第二章22話『一人の少年の主張』
ここはワイド砂漠。この世界で一番大きい砂漠。 そして今、二つの街の戦争が行われている砂漠だ。
物資を奪った犯人である、魔王軍の幹部を討ち取っても、この戦いは終わることを知らない。どちらも自分たちの街を守るために必死だ。
だからそんなことが起きていることなど、知る余地もない。
「レックス!」
「ロン、スイプ! やったな!」
「あぁ、なんとかな」
しかし無情にも、まだ銃声は鳴り止むことを知らない。
「そんなっ、なんで……」
当然スイプもこの表情だ。いや、スイプだけではない。当然だろう。せっかく犯人を倒したというのに、まだ無意味な戦いが行われているのだから。
「どうすりゃいいんだよ!」
「せめて、みんなの注意をこっちに向けられたら…」
「注意……っ、そうだ。思いついたぞ!」
この様子だと、おそらくスイプはレックスの『注意』という言葉にピンときたようだ。
「ロン! キラーの残骸って残ってるか!?」
「キラーの残骸?」
「ーーそういうことか。あるぞ!」
「ん? どういうことだ?」
またもや、レックスは理解できずじまいだ。しかし、ロンとスイプはこれからやろうとしていることが同じなので、大人しく二人に従うことにした。
二人が駆け寄った先、それはキラーの巨大な体部分のパーツだ。頭こそロンが破壊して爆発して粉々になってしまったが、まだ体部分のパーツは壊れずにいた。
「なーなー、教えてくれよ。これをどうするんだ?」
なんでここまできて分からないんだと少し呆れつつも、ロンが作戦の意図を説明する。
「この無駄にデカいキラーの体を、戦場に持っていって爆発させる。それにより兵士たちの注意がこっちに逸れるってわけだ」
「あー、なるほど。そりゃいいな! やろう!」
しかし相変わらずスイプの表情は明るい物ではない。その理由というのがーー、
「このデカい体をを、どうやって運ぶかだな」
ここから戦地までかなりの距離があるだろう。そんな距離をこの高い図体を運びながら進むなど、そう易々とできるとは思えない。
「んー、確かにな。そりゃ困った」
そう二人が悩んでいた矢先、ロンが問題なさげそうな表情で手を挙げた。
「あー、それなんだがよ、殴ってみた感じそんなに重くはなかったぜ。なんせ、俺のパンチで頭があんなに吹っ飛ぶくらいだからな。まあ弱ってたっていうのもあるけど」
「本当か! ならとりあえず運んでみるか」
三人はでかい図体を「せーの」と掛け声を合わせながら運ぶ。するとやはりロンの言う通り、見た目以上に重くなかった。 無論、軽いわけではないが。
「これならいけるんじゃねえか?」
「よし、絶対これを届けて見せよう!そしてコルトとナサを救うんだ!」
「おう」
砂漠の上に「せーの」と言う掛け声が響き渡る。それは三人の少年の声だ。この終わらぬ戦いに終止符を打つために、だ。
「いい加減にしろ!」
「そっちこそ!」
まだワイド砂漠のど真ん中では、銃声と人々の吠え声が絶えない。もうすでに怪我人も出ている。
一刻も早く止めなければ。でないと、この砂漠の上に秒単位で増え続ける人の血が、やがてこの砂漠を埋め尽くしてしまうことになる。
「これでいいだろ」
ついに三人は戦地の近くに辿り着いた。この大きな図体を運んで、だ。
「ロン! 頼んだぞ!」
「おう、任せろ。ファイヤーパンチ!」
大きな図体が大きな音を立てながら転がる。その奇妙な光景はすでに何人かの注意を引いていただろう。
だがここからが、スイプに用意された大一番の踏ん張りどころだ。
「「ーーなんだ?」」
それはたちまち大きな音と衝撃波を生み出し、爆発した。
そして今、この戦地上のすべての人間の注意が、この爆発に逸れる。
少し経って落ち着いた頃、銃を持った少年が、戦場に立つ兵士たちの前に現れる。そしてこう言い放つ。
「この戦いの首謀者は魔王軍の幹部だぁー!!」
「魔王軍の」
「幹部?」
何を言い出すのかと大勢が息を呑んでいた中、その少年が言い放った言葉は、案の定多くの兵士の注意をさらにそっちへ逸らすこととなった。
「そして! その魔王軍の幹部は、俺たちが倒したぁー!!」
「魔王軍の幹部を倒した!?」
「もうこの戦いに意味はないー! 全員、武器を下ろして戦いをやめてくれー!!」
一人の少年の主張は、多くの兵士の、大人の心を動かした。
そしてこの戦場の兵士全員、武器を下ろし戦いを終えたのだった。
そこに二人の長、リティアムとネオンが慌てて駆けつける。
「スイプ! その話本当なのか?」
「あぁ、そうだぜネオンさん。あんたが見たコルトの兵士は、魔王軍が仕向けた罠だ」
「ようやく、私たちの疑いが晴れたんだな」
「あぁ、そうだなリティアムさん。これでもう無意味な戦いが終わっ……たな……」
スイプは安心するとその場に倒れ込んだ。体力の限界だったのだろう。
「スイプよく頑張ってたもんなー」
「ーーあぁ、そうだな」
その後、レックスたち含む怪我人は、コルトとナサで協力して手当てされた。幸いにも、この戦いでの死者はいなかったようだ。
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あれからどれくらい経ったのだろう。長い時間眠っていたような気がする。
しかし、短かったような気もするのだ。昔の頃の記憶を見ていたような気がする……いずれにせよ、シルフィルド•スイプは、そろそろ目覚めなくてはならない。
「ベット、それとレンガの壁……ここは…病院か?」
「スイプが起きた!おいロン!スイプが目覚ましたぞ!」
「ほんとか!今行く!」
目を覚ましてから始めに青い髪の少年が話しかけてきた。それにつられ、赤い髪の少年も駆けつけてくる。
安心した。無事に戦いは終わったのだと。
どうやら魔力の過度な使用で疲労が蓄積し、人々が戦いを終えて安心した時、溜まっていた疲労が一気に襲いかかってきて、気を失ってしまったようだ。
「スイプー、立てるか?」
レックスがベットで寝ているスイプに手を差し伸べる。その手をスイプも取ろうとするが、
「うん……って痛!まだ疲労が溜まってるのか」
「今日はもう寝とけ。もう疲れ切ってるんだろ」
「そういうロンたちも大丈夫なのか?」
「まあ俺たちは十分休んだからな」
「っていうかさ、俺どんくらい寝てたんだ?」
「丸三日だな」
「三日!?そりゃぁよく寝てたんだな」
流石にスイプもロンの言った丸三日という時間には驚かされた。無理もないだろう。 自分にしてみれば、体感まだ半日ほどしか経っていなかったのだから。
「とにかく、明日には動けるようになってるといいな」
「とにかく目覚ましてよかった!」
目を覚まして、温かい仲間から嬉しい言葉をたくさんもらった。
幸せだ。そんなことを考えつつも、狙撃手、シルフィルド•スイプはこの時を噛み締めるのだった。




