第三章38話『互角の存在』
「始めようか、ルーカーさん」
「はて、魔王軍と戦うのは何十年ぶりだろうか。ーーやはり戦いは胸が躍るな。それも相手が私と同じ、ナックラーとは」
「ーー大黒炎災」
その直後、灼熱の黒い炎を纏った風のようなものが、あたりを埋め尽くそうとした。
流石にこれを喰らえば無事じゃ済まないと悟り、拳に魂力を纏って拳を放ち、それにより発生した大きな衝撃波によって炎を打ち消して、なんとか自分の身を守った。
だが今の一撃で、ルーカーたちがいる場所は平らな地面となり、その少し離れた木々は火が移り、ルーカーたちの周りは炎のリングのようになっていた。
「ーーさて、これはもう始まったということでいいんだな?」
「ああ、構わない」
「それでは遠慮なくいかせてもらうよ!」
ルーカーは、レックスたちとの特訓の時のように高速で移動し始めて、やがて姿が見えなくなった。
「極限集中」
Rがその姿を捉えようと、極限集中を発動する。その時、黒い仮面越しにも、左目が黒い炎に包まれたことが分かった。
そして、Rが黒い炎を纏った拳で放った衝撃波は、ルーカーが移動する少し先を的確に狙っていた。
ルーカーはその攻撃に即座に反応し、自分の黒い拳を当てて相殺した。
流石に危なかった。だが久しぶりだ、これほど自分の身に『死』が迫っている感覚は。
だからこそ面白い。戦いというものは。
ルーカーはまた方向を変えて、高速移動して攻撃する隙を図る。
だが、どこに向かおうと、奴の攻撃は的確に自分のいる場所へと向けられる。
「まるで未来でも読んでいるのかというほど的確な攻撃だな。流石、伊達じゃないな、特別幹部というのは」
「それは、ルーカーさんのーーいや、やめておこう」
その呟きをしている頃には、ルーカーは空高く飛んでいて、気がつけばRの真上にいた。
そしてルーカーの体勢は逆さになり、全身の魂力を足にこめて空気を蹴って、Rに向かって一直線に突撃する。
その間に、足に使っていた魂力を一瞬で全て拳に込めて、その拳を全身の魂力を込めた拳を、Rに突き立てる。
それに即座に反応して、Rは黒い炎を纏った拳を、ルーカーの拳にぶつけた。
分かることは、この戦いは、今までやったり聞いたりしてきた戦いとは全く比べ物にならないものであり、それこそ別次元の戦いであるということだ。
両者の拳がぶつかった時、そこでは大きな突風と衝撃波が発生し、さらに周りの木々を吹き飛ばした。
「五十年前に戦った特別幹部より余裕で強いとは、実に驚きだ」
ルーカーは、空中で一回転して、地面に足をつけた。そして静かにRを睨む。
それからして、ルーカーとRは共に見合いながらゆっくりと歩き、言葉を交わす。
「なぜレックスたちを、ブレイク冒険団を連行しようとする?」
「いくらルーカーさんでも、それは話せない。ーーまあ俺を倒したら、何か知れるかもな」
「そうか。それでは遠慮なくいかせてもらおう!」
ルーカーとRは同時に姿を消し、刹那、互いに空中で拳を交わしていた。
そして、ルーカーが移動した先には、さも当然かのようにRが先回りしており、拳を振るってくる。それに拳をぶつけ、相殺する。
そんなことが、約十五回ほどこの森の空中で起きた。
それでも、両者には傷一つもない。
「さて、あいつらはレックスたちを無事に捕えられただろうか……ッッ!」
Rが戦闘以外のことを一瞬、頭の中で考えた瞬間を、熟練のナックラーは見逃さない。その瞬間に、一気に距離を詰めた。
これが、Rがどう足掻いても埋められない、ルーカーとの経験の差というものだろう。
「油断とは頂けないな。せっかくの楽しい時間だというのに、勿体無いじゃないか」
すぐそこに迫っていたルーカーの拳に、Rは慌てて腕をクロスにして防ぐ。
だが、またその一瞬の隙を、熟練のナックラーは見逃さない。
ルーカーはRに向けて、高速で拳を振るった。それは二つしかないはずの拳が、十個に増えたように見えるほど、速い攻撃だ。
Rは急いで拳を、ルーカーの攻撃に的確に合わせにいく。だが、最後の一発を喰らってしまった。そしてまた、わずかな隙が生まれる。
またもやその瞬間をルーカーは見逃さなかった。そこに向かって思いっきり踏み込み、拳に全身の魂力を込める。
「砲魂突き(ほうこんつき)!」
ルーカーの全身の魂力が込められた衝撃波が、刹那の一瞬、隙を見せたRに向かって容赦なく降り注ぐ。
流石にまずいと思ったのか、Rは黒炎を全身に纏い、刹那の一瞬で別の場所に瞬間移動した。
その様子っぷりから、黒い仮面を被った男は、大きく深呼吸することを強いられるほど、追い詰められていたのが分かる。
「分かっただろ、まだ戦闘経験の浅い若造。戦闘中に刹那の一瞬でも油断していると、後に痛い目を見ることを」
「ーーあぁ、肝に銘じておく」
Rは敵であるルーカーの教えを、一切拒むことなく、素直に受け入れたのだった。
「ーーもう同じヘマはしない。ーー大技を繰り出してやる」
「こい!全身全霊で、お前の大技を叩き潰してやる!」
なぜこのように言ったのか。そんなことは単純だ。
それは、ルーカーがただ純粋にRを自分と互角に渡り合えるナックラーだと認め、そして、その互角のの存在の全力を、自分の全力で叩き潰したいという闘気が湧いたからだ。
「こい、黒炎龍!」
Rはその黒い炎を纏っている手で地面に触れ、やがてRの近くの地面は、黒い炎に包まれた。それはまるで黒炎の海のようだった。
そしてそこから、黒い炎の物体が五つほど出現し、それはやがて龍のような形へと形作られていった。
それらは全て意思を持って生きているようで、Rの後ろで指示を待っているようだった。
「これが俺の大技、そして全力だ。行け、黒炎龍!」
龍の形を成した黒い炎が、容赦なく一斉に伝説のナックラーへと降り注ぐ。
おそらく、これに当たればあっという間に丸焦げになり、それだけで即ゲームオーバーだ。
「当たれば即ゲームオーバーか。これは、本当にーー」
一つの黒炎龍が、ルーカーを飲み込もうと大きく口を開けてルーカーに接近した。
「面白いな」
ルーカーは、ただ子供のように笑っていた。




