第二章25話『無理難題の理想論』
「決まったようだな。頑張れよ、コルト……いや」
「ワイド砂漠、そして俺たちコルトの誇り!」
ネオンも静かに笑い、頷いた。スイプの選んだ道を、存在を肯定して応援しているのだ。 その気持ちにスイプは答えなければならない。
「リティアムさん、ネオンさん……俺頑張るよ!ワイド砂漠の誇りとして!」
「その息だ!」
「「パーッとやってこいよ!」」
「っ!……はい!」
そして三人はリティアムの家を後にし、ギルドに向かうことにした。
そして、ふとレックスが魔王軍の長官について質問をした。
「長官って『戦略長』のことは聞いたけど他に誰がいるんだ?」
その質問に、またもや物知りなロンが答える。
「まず『戦略長』スコルチェ•ロスター。そして『侵略長』コンクエ•マゼラン。最後に……『記憶長』メモリー•ポードリアン、有名なのはこれくらいだな。あとは引退したので言うと『盗賊長』エドガル•ラムド。まあここらへんだな。まあ多分俺が知らないだけでまだいるんだろうが」
「一気にいっぱい出てきて覚えられねえな……てもとりあえず全員倒すことを目標として頑張ってこうぜ!」
「またレックスらしい答えだなぁー。まあそのつもりだぜ俺も」
「俺も同じだ。外の世界をもっと見るためにも、魔王軍なんかとっとと倒さねえといけねえしな」
『全部倒す』。この言葉は側から見ると、無理難題の理想論にすぎない。しかし、レックスの目を見たものの反応は違った。
笑いながらもその瞳に風の炎を燃やすもの。両拳をぶつけて、やる気の炎を燃やすもの。
この二人は、『全員倒す』と言う言葉を決して、無理難題の理想論だとは思わなかった。
そうしているうちにも、三人はギルドにたどり着いた。扉を開けるとそこには店主ーーここのギルド経営者らしき人物が、木でできた椅子に腰掛けていた。
「おー、おー! おぉー!! これはこれは、久しぶりのお客さんじゃないですかぁー! いらっしゃいませぇー! なにをお求めで?」
すごくテンションが高い人物だ。いや、おそらくいつもは客が来なくて、久しぶりに客が来て喜びを隠せないのだろう。
「えーっと……とりあえずパーティ登録をしに来たんだができるか?」
「それでしたら冒険者カードというものを持っていますかぁ?」
「冒険者カード? 知ってるか?」
「いや、俺は知らねえな。村にギルドがなかったし」
「あー、持ってはいないが存在は知ってるぜ? 確か冒険者の証的なやつだろ?」
「はい! それがないとパーティ登録ができませんので。今ここで冒険者カードを登録しておきますぅ?」
「じゃあ頼む!」
「はい! それではまずこちらを!」
そのギルド経営者は三人にカードのようなものを差し出した。そのカードには、なにやら四角い枠が何個かあった。
「それではまずカードの左上にある大きい四角のところに親指の指紋が読み取れるように置いてください!」
「ん? あー、これか。ーーこれでいいのか?」
レックスに続き二人も親指の指紋が読み取れるように、右上の四角の上においた。
するとなんと、右上の四角に自分の顔が浮かび上がってきたのだ。
それだけではない。その下には自分の名前、その下に今日の日付と自分の生年月日が書かれた。
さらに右へ進むと、自分の攻撃力、体力、運、魔力•魂力、器用さの数値を示したグラフも記された。魂力というのはよく分からないが…そしてそのグラフの下には『パーティ結成』と『パーティに加わる』という欄もある。
いずれも気になるところだが、とりあえずこの陽気な経営者の話を聞くことにした。
「登録完了ですぅ! 少し経つと自分の身体能力とかが、右のグラフに表示されると思うんで!」
彼が言った通り、グラフに自分の身体能力にかんする数値が追加された。
「おー! すげー!」
「それではそのグラフはまた後日見てもらうとして、今はパーティ登録を進めましょうかぁ」
「よし、来たな」
「それではまず、リーダーの一人が自分の冒険者カードの『パーティ結成』という欄を押してください」
「これはレックスでいいんじゃねえか?」
「あぁ、俺も賛成だ」
「分かった。ーーこうでいいのか?」
レックスは二人の推薦から、このパーティのリーダーに選ばれることになった。そしてその思いを背負い、レックスは『パーティ結成』の欄を押した。
すると、冒険者カードから青い光のようなものが出現し、それは四角の形になって、やがてその中に文字を作り出した。そこには、『パーティ名を入力してください』と書かれてあった。
「これどうやって入力するんだ?」
「頭の中で名前を念じて、念じた状態でまた指紋を自分の顔の四角のところに置いてください!」
やけにこのカードは指紋を欲しがるものだ。まあそんなことは気にせず、レックスは頭の中に念じるパーティ名を考えることにした。
「いい案ねぇかなー」
「どうせなら、今の魔王軍という勢力をぶっ壊す的な名前がいいんだけどな」
「ぶっ壊すかー。……そうだ!『ブレイク冒険団』とかは?」
ロンの『ぶっ壊す』という言葉から、ブレイクを連想して『ブレイク冒険団』の名前を思いついたのだ。それに、今はもう一つあるように思った。それはーー、
「五十年前の伝説の冒険団、『ブレイド冒険団』に名前が似てるじゃねぇか。気に入ったぜ俺は」
「ほんとだ。レックス、そこから取ってきたのか?」
「まあ、ーーちょっとな」
『ブレイド冒険団』。その名を聞けば誰もが五十年前の偉業を連想する。その偉業とは、魔王城にパーティで攻め込み、魔王軍の特別幹部、一人を討ち取って、全員無事に生還したことだ。
さらにあの魔王とも、少し対峙したという。
いずれにせよこれまでに類を見ない偉業だったのは確かだ。
「二人ともこれでいいか?」
「あぁ、気に入ったぜ」
「オレもいいぜ。気に入ったし」
「お決まりのようですねぇ。それではレックスさん。頭の中で名前を念じてください」
「分かった。やってみる」
頭の中で念じる。とても難しいことを言うものだと思った。もし指紋を置く瞬間になにか別のことを考えてしまったらどうなってしまうのだろう。
でもまあそんなことは言っていられず、目を閉じて、ただ頭の中に『ブレイク冒険団』という文字だけを念じた。そして結果はーー、
「おぉー! すごい、一回まで成功した人なんて久しぶりに見ましたよぉ私!」
レックスが目を開くとそこには『ブレイク冒険団』という文字が刻まれている自分の冒険者カードがあった。
「しゃー! 成功だ!」
成功してから、おそらくこれは冒険者が戦闘において、どれだけ集中することができるかが分かるものなのだと理解した。
いずれにせよ、あとはロンとスイプが『ブレイク冒険団』に入るだけだ。
「そんで俺たち二人はどうすればいいんだ?」
「えーっと、『パーティに加わる』の欄を押していただいてぇ、またレックスさんのように念じてください。あと言い忘れてましたが、三人なので代金は三千Gですぅ」
「いや先に言えよ!まあ金はあるけど!」
「そんで、俺たちも、やるんだな……」
「まあ、そうだろうな」
少し彼に弱気なスイプと、当然のことのように振る舞うロン。だが二人とも難なくパーティに加わることができた。
「よし。じゃあこれから俺たち、『ブレイク冒険団』の物語が始まるってわけだな!」
「あぁ、このパーティで必ず魔王をぶっ飛ばすぞ」
「あぁ、そうだな!」
レックスはギルド経営者に代金の三千Gを渡した。
「ありがとうございまーすぅ」
「よし!行くぞ!『ブレイク冒険団』!」
「「おう!」」
今ここワイド砂漠の街コルトにて、新しい冒険者が三人誕生した。
そして今、少年たちーー『ブレイク冒険団』の物語がスタートする。




