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フィッツ•イン•プロミス 〜約束の旅〜  作者: えれべ
第三章『終焉を知らせる黒炎』

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第三章31話『本当の強者とは』

「でもどうしたら、じいちゃんの姿を捉えられるんだ?」


「捉えるのは難しいだろうな。おまけに魔力が使えないんじゃ、まともに戦えねえよ」


「ああ、そうだよな。多分スコープに映った時にはもう遅いし……」


 ーーまた森全体から話しているような老人の声が聞こえる。


「気配を感じるんだ。そして敵の行動を予測するんだ。そして先手を打て」


 そこには同じナックラーとして拳を黒く染め、この場にいる誰よりも勝利に食らいつこうとする少年がいた。


「敵がやってきそうなこと。合理的に考えるなら、それはまず弱い者から狙うことだが……


 その呟きに反応するかように、自分を殴ろうとする拳が、ロンの世界を埋め尽くした。


「弱い奴から狙う、それは確かに合理的な方法だ。だがそれをどうやって判断する?ーー答えは簡単だ。弱い奴とは、常に自分の事を、心の底から信じられていない者だ」


「ーーっ! これじゃあ間に合わねーーっがは……」


ロンは老いた伝説の拳を喰らい、その場に倒れ込んだ。とても体が痛い。

 だが、それ以上に、ロンの中の世界に、とても大きなヒビが入った。


「俺は……負けたのか……」


「ーーさあ次だ」


 軽くロンを殴ったルーカーは、レックスとスイプの攻撃が当たる直前に、また姿を消した。


「ーーーー」


 最初にやられてしまったロンは、その場でうずくまってしまった。体が痛いからというわけではない。

 ーー痛いのは、他でもない心だ。


「スイプ。背中合わせになろう」


「お、おう」


「背中合わせになったか。賢い判断だ。が」


 二人で隣り合わせになれば、一見、全部を見渡す事ができて、ルーカーの動きを捉えられるかのように思える。

 だが、そんな単純な話ではなく、ルーカーは隣り合わせになっているレックスとスイプの、頭上に現れた。


「まだまだ隙だらけだな」


「ーーっ!」


 レックスは、なんとか剣でルーカーの拳を防いでみせた。だが、銃しか持っていないスイプは、成すすべもなくやられてしまった。

 そしてルーカーは地面に足をつけ、堂々と孫の前に立つ。


「あとはレックスだけだな」


「まだ終わらねーーっがは……」


確かに剣を構えていた。いつ攻撃が来てもおかしくないように。

 だが、老いても相手は伝説。そんなルーカー前には、この構えなど無意味同然だった。

 そして、ルーカーの一撃を喰らってしまい、思わず声が漏れた。


「まーこんな感じになるのだが…君たち、もしや極限集中(ゾーン)を使っていないのか?」


「「極限集中(ゾーン)って、なんだ?」」


 レックスとスイプが、口を合わせてそう言う。


極限集中(ゾーン)とは、簡単に言えば戦闘中に集中力、そして五感を極限まで高めて、戦闘を有利に進めることができる技だ。これも、魂力(こんりょく)を使う技だがな」


「なるほどー。隅から隅まで魂力(こんりょく)を扱うための特訓ってことか。流石じいちゃんだな」


「そうだな」


「ーーそれではこうしよう。まずレックスは斬撃攻撃を極めろ。斬撃攻撃というのは剣の技で、魔力を使わずに魂力だけでも使うことができる技だから、一番成長が分かりやすいだろうな」


「おう。分かったー!」


 レックスは少し離れて、森の上に向かってひたすら斬撃を放ち続けた。現状では、まだ斬撃の厚さも薄く、威力も弱いので、今後の成長が楽しみである。


「そして次にロン君。君は私と同じナックラーだ。だから教えられることも他の二人よりも多いはずだろう。だから、私が直接特訓を授けることにするよ」


 突然の伝説のナックラーによる個別指導宣言。これにはロンも驚いた。だが、すぐにそれを受け入れて、そして静かに頷いた。


「そして最後にスイプ君。君は狙撃手なら、いち早く極限集中(ゾーン)を会得するべきだ。どんなに速い動きでも捉えられるようにな」


「そりゃそうだが、どうやってやるんだ?」


「そのためには、ーーそうだなこの森の上空には動きが速い害虫、ガイカラスが何匹か飛んでいるはずだ。別名、『狙撃手殺し』とも呼ばれているようだ」


「そいつらを俺の銃で倒してみろってことか?」


「ああ、一見極限集中(ゾーン)と関係ないように思えるが、膨大な集中力を要するので、結果的にゾーンを会得できるはずだ。


「なるほど。分かった!」


 スイプは銃を握りしめ、森の奥へと走っていった。

 そしてそれを確認して、ルーカーはロンに話しかける。特別指導を始めるために。


「ーーそれでは始めようか。若きナックラーロン君への、個別指導を」


「ーーなんで俺にだけこんな個別指導なんか」


ロンは、何故自分に個別指導をしてくれるのかと、ルーカーに問う。だが、その答えは簡単なものだった。


「んー、それはロン君がこの三人の中で一番私の個別指導を必要としていると感じたからだよ」


「なるほど。俺の心情なんて筒抜けってことか。ーーああ、それじゃあ頼む」


「ああ、言われずもだがな。ーーまずロン君、君は今のところ、おそらくこの三人の中で一番潜在能力が高いだろう」


「っ! ほんとかーー」


「だが一番弱い。何故だかわかるか?」


「ーー分かんねえ」


「確かにロン君はこの三人の中で一番潜在能力が高い。だがーー」


 その言葉はロンの心を大きく動かし、ロンに更なる試練を与えることとなった。



「この三人の中で一番、心の底から自分のことを信じれていない」



「心の底から、自分のことを信じれて、いない……」


 心の底から自分のことを信じること。それは当たり前のことのようで大半の人ができていないことだ。


「本当の強者とは、どんな状況でも心の底から自分のことを信じることができる人だ!」


 自分は、ルーカーの言う、どんな状況でも、心の底から自分のことを信じることができる『本当の強者』になれるかと、自分自身に問いただす。



『ーー世界一のナックラーじゃないから……』



 そしてその度、失われた昔の記憶のようなものを、脳裏が横切る。この声は、とても幼い声で、どこか虚しい感じの声だ。


「どんな状況でも、か。俺はそんな人になれるのか……?」


「なりなさい。君がどうしてそんなに、自分のことを信じられないのかは分からない。が、それでも乗り越えなさい。それこそが、自分を強くする新たなる試練なのだよ」


「ーー分かった。頑張ってみる」


 ルーカーの説得に応じ、若きナックラーはこの新たなる試練を乗り越えて、本当の強者になろうとした。

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