
ならば、猛獣もモンスターも魔獣も凌駕する脅威を凌駕すればいいだけのこと。故に、剣士、ジュリアス•レックスは剣を振るう。それだけだ。
「はぁぁぁああっ!」
「「ヴァァァ……ッ」」
剣を一振りすれば目の前にいた二体のゾンビが塵となり、もう一振りすればそれを援護しに来たもう一体のゾンビも塵となる。
それだけのことがずっと続けば、この戦闘はただの単純作業となる。ーー今述べたようなただの単純作業が続けば、一体どれだけ楽なのかなど計り知れたものではない。
それに気づいたのは、合計七体のゾンビを塵に変えた時だ。
「ーー嘘、だろ……」
「「「ヴァァァーーッッ!!」」」
ーー残り十三体のゾンビたちの凶暴さが、先より数倍増した。
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舞い踊るような少年の剣技。ーー憎い。
それに立ち向かうも、成すすべなく斬られていく同胞たちの群れ。ーー堪えられない悲しみと怒り。
周辺に待機させてあった二十体ほどのゾンビを、あのニンゲンが刹那の隙を見せた瞬間に袋叩きにする作戦だった。
実際、あのニンゲンが隙を見せた際、待機している皆に脳内伝達を使って襲うように指示した。
だが悲しいかな、倒れていくのはニンゲンではなく同胞。ーー何故だ。
何故、ゾンビが負けてしまうのだ。
何故、少年一人の命すらも断つことができないのか。
憎い。ニンゲンが憎い。自分たちをこんな目に合わせたニンゲンが憎い。
こんな少年一人に苦戦していては、シェイク村のーーいや、全世界のニンゲンを皆殺しにする計画など、到底果たせたものではない。
自分たちがやらねば、これから生まれてくるゾンビの未来を壊されてしまう。醜いニンゲンに。
そのためにも力が必要だ。あのニンゲンの少年を簡単にねじ伏せることができるほどの力が。そのためにもーー、
『俺たちの代で、この地獄を終わらせるぞ!』
分かっている。おそらくこの少年はゾンビたちに何もしていない。チーフの考え方、やり方は間違っている。そんなことは重々承知の上だ。
だから、これは魔王軍幹部、ゾルト•チーフの暴挙だ。それでいい。それで、後世のゾンビがニンゲンに怯えずに過ごせるなら。ーーそのために、わざわざ魔王軍に入ったのだから。
そして言うまでもないが、今脳内伝達を送った先はこのチーフの暴挙についてきてくれた共犯者たちだ。
この共犯者たちも分かっているはずだ。自分たちが、どれだけ愚かなことをしているのかぐらい。
その上でついてきてくれている。ほんと、感謝しかない。
だからこそ皆で勝ち取るのだ。ゾンビの勝利を。
「「「ヴァァァーーッッ!!」」」
そのチーフの想いを汲み取った共犯者たちの肉体と精神が、今までとは比にならないほど倍増した。
そして、その強靭で巨大な肉体を持つモンスターの軍勢が、壁を作るようにニンゲンを囲い込み、そのまま袋叩きにする。ーー実にいい。
ーーこの戦闘の中で、チーフは初めて喜びの感情を得た。




