第二章28話(終幕)『ビリー•ガンマ』
「魔王軍『戦略長』スコルチェ•ロスター。魔王軍で一番頭が回り、さまざまな戦略を立てて対象の場所を攻め落とす天才。ーーこれまた厄介なやつが現れたってもんだぜ」
「へーよく分かってるじゃないか。敵ながら褒めてあげるよ、ーーいかにも、それこそが俺だ。そして、この村を攻め落とす者だ」
「なら遠慮はいらねえよな」
「ーーガンマさん」
ガンマは二丁の銃に、弾を再度リロードした。準備は万端、これでいつでも撃つことが可能だ。
「『狙撃の名手』ビリー•ガンマ。お前を撃ち倒す!」
「魔王軍『戦略長』スコルチェ•ロスター。この村を攻め落とさせてもらうよ」
「百発百中!」
ガンマは最初から大技、百発百中を使用した。
ガンマはロスターの周りを、約百回ほど瞬間移動しながら、敵を撃ち倒さんとする銃の弾を、雨のように、かつ精密に撃った。
無論、これは普通、初見ではなかなか対処するのが容易ではない技だ。
だが相手は魔王軍『戦略長』。この次元の敵に、普通は通じない。
「へー、やるじゃないか」
この次元にたどり着けば、銃の雨とて、全く通じない敵も現れるというものだ。
「やはりお前の力は強大だ。魔王軍で言ったら…そうだな、長官レベルと言っても過言じゃないと思うよ」
「俺の大技喰らって傷一つ付いてねえのにそんなこと言われると、まるで煽られてるみたいじゃねえか。ーーつまり何が言いたい?」
「俺の任務はこの村を攻め落とすこと。そして叶うなら、ビリー•ガンマの勧誘。この二つだ」
「へー、つまり俺に魔王軍に入れと、そう言いたいのか?こんなことしておいて」
「あぁ、そうだよ。おっと、言っておくが君の方が俺より弱いんだよ?それを弁えて答えておくれよ? 俺だって無駄な争いは避けたいんだーー」
長々と愚かなことを話している『戦略長』に痺れを切らし、ついに銃を発砲した。
「何か間違って撃っちゃったんだよね? まあ失敗は誰にでもあるよ。だから次から気をつけて……」
ロスターは笑顔でそう言うが、それとは裏腹に青筋を何本も立てていた。
そんな怒れる『戦略長』をさらにガンマが刺激する。
「俺は何も間違ってねえよ。間違ってるのはお前らだ。このクソ野郎が」
「ーーっガンマさん!」
今ので怯えていた少年スイプは、一気に元気を取り戻した。と同時に、ロスターの怒りは限界を超えた。
「もういい! 理解したよ。お前らの愚かさってやつをさぁ!」
ロスターは指の形を銃のようにし、ガンマへ向ける。
「喰らえ、ウィンド銃!」
その途端、ガンマを強烈な痛みが襲った。これには流石のガンマも対処できない。
「くっ、なんだ、これは」
「なにって銃だよ。君の大好きな、ね?」
「こんな銃、あってたまるかよ」
「それがあるんだよ。しかも、回数制限はない」
またあの強烈な痛みが、今度は二度三度とやってきた。流石にまずい。
「こんなの反則だろうが。なんなんだよ」
「ガンマさん、大丈夫!?」
「……あぁ、こんなもん大したことはねえよ」
ガンマは、隣に控えている弟子の顔を見て、強がりをした。スイプを、不安にさせないために。
「強がりはよしなよ? たった三発喰らっただけでもうこんなに弱ってるじゃないかーー」
「スイプ! まだ村に魔王軍の兵士がたくさんいるはずだ。そいつらを倒してみんなを救ってきてくれ!」
「ガンマさん。ーー分かった!」
ロスターの煽りを遮って、ガンマはスイプに師匠として仕事を与える。無論、もう魔王軍の兵士など一人も残っていないが。
これはガンマがスイプを逃して救うための策、ーーつまり嘘だ。だが、それでスイプを救えるのなら、安いものだ。
そんなスイプに、ガンマは最後の別れの言葉を告げる。それは、スイプの脳にずっと刻まれる言葉になった。
「スイプ!」
「なんだ?」
「頑張れよ! お前を信じてる! ーー約束だ!」
「ーーうん!」
自分の師匠であるガンマさんに『信じる』と言われた。そして約束もした。ならばやることは一つ。スイプ自身もガンマさんを信じ、信じられた期待に応えるだけだ。
そして約束も果たすのだ。
「へー、かっこいいじゃないか」
そんな二人の決意を嘲笑うするようにスコルチェ•ロスターは言う。
スイプが行ったのを確認して、思わずビリー•ガンマは感情を爆発させる。
「なんでこんなことをするんだ。俺にはまるで理解できない」
「教えてあげるよ、それは俺が魔王軍『戦略長』であって、それで任務を受けたからさ。任務が入れば策を練り、実行する。ただそれだけだよ」
「そんなんで! そんなんで、罪のないみんなが、なんでこんな目に遭うんだよ。おかしいだろ!」
「ーー呆れた。話にならないな。魔王軍に入らないならただの邪魔者だよ。ーーったく、これじゃあ魔王さんに合わせる顔がないじゃないか……」
「知るかよ。とっととくたばれクソ野郎が」
ガンマはまた銃を撃つ。しかしその銃はロスターには通じない。
もうその光景は、ガンマの力不足ではなく、ロスターの何かしらのカラクリのように思えてきた。だが、そんなことを考えている暇すらも、今はない。
「なんでこいつ、銃効かねえんだよ。これじゃあ倒せねえじゃねえか」
ただ、このカラクリをガンマなりに説明するとするならば、今、目の前にいるのは、何十年も磨いてきた銃の技術を全て無に返す存在だということだ。
「終わりにしよう。言い残すことはないかい?」
「お前は必ず、俺の弟子が撃ち倒す。なんせ信じて、約束まで交わしたんだ。あいつはやるぜ?絶対に」
ガンマは最後にその命を絶やすまで、銃を何十発も連発し続けた。おそらく無駄な足掻きだっただろう。
しかし、それを分かっていた上で、『狙撃の名手』ビリー•ガンマは撃ち続ける。なぜならーー、
「どうせ死ぬなら、『狙撃の名手』として死にてからやな。みっともなく足掻かさせてもらうぜ?」
「フンッ。じゃあお望み通り殺してやるよ」
そんな『狙撃の名手』の決意を、ロスターは鼻で笑い、そして嘲笑する。そしてウィンド銃を連発し、その命を奪った。
そんなロスターには、命を散らしたガンマの返り血すらも当たらなかった。まるで、返り血がロスターに触れることを拒んだかのように。
「見事な死に様だったよ、『狙撃の名手』。実に哀れで、実にーー」
その言葉は死んだビリー•ガンマの名誉すらも踏み躙ろうとする。
「ーー馬鹿馬鹿しい」
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どれだけ走ったのだろう。
どこに敵はいるのだろう。
ガンマさんは大丈夫だろうか。
さまざまな疑問が飛び交う中、少年シルフィルド•スイプは走り続ける。ガンマさんに『信じる』と言われ、約束したのだから。
しかしどれだけ走っても敵は見当たらない。それどころか、人の影すらも見当たらない。
もう避難したのかと思ったその時だった。心臓を思いっきり抉られるような不安に襲われたのは。
「ーーっ、嫌な予感がする。ーー大丈夫かなぁ」
その時、そこそこ大きい街の教会から、知り合いの婆さんが「こっちへおいで」と言って手を振ってきた。
仕方なく、スイプはそこの教会で避難することにした。
そして、スイプはそこで、自分に起こったことを全て、婆さんに話した。
「ーーなるほどねぇ。それは大変だったねぇ」
婆さんは何かを察したようにそう言った。今ならその意味が分かるが、その頃のスイプには理解する余地もなかった。
ーーなんせ、ガンマさんは自分にとって最強の狙撃手だったから。だからガンマさんが負けることは絶対にないと思っていた。
しかしそんな考えは、所詮自分を楽な方へと誘わさせる、甘えた考えだった。
それからしばらくして音が止み、念のため全員村から出てふもとの山に避難した。
村といえばもう壊滅状態で、復興できる見込みはは、もう誰にもなかった。
ーーそしてそこには目を疑う者の死体があった。
「そんな、ガンマさん…?」
山を降りて見に行こうとした。しかしそれを止められた。
「ダメだよ! まだ危険かもしれない」
「ーーっ! でも、ガンマさんが……」
「あの人の、ガンマさんの決意を無駄にするのかい?」
「ーー。そんな」
魔王軍『戦略長』スコルチェ•ロスター。絶対に許さない。これは絶対事項だ。
そうスイプは、幼い子供ながらに復讐心を燃やすのだった。
それからして、村が少し落ち着いた頃、駆け出し狙撃手スイプは、腕のいい狙撃手が集まる街コルトへと足を運んでいた。
そして、そこはガンマが生まれ育った地としても有名だった。
これこそが狙撃手シルフィルド•スイプが、魔王軍『戦略長』および魔王軍を倒そうとする理由だった。
「ーーイプー! スイプー! どうしたんだ? 急にぼーっとして」
「しんどいなら、あんまり無理すんなよ?」
「っ、ごめん、全然問題ないよ」
シルフィルド•スイプは誓う。必ず仇を打つと。そしてーー、
「俺も『狙撃の名手』になるんだ。ガンマさんのように誇れる人に!そして今度こそ果たすんだ。約束を!」
そう頭の中で、強く叫ぶのだった。
ーーこれは少年と少女が交わした約束を果たすための物語だ。
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ここはワイド砂漠のど真ん中。すなわち魔王軍幹部、ラティス•マートが倒された場所だ。
時は数日遡り、コルトの兵士がマートの身柄を確保しようと向かっていたところだ。
だがそこで、その兵士はとある違和感を覚えた。
「確かここら辺って聞いていたんだが、ここじゃなかったか? ーーって見つけた」
砂漠に倒れているマートの身柄を見つけた兵士は、急いでカバンから拘束用のロープを取り出す。 そして拘束しようと、近づいたその時だった。視界が全て、黒い炎に覆われたのは。
「ーーっ、なんだ?」
目の前だけではない。気がつけば自分の周りを黒い炎が囲んでいた。
恐怖に押しつぶされそうになりながらも、屈強なコルトの兵士は手に握った槍をより一層強く握り、決して挫けまいと冷静さを取り戻すことを試みる。
「ここの近くに兵士はいない。回収に来たのは俺一人だ。とりあえずこの炎が止んだら、急いでこのことを他のみんなにーー」
「ーーそれは困るな。このことは、口外されるとまずい」
「ーーっぐ! ……お前は、魔王、軍、ーーそれにこの声、あの赤髪の……」
黒いの炎の中から、黒い炎の拳が出現し、その黒い炎の拳はお腹を貫いてしまった。それはこれまでに感じた痛みよりも、格段に別格の痛みだった。
やがて、強く握っていた槍が手からこぼれ落ち、だんだんと意識が遠のいていく。
そしてついに事切れてしまった。
「まああんまり手荒な真似はしたくねえがよ。悪く思わないでくれ」
ーーそれは決闘の敗者の身柄を担いで、やがて黒い炎の中に姿を消した。
やがてレックスたちがコルトを出てから遺体が発見され、このことはワイド砂漠全体を騒がせる『コルト兵士暗殺事件』として語られ、人々により一層恐怖を植え付けるのだった。




