第三章37話『終焉を知らせる黒炎』
「それじゃあ、今日も特訓を始めるぞ」
「おう!」
じいちゃんの家に来て特訓し始めてから、もう三ヶ月経った。レックスたちは魂力をより一層扱えるようになり、極限集中も会得した。
「それでは今日もいつも通りだ。スイプはガイカラスの討伐をーー」
「そのことなんだがルーカーさん。俺もう全体撃ち倒しちまったぜ」
「な、本当か?すごいじゃないか!」
「へへー」
「ーーそれでは、確かこの森にガイイノシシというモンスターがいたはずだ。そいつは前にも話した事があると思うが、大きな図体で突進してくるモンスターだ。そいつを、ロン君とスイプ君二人でで討伐してくるんだ」
「イノシシか。今日の飯になりそうだな」
「よし。ロン、行こうぜ」
「気をつけて行くんだぞー」
「ロン、スイプ、頑張れよー!」
二人は森の奥へと入っていった。そして、次にルーカーは、レックスの方を見て、今日の特訓内容を伝えるり
「それでは、今回のレックスの特訓内容は、この森中の木の上を飛び回りながら一周することだ。魔力と魂力をうまく使いこなすんだぞ」
「おう、分かった!行ってくる!」
「気をつけて行くんだぞー!」
足に雷の魔力を集中させて高速で移動する技ーー雷足。この三ヶ月間、レックスは魂力を鍛えたことにより、より一層早く、そして少ないエネルギーの消費で、動けるようになった。
「じゃー。行くか」
レックスは森中の木の上を飛び回り始めた。
一見とても大変そうな特訓内容だが、今のレックスには、あまり大変だとは思えないものだ。
同じくして、この森にはもう一つの、いや三つの不穏な黒い影があった。
一つは、鬼の仮面を被った影。
一つは、魔法使いのようなローブを被った影。
一つは、腰に刀を刺した影だ。
「俺がジュリアス•ルーカーと戦う。ガートはジュリアス•レックスを。モートはイストス•ロンと、シルフィルド•スイプを倒しに行ってくれ。何度も言うが、必ず、生け取りにしろよ」
黒いグローブを身につけ、鬼のような黒い仮面を被った男が、仲間に指示を出す。
「分かったっす」
「了解です」
腰に刀を刺した影と、魔法使いのようなローブを被った影が、鬼の仮面を被った影の指示を聞き、そして一瞬にして、二つの影が姿を消した。
「それじゃあ、俺も行くか。ーー待ってろよレックス」
鬼の仮面を被った影は、黒炎に姿を消した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの記憶が蘇って以来、ロンは過去に先生に教えてもらった技術の記憶も駆使し、更に腕を磨いた。
先生の教えが、八年越しに、再び身を結ぶことになったのだ。そう思うと、ものすごく胸が温かくなるような気がした。
ロンとスイプが、ガイイノシシに会うために森を歩いていると、ついにガイイノシシの姿を捉えることができた。
だが、その姿は異様なもので、思わず二度見してしまった。それはロンだけではない。
それは隣にいたスイプも同じことだ。
「こいつ……死んでるぞ」
そこにいたガイイノシシには、体に大きな穴が空いていて、無惨な姿に成り果てて死んでいた。
なお、切り傷の穴は、強い熱を帯びていた。つまり魔法による攻撃を喰らっていたのだ。
この森の中で一番強いモンスターはガイイノシシだとルーカーから聞いたことがある。
さらに、この森のモンスターは魔法を使うことはないことも聞いている。
つまり、この森の自然の摂理では、こんなことをできる生物などいない。
これが指すこと。つまりそれはーー、
「何者かが、この森に侵入してやがる」
「あぁ、オレもロンと同じ考えだ」
普段は全く気にしないこの森の静寂さが、この時だけは、耳を圧迫するようにロンとスイプに緊張感を与えた。
そしてその静寂さの中に、異様な音が走る。
時間が経つにつれて、地面に落ちている葉が、踏まれる音が近づいてくるのが分かる。
そしてその音は、やがて一つの影となって、ロンとスイプの前に姿を現した。
「そのガイイノシシは、私がやったものだ。ーーお前たちがロンとスイプということでいいんだな?」
そこにいたのは、魔法使いの着てそうな、黒いローブを身に纏い、長くて黒い髪を風で靡かせていた背の高い男だった。
「誰だ、お前は」
「私の名前はエスケ•モート、魔法使いだ。そしてーー」
モートと名乗るその男が言い放った言葉は、この森に起きている事態の全てを物語っていた」
「魔王軍特別幹部、Rさんの二大幹部だ。お前たち『ブレイク冒険団』を連行する」
「俺たちを」
「連行する!?」
その男は、一切表情を変えることなく、ただロンとスイプを睨みつけていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あとどれくらいかなぁ? ーーよし、一旦休むか」
木々を飛び回っていたレックスだが、流石にずっとやり続けるのは厳しい。なので、一旦木の下で休むことにした。
それから五分くらい休んでいたのだろうか。そろそろ戻ろうと思い、立ち上がった時だった。妙な気配に襲われたのは。
レックスは、すぐに極限集中を発動し、そのままあたりに警戒を張り巡らせた。
今思えばこの判断は、すごく正しいものだったと、痛いほど実感する。なぜなら、もし警戒していなければ、今頃レックスは重症だっただろう。
ーーなにせ、さっきまで休んでいた木が、レックスの顔付近の高さで、斜めに切れていたのだから。
「ーーっ、誰だ!」
「危ねえ危ねえ……まずはありがとよ。うまく避けてくれて。ちょっとばかり調整をミスっちまって、顔に命中しちまうとこだったんだよ。死なれたら、あの人に合わせる面がねえもんでな。まあとにかく助かったぜ」
攻撃から始まり、姿を現したその男は、レックスに謝罪するところから会話を始めた。
その男が腰に刺している鞘の形状からして、おそらく刀を使うのだろう。
白髪だが、一部分は黒色の髪のその男は、左目には剣で切られたような傷があり、そのいかにも戦闘を楽しんでいる大人のような顔は、子供のように笑っていた。
「おっと悪い悪い、質問に答えてなかった。俺の名前はライバ•ガート。刀使いにして、魔王軍特別幹部のRさんの二大幹部のうちの一人だ。ーーあ、言っとくがサムライじゃねえぜ。もっとも、あれもかっこいいがな」
そのガートという刀使いは、Rという魔王軍の特別幹部が直接仕切る、二大幹部の一人だと名乗った。
レックスの元に二大幹部という強敵の出現は驚くべきことだが、それよりもっと驚くべきことがあった。
「二大幹部のもう一人、そしてRさんと共に、お前さんたち『ブレイク冒険団』の全員を連行しにきた。抵抗するなら容赦はしねえぜ?」
ガートは腰につけている黒い刀の柄に触れる。
それは、レックスにいつでも刀を抜けるぞと言わんばかりに脅しているようにも、戦うのが待ちきれないようにも思えた。
そして、ガートが言ったことから、この森にはもう一人の二大幹部、そして魔王軍の特別幹部がレックスたちを捕らえに来たことが分かった。
もうこの森は、ただの特訓場所ではなく、自分たちを付け狙う敵との戦場となっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「久しぶりだな。ルーカーさん」
「はて、誰だい君は。私は君のような男を知らないし、この森に入れた覚えもないぞ。もう歳かな」
「心配するな。ルーカーさんが老いを感じることはねえよ」
「なら良かったよ。ーーそれで、君たちは一体誰だね」
ここでは、鬼のような黒い仮面を被り、黒いグローブをつけた赤い髪の男が、ルーカーと話していた。
だが、この二人の行動を、話していたなどの可愛い表現では、到底言い切れない。もっと恐ろしく、緊張感のあるものだ。
「俺の名前はR。魔王軍の特別幹部だ。ここにいる『ブレイク冒険団』の三名を連行しに来た」
「ほう、それを私が許すとでも?」
「ルーカーさんが許さなくても、既に俺の部下である二大幹部の二人が三人の元へとそれぞれ向かっている。今頃はもう戦闘中だろうよ」
「なるほど、用意周到なようだな」
「ーーんっ? 思ったより焦っていないな」
「当たり前だよ。なにせ彼らは、私がこの三ヶ月間もう特訓した自慢の弟子たちだ。そう易々とやられはしないよ」
「そうか。ーーならその自慢の弟子たちを、俺たちが連行させてもらうことにしようか」
Rと名乗るその男は右手を上に突き上げ、拳に炎を纏った。その拳に炎を纏う姿は、まるでロンのようだったが、ロンの炎と明らかに違う点があった。
「黒い炎か。いかにも魔王軍の特別幹部のナックラーという感じがするな」
そして、Rの拳から空へと放たれた黒い炎は、火柱を立てたように、上へ上へと舞い上がった。
その火柱は、この森にある全ての者の目に映った。
ーーそれはレックスたちの目には、まるで『終焉を知らせる黒炎』かのように、瞳に映るのだった。




