第三章30話『◼️◼️を教えるための特訓』
レックスは自分のじいちゃんにここにきた経緯と、旅の目的を説明した。
その説明に伝説の冒険者、ジュリアス•ルーカーは驚きつつも、微笑んでこう言った。
「そうか、それは長旅だったな。それで、特訓したいのだな?」
「うん。頼むよじいちゃん」
「よかろう、可愛い孫とその仲間だ。歓迎しよう。ーーだが私の特訓は厳しいぞ?」
「あぁ! 望むところだ!」
「絶対に強くなってやる」
「オレもやるぞ!」
三人の決意は一致し、ルーカーもそれを受け取った。
「よく言った。それでは……」
「ーーーー」
「まずは腹ごしらえだな。腹が減ってはできることもできないしな」
全員がどんな特訓内容を言い渡されるのかと、息を呑んでいた時、ルーカーが提案して来たのは腹ごしらえだった。
レックスは「俺は、まだ腹減ってねえ!」と強がろうとしたが、そのお腹はレックスの言うことを聞かず、大きな音を立てて空腹を訴えた。
「ーー確かに腹減ったな」
「決まりだな。とりあえず私の家に来るといい」
腹ごしらえをするためにも、とりあえずルーカーの家に向かうことにした。
ここ一体は広大な草原だが、少し行ったところに小さな森がある。その少し奥に進めばルーカーの家というわけだ。
ちなみにそのまた更に奥へ進むと大きな森に出て、またその先へと進むと大きな洞窟がある山が見えてくる。
歩き始めてから数分が経った。小さな森に入り、ようやく木造の家が見えた。まあ家というよりかは小屋という感じだが。
ーー懐かしい。ルーカーの家に尋ねたのは六年ぶりというところだろう。場所が場所なので、気軽に行ける場所ではなかったのが理由だが。
まだ幼い子供に、この平原を超えて森を越えてここに来いというのは流石に無理なことだ。
「着いたー! 久しぶりに来たなぁ」
「さあ、まずは入ってくれ。飯の準備ならすぐにできる」
「ここが伝説のナックラーの家……」
「やっと着いたー」
それぞれが様々な反応を示す中、レックスたちはルーカーの家に入り、食卓に着席した。
しばらくするとルーカーが手料理を持ってきた。それは米を丸めて握った食べ物。そう、それこそはーー、
「おにぎりだ! いただきまーす!」
「ーーこりゃ美味ぇな!」
「ああ、やばいぜこりゃ!」
「喜んでもらったようで何よりだ。どんどん食べてくれ」
三人が言う通り、これはただのおにぎりだ。しかしプロの料理人の料理のように美味しい。
それは、おにぎりという食べ物を、ただ握ってるだけと考えること自体が、愚かな行為だと思うほどだ。
三人は腹八分まで食べて、特訓に備えることにした。
そして食べ終わると、この素晴らしい料理を作った張本人が、特訓についての説明を始める。
「それでは食ったところで、さっそく特訓を始めよう。着いてきなさい」
ついに始まるのだ。伝説の冒険者、ジュリアス•ルーカーの特訓が。
「着いたぞ。ここで特訓をしようと思う」
そこはルーカーの家を出てからすぐの小さな森だった。小さいとは言っても、木の密度とかは、普通の森と何ら違いはない。
「ここで何するんだ?じいちゃん」
「ここで行うのはズバリ、実践形式の特訓だ」
「つまり……どういうことだ?」
「簡単に言うと、私に一撃でも攻撃を与えられたらクリアだ。ーーだが、魔力の使用は禁止だ」
「え!? それじゃあ自分の武器だけで戦えってことか?」
「いや。私はまだ魔力としか言っていないぞ?」
「ーーっ、そうか。そう言うことなんだな」
ルーカーの、含みありげな言葉にピンときたのは、赤髪のナックラー、ロンだった。
「つまり、今回君たちが使用できるのは、己の武器とーー魂力だ」
「「ーーっ?」」
レックスとスイプは、ルーカーが言った言葉に疑問の意を示した。まあそんな言葉を耳にしたことすらもなかったのだから当然だろう。
「二人とも、まさか魂力を知らないのか?」
「魂……力?なんじゃそれ」
「魂力。これは、自分の魂の大きさ、強さ、広さ、それらを攻撃に使用する際に使う力のことだ。…まあ簡単に言えば、技の威力を底上げすることができるものだ。ーーそういえば、こんな技を見たことはないか?」
すると、なんとルーカーは自分の拳を黒く染めたのだ。そして「黒拳」。そう言ったのだ。これにレックスは思わず身構えを見せる。
「俺、その技結構トラウマなんだよなぁ」
ふいにレックスに前回の『恐怖』が蘇る。まあその『恐怖』もぶった斬ってしまったので、安心なのだが。
「まあ魂力は戦闘において必須の技術だ。ーーとは言ったものの、おそらく無意識のうちに扱っているとは思うが」
「ほんとか!?」
「あぁ、試しにレックス、何か技を放ってみなさい」
「じゃーじいちゃん。俺の剣を殴ってくれないか?……軽めに頼むぞ?」
「カウンター技か。いいだろう」
ルーカーは孫の黒い剣に軽く拳を振るった。流石に大丈夫だと思うが、やはり老いても伝説の冒険者。
念を押したものの、やはりペナルティに耐え切れるかどうか不安になってしまう。
それでもレックスは、反撃保存を放つためにペナルティを受けた。だが、やはりルーカーの技量は流石と言うところだろう。
うまい具合で、痛くないように調整してきている。
「セーブカウンター!」
レックスの黒い剣が青いオーラを出して力の解放を望んでいる。その望み通り、技を森に放った。驚いた小鳥が慌てて空はと飛び立つのが見えた。
「おそらくこの時にも、レックスは魂力を使用しているだろう。だが、極めれば、より威力を底上げできるはずだぞ」
「おー、ますます極めたくなってきた!」
「っで、その魂力をうまく使えるようになって、ルーカーさんに攻撃を仕掛けるってわけだな」
今のロンは、いつもに増して興奮しているように見えた。いや、見えたのではなく事実なのだろう。
自分よりも遥かに上の次元のナックラーが、自分たちを特訓してくれるのだから。
「あぁ、そうだな。ーーそれでは、頑張ることだ」
そう言うと、ルーカーは突然姿をこの森の中に消した。
「あー言い忘れてたが、君たちの敗北条件は、私の拳を喰らうことだ。だから自分の身にも気をつけることだ!」
その声は、森全体から聞こえた。まるで森中の木が話してきているかのように。しかし、それは違った。
ルーカーは、この森中を高速で駆けていたのだ。
「じいちゃん、動きが早くて見えねえよ!」
「はっはっは! まあ頑張れ」
だだ、森中を高速移動しているだけだ。まあ、だけと言うのは、正しい表現ではないだろうが。
しかしその速さは目には追えない。つまり、刹那の一瞬で、距離を詰めてくることもあるわけだ。
「絶対攻撃を当てるからな!じいちゃん!」
ーーこの森で今行われているのは、老いた伝説が若い冒険者たちに魂力を教えるための特訓だ。




