第二章27話『動く的』
少し気持ちが落ち着いた。きっとあの人、ーーガンマさんがみんな助けてくれると信じられるから。
もともと、スイプにに親はいなかった。いや、いたのだろうが、多分もうこの世にはいない。
だからスイプにとっては、村に住む知り合いのおっちゃんとか、友達とかが家族みたいな物なのだ。
「オレも、あんな風に、みんなを守れる存在になりたいな……」
まもなくして二丁の銃を持ってる男ーーガンマが、こっちへやって来た。その体には、傷一つなかった。あるとするなら、人を助けるために火の中に飛び込んだような、火傷の跡だけだ。
「スイプ。安心しろ。おそらく俺が見た感じ、村の人は全員無事だ」
「ほんと!? やったぁー! っ、ぁぁ……」
幼い少年スイプは、疲れて眠ってしまった。それをガンマが受け止める。そしてスイプを背負ってやった。
「よく頑張ったな、スイプも」
ガンマは歩いた。スイプを背負って村の人たちが避難した場所へと。
ーー視界がぼやける。うっすら目を開けると少し眩しい。誰か、いや大勢の人のざわめき声が聞こえる。
「スイプ、起きたのかい」
目を開けるとそこにいたのは村の知り合いのおばあちゃんだ。
「っ、そうだ、ガンマさんは?」
「ガンマ? あー、あの恩人のことかい。あの人ならそこにいるよ」
「よぅ、いい朝じゃねえか」
「ガンマさーん!」
少年スイプはガンマに飛びついた。ただそれをすることで、全ての不安の色が安心の色になる気がして。
「お前もよく頑張ったじゃねえか。漢見せたな」
「うん! ーーそうだ、お願いが、あるんだ」
「ーーなんだ?言ってみろ」
少年シルフィルド•スイプは仲間を、友達を守れる存在になりたいと強く願っていた。
そして今、その想いを憧れの存在に伝える。
「オレに戦闘技術を、人を守るための銃の使い方を教えてくれ!」
ガンマは驚いた。否定されるかと思ったそ瞬間、彼は笑っていた。
「この歳で守るための銃の使い方という言葉を言うのか。ーー分かってるじゃねえかスイプ。いいぞ、見どころがある」
「ほんとか? ありがとう!」
こうしてスイプはガンマに戦闘技術を教えてもらうこととなった。
少しして昼になった。スイプはガンマに山に来るように言われていた。
なので山を登っているところだ。
「楽しみだなぁ! オレもあんな風になれるのかなぁー」
そしてまもなくして、ガンマの姿が見えた。相変わらず二丁の銃を腰につけている。
「よく来たな! それではまずはこれを授けよう」
ガンマさんは俺に大きな銃を渡した。俺の体にはとても重たいが、普段から鍛えてはいるので、このくらいは問題ない。
「よし、それじゃあまずは射撃訓練からだな。あそこに的があるだろう。そこに向かって撃つんだ」
ガンマさんが指差した先には、人の形をした大きめの的があった。
「最初はそうだな、足を狙ってみろ」
ガンマさんは腰から銃を抜いて、足を見事に撃ち抜いた。
「すげー! 俺もやる!」
「まあ弾は本物じゃないから大丈夫だが、変なことに飛ばすなよ? 結構痛いからな……」
「うん! 任せて!」
スイプは大きな銃を構えた。スコープがあったので、そこで覗いて的を見る。そして、こう頭の中で念じる。
『まずは足だ。足を撃ち抜いてみせるんだ』と。
スイプは的に向かって引き金を引いた。そしてその弾は、真っ直ぐに飛んでいって、それでーー、
「この歳で、しかも初めてでこれかよ。こりゃとんでもない天才を見つけちまったかもな」
その弾は足には命中しなかったものの、的まであと数ミリのところに着弾していた。
「あーくそ、悔しい!」
「まずは体幹を鍛えるべきだな。銃を撃った時の反動で体がブレてる。引き続き、体作りに励むべきだな」
「分かった!」
「それと、これから毎日この時間にきて欲しい。時間、大丈夫か?」
「うん! だいじょーぶ」
それからというもの、毎日起きて昼に近づけば山を登って銃を撃つ。そして帰ったら暇な時に体つくりをする毎日が続いた。
そして一ヶ月が経った頃には、スイプの腕は、大きく成長していた。
「よし、それじゃこの三つの的を連続で射抜いてみてくれ!」
それは倒れた丸太の上に木の的が三つ並べられているものだった。前ならできるか不安なところだったが、今は失敗する気がしない。
「よし、やってやる!」
スコープを覗き、的の姿を確認する。あとはそれを撃ち抜くだけだ。
引き金を引いた。それは風を切って的へと向かう。
そしてその三つの魂は、精密には三つの的を射抜いた。
「すごいじゃないか! やったな!」
「やったぁー! できたよガンマさん!」
「よし、それじゃあ次のステップに……っ!?」
ーーまただ。またあの時の、心臓を握られたかのような不安に襲われる。可能ならもう二度と感じたくはなかった。
「嘘だろ。こんなのあんまりじゃねえか」
まただ。またセーフ村が地獄になろうとしている。もうやめてほしい。
「スイプ! お前に実弾を渡す。撃つか撃たないかはお前が決めろ!俺は急いであっちに向かう」
スイプは、ガンマに約五十発の実弾を渡された。そして彼は行ってしまった。
ーーようやく修行の成果を見せる時だ。でも本当の人なんて撃ったことがない。怖い。けどやらなきゃまたみんなが傷つく。
ーーなら迷うことないじゃないか。ただの動く的だ。問題ない。
ただ一心に、動く的の方へと走った。
そして、セーフ村にたどり着いた。そこは、また火の海と化していた。だが今回はスイプ自身も戦える。今のスイプは、もう一ヶ月前の、自分の無力さを謳っていた頃のスイプとは違う。
今回はきちんと自分の守りたいもののために戦える。
あそこに剣を振り回している魔王軍の兵士がいる。そして、そいつに友達が襲われている。
スイプは、自分に『撃て』と、そう命じた。そして、命じられたスイプの体は、その兵士を撃った。
弾は命中し、動く的は倒れた。友達もその光景にはただ唖然とするしかなかった。
「えっ、なにが、起こったの?」
「おーい、大丈夫か?」
「スイプがやってくれたのか。ありがとう!!」
ここで初めて自分は、自分の得た力で友達を助けることができたのだ。
嬉しい。初めて守りたいもののために力を発揮できたのだから。
ーーそして愚かなことに、その勢いに身を任せて、調子に乗ってしまったのだ。
あれからも、次から次へと多くの動く的を射抜いた。そして多くの人を守ってみせた。そして、やがてガンマと合流した。
「おースイプか! 助かる! ーーにしても今回の襲撃、数が多いな」
「うん。ほんとキリがないよーー」
その時だった。大気中の全てが、自分達に牙を向いたかのような恐怖心を覚えたのは。
「まあそりゃ今回が本命だからね。当然さ。それにしても驚きだねえ。ガンマがいるのは聞いていたけど、こんなに強いガキがいるなんて」
そいつは緑色の髪で二十五歳くらいの男だった。そいつは全身に緑のローブをつけていて、無駄に整った顔立ちに加えられた黒い瞳で、こちらを睨みつけていた。
ただ分かることはーー、
「スイプ、こいつはただものじゃねえぞ。気をつけろ!」
「うん、分かった。気をつける」
その敵への警戒意識は、師弟共に共通だ。
「気をつけるって言ってもさ、警戒するだけじゃ敵は倒せないんだよ?」
「お前、何者だ?」
「俺の名前はスコルチェ•ロスター」
「まさかっ!?」
「ガンマさん? どうしたの」
まだこの頃のスイプは知らなかった。その名前が何を意味するのか。
しかしその意味はすぐに明らかとなる。そいつの正体。それこそはーー、
「魔王軍『戦略長』さ」




