第二章24話『狙撃手、シルフィルド•スイプが選んだ答え』
あの宴の日はおそらく人生で一番はしゃいだと思う。
だって次の日の疲労が、半端ないものだから。
「やっぱり……昨日食い過ぎたのか?」
いつもは元気なレックスもこの様子だ。おそらくーーというか、絶対食べ過ぎだ。
「だっらしねえなー、こりゃ」
その様子を、ロンとスイプが呆れながら眺める。
「まあ、そりゃあんだけ食ったらそうなるよな。オレでさえ、あんだけ食ってやっと八個だってのに」
スイプがこう言う通り、レックスはオオサソリの肉を合計で二十個食っていたのだ。大の大人でも、多く食べて十五個ほどなので、そりゃこうなるわけだ。
「んー、はぁぁ! ーーよし、治った」
「ーーえっ?」
なんと、あんだけお腹いっぱいで苦しそうだったレックスが、今の一瞬で元の状態に戻ってしまったのだ。
これにはスイプもびっくりだ。ロンも「どうやったんだよそれ……」と言って、少し呆れつつも、不思議がっている。ロンの問いに対してレックスは簡単そうに答える。
「んー、なんかお腹に力を込めて、意気込んだらできるぞ」
「わけわかんねえよ! お前の体どうなってんだよ」
もうロンも理解するのを諦めてしまったようだ。まあ理解しようとするが間違っているのだろうが。普通の人にはできないことを、当然のことのようにやってしまう人がいるが、レックスがまさにそれだ。
人はこれを『超人』と呼ぶが、ロンにはどうやらレックスのことを『超人』とは呼べなかった。
「ーーそういやよ、リティアムさんとネオンさんが、オレたちのこと呼んでたぜ」
「ほんとかスイプ!どこにいるんだ?」
「場所はここコルトのリティアムさんの家だ。前に行っただろ?そこだよ」
「よし、それじゃあ早速行くか!」
昨日は一日中ずっと宴をしていたこともあり、大半の人は外に出ずに家にいるようだ。
まあレックスのような異常行動ができなければ大半の人はそうなるだろう。なのでいつもは賑やかな街並みも、今日は比較的穏やかだ。というか静かすぎて怖いほどまである。
「流石に全員、疲れ切って休んでるんだな。まあ無理もねえよな。全員が全員レックスみてえなことできるわけじゃねえからな」
ロンはそう言ってレックスの方向を見る。それに対し、レックスは「へへ」と言いながら得意げに笑いかける。それを見て、ロンは小さくため息をついて小さく微笑む。
「それにしても、こんなに静かなコルトを見たのはいつぶりだろうなー」
「まあ俺たちが初めて来た時は、戦いだ何だ言って大慌ての時だったからな。逆に怖いぜ」
「まあロンがそう言うのも無理はないだろうな。ーーとか言ってたら見えたぞ。リティアムさんの家だ」
三人はリティアムが住んでいる大きな家にたどり着いた。あの頃は慌てていて気づかなかったが、こう見てみると豪華な家だ。他の家が砂を固めて作った砂岩で作られている中、この家は砂岩に加え、木も使われている。耐久性も申し分ないことだろう。
そして三人はノックして扉を開けた。中には五十歳くらいのおじさん、ジェイ•リティアムとツタン•ネオンがいた。
「待っていたぞ、恩人たちよ」
「リティアムさんそしてネオンさん、オレたちに何の用だ?」
「言うまでもないだろうスイプ。今回のことでお礼がしたくてね。昨日しようと思ったら、そこのレックスくんに止められたものだしね」
そう言い、リティアムはレックスに優しく微笑みかける。それに対してレックスは「ん?……あーそうだな!」と、宴のことを思い出して笑いかけた。
「ーーそれで話を戻そう。お礼の話だが、私とネオン殿で報酬金という形で、君たちのパーティー資金をあげようと思っていてね。だいたい二十万Gほどだ」
「に、二十万!?……いいのか?」
「むしろこれでは物足りないくらいだよ。だから受け取ってくれ」
「レックス、もらっておいたほうがいいと思うぜ。これが二人の感謝の形なんだからさ」
「んー、そうだなスイプ。分かった。そんじゃあ、ありがたく貰うよ」
「そうしてくれ」
そうしてリティアムはレックスに二十万Gを手渡した。持ってみるとやはりずっしりとしていて重たい。これが金の重みというものなのだろうか。
そうしているとネオンが、ふとレックスに質問をする。
「そういえば、君たちってパーティ登録しているのかい?」
「パーティ登録か。そういえばレックス、俺たちパーティ登録してねえよな」
「パーティ登録?なんじゃそれ」
どうやらレックスはパーティ登録の存在すらを知らなかったようだ。分からないレックスにネオンが説明に入る。
「パーティ登録とは、誰かとチームを組んでパーティになるための手続きのようなものだよ」
「でも登録してなくてもあれロンと一緒に冒険者してるぞ? スイプとはまだ冒険はしてないけど、一緒に冒険する予定だし」
「えっ、そうなのか?」
急に仲間にすると言われ驚くスイプはいったん置いといて、ネオンがレックスにパーティ登録についての説明を始める。
「んー、なんて言うべきだろう。まあつまりこれをすれば、正式な冒険者になれるのだよ」
「あーなるほど! そりゃやらねえといかねえな!」
「そんで、登録するためのギルドはこの街にあんのか?」
「その点には抜かりないよロン君。それこそ規模は小さいが、登録することくらいは可能だよ。ちょうど私の家より少し奥に進めばあるはずだ」
「へー、ならいい」
「ロン、スイプ、行こうぜ!」
「あぁ、これで俺たちも正式な冒険者の仲間入りってわけだな」
「おいおい待てよ! 俺もなのか!?」
「えっ、そうじゃないのか?」
レックスはきょとんとしている。それはロンも同じことだ。だって二人は凄腕狙撃手、シルフィルド•スイプを仲間にするつもりでいたのだから。
「俺は……俺はーー」
「スイプは、どうしたいんだ?」
「ーー物騒なことを言うが、オレはとある男を殺す目的があるんだ」
「とある男?」
ロンがそう尋ねる。スイプの言い方からして、相当重要な話なのだろうと、この場の全員が悟る。
「魔王軍『戦略長』、スコルチェ•ロスター。俺のーー恩人を殺した名だ」
「へー『戦略長』か。そりゃまた大物だな」
「『戦略長』?……名前からして偉そうだな」
「レックスって意外と物知らずだな。いいか?魔王軍には四つの階級があるんだ。一番上が『特別幹部』その次が『長官』そしてその次が幹部そして最後に兵士だ。そんで、今スイプが言った『戦略長』ってのは長官に当たる階級だ」
「ってことは上から二番目ってことか。強いな! だけど」
レックスは自分の拳をスイプに突きつけた。そして、レックスが言った言葉は、スイプの心を揺さぶることとなる。
「俺たちが倒そうとしてるのはそのもっと上、魔王だ。ならいずれは必ずそいつともやり合う日が来るはずだ。一人でやるよりみんなでやったらいいに決まってるじゃねえか」
レックスはそう笑いかけてスイプに言った。流石のスイプもこの回答は予想していなかったのだろう。
この場で、狙撃手、シルフィルド•スイプは自身に問いただす。俺はどうするべきなのだと。
少し考えた。そして、すぐに答えを導き出した。今になると何を悩んでいたんだろうと馬鹿馬鹿しくなるほどだ。
狙撃手、シルフィルド•スイプが選んだ答え、それはーー、
「レックス、ロン……オレを、仲間に入れてくれ」
レックスとロンは顔を合わせて笑い、頷いた。
「「歓迎するぜ、スイプ!」」




