第三章33話『感覚を研ぎ澄ませ、五感を極限まで極めろ』
また老いたナックラーは姿を消した。極限集中を会得すれば、目で追うこともできるのだろうが、生憎誰もまだ極限集中を会得していない。
「五分だ。五分間どれだけ攻撃を回避できるかやってみろ!」
また森全体からルーカーの声が聞こえる。今回もまた、レックスたちの周りを高速で移動しているのだろう。
「っく、じいちゃんの拳防げなかった」
「やべぇよ。どうすりゃいいんだ……」
仲間の声が聞こえる。おそらくルーカーさんの攻撃を喰らったのだろう。なんとかしなければ。
どうすれば、また同じことを繰り返さずに済むだろうか。
どうすれば、失敗で得た経験を無駄にせず、成長の糧にすることができるのだろうか。
ーーいずれもこの特訓で証明するしかない。それしか、戦闘において証明する方法がないのだから。
『感覚を研ぎ澄ませ、五感を極限まで極めろ』
そう心の中で念じると、自然と体が動いた。
「ーーここだ」
「ほう、やるじゃないか、ロン君」
なんでできたのかなんて分からない。ただ、体が、いや魂が勝手にそうした。まるで体がその動きを覚えていたかのように。
そして、あの瞬間、一瞬だけ見えた。
確かにそれは、今も記憶の中には鮮明に保存されている。
そして、その記憶から俺がなぜ、攻撃を防ぐことができたのかが分かった。
ーー見えたのだ。極限集中の景色が。
「俺、今、見えたのか。あのーー」
「力をつけたな。ーーだが油断は禁物だぞ」
弟子の成長を喜びつつも、師匠は弟子に喜ぶ隙も与えない。
喜んでいいのは、この特訓が終わってからだ。
やはり痛い。つい浮かれてしまった。だけど、ここからだ。
「ロン、大丈夫か?」
「あぁ。少し、しくじっただけだ。問題ねえ」
「ならよかった。ーーっ来るぞ、じいちゃんの拳!」
「ーーオレはどうすればいいんだ? この特訓で銃を生かすのはやっぱり厳しいのか?」
迷える狙撃手に対して、森中から老いた声が話しかけてくる。
「魔力さえ使わなければ、どんな手でも使うといい! きみの、君自身の全力を敵にぶつけなさい!」
「ーーそうか! なら!」
スイプはポーチから、見た目が特殊な弾を取り出す。それは少し大きく、かすかに光を浴びていた。
「いけ、発光弾!」
この昼間の明るい森には、一見、発光弾の眩しさは意味のないように思える。しかし、それは間違いだった。
ルーカーは今まさにスイプに攻撃を仕掛けようとしていたのだ。
そこに大きな光が襲ってきたとなると、やむを得ず攻撃を中断するしかないのだ。
「自分たちのできる方法で、私の攻撃を防ぐ。まだまだ弱いが、今後が楽しみだ。ーー実に面白いな、師匠というのは」
「じいちゃんどこ行った!?」
「私はここだぞ」
急に背中を大きな痛みが襲った。その痛みの正体は、紛れもないじいちゃんの拳だ。
そして、他の二人も同様にやられてしまったようだ。
「ちょうど五分くらいだろう。まぁ、これからが楽しみだな」
その後といえば、ひたすら森を走ったり木々を飛び回ったりの、魂力を使いこなせるようになるための、体づくりだった。
日が沈み、この日の特訓は終わった。
レックスたちはルーカーの家で夜ご飯を食べようと着席していることろだった。
「さあできたぞ。たくさん食ってくれ」
ルーカーが差し出してきた料理は、おにぎりと大量の肉だった。
「肉だぁ! いっただっきまぁーす!」
「「いただきます!」」
それはもう疲れていてお腹が悲鳴を上げていたところなので、普段の何十倍も美味しく感じた。いや、普段でも十分美味しいのだが。
とにかく食べれば食べるほど、消費したエネルギーが元気を取り戻していく感じだった。
その様子を料理人ルーカーは、嬉しそうに見る。そりゃ自分の作った料理を美味しそうに食べてもらえると嬉しいものだ。
これは人類共通の感情である。
そして食べ終わり、風呂に入り、そして寝床についた。その日はもう疲れていたので速攻眠りについたのだった。




