第二章20話『それはどんな言葉よりも背中を押してくれるものだった』
魔王軍の戦闘兵器、キラーにはとある異名がある。それは口にするのも恐ろしく、あまり軽々しく口にはしたくない名だ。それは、
「ーー破壊の象徴」
どんな環境にも適応し、どんな物でも破壊するということから付けられた名称だ。
大半の人は見ただけでも恐れを成して逃げてしまうほどだ。
しかしこの二人は違う。勇敢にも、この『破壊の象徴』に正面から立ち向かっているのだ。
「ーータイショウヲセントウフノウニスル。セントウヲカイシスル」
キラーの一つしかない黄色い瞳が、敵を見る真紅の瞳に変わった。おそらく戦闘モードに切り替えたのだろう。
「わざわざ言ってくれんのか。まあいい。やるぞスイプ!」
「おう! 一切手は抜かねえよ」
拳に炎を纏う少年と、風を纏い銃を握る少年が、『破壊の象徴』に立ち向かう。
先手を打ったのはロンだ。その炎を纏った拳を『破壊の象徴』に喰らわせる。だが、戦闘モードを開始したキラーには、先程の奇襲のようにはうまくいなかい。
それこそ傷は付いたが、さっきのように大きくよろけるようなことにはならなかった。
「ーーレーザーハッシャ!」
キラーの目から、黄色いレーザーが発射される。二人は避けたが、避けた後も継続的に発射され続け、相手に油断する暇すらも与えない。
そのレーザーに当たらないようにするため、スイプは再び小規模の砂嵐を発生させることを試みる。
「ウィンドー!」
結果的に、スイプは再び小規模の砂嵐を発生させ、キラーの視界を奪う。それによりわずかな時間を稼いだ。その瞬間にロンと作戦を考える。
「あのレーザー厄介だな。無力化出来ればいいんだが……」
「無力化……狙撃……レーザー……ロン。この戦い、オレに委ねてくれねえか?」
「スイプ? 分かった。よく分からねえがお前を信じる」
意図は分からなかったが、それでもロンはスイプを『信じる』ことにした。
スイプは手に持っている銃を、『破壊の象徴』の目に向かって構える。砂嵐の中でも、キラーの真紅の瞳はよく見えるからだ。どうやらキラーの目を撃ち抜いてレーザーを撃てなくする作戦のようだ。
「今のキラーには多分俺の銃は効かねえよな。なんせロンの拳でさえ、やっと傷が一つつくだけだったし」
そう、スイプには懸念点があった。それは自分の銃が仮に命中したとしても効かないのではないかというものだ。しかしスイプには、策があるように見えた。
「まだ成功したことねえが、やるしかねえよな!」
まもなくして砂嵐が晴れる。キラーは再び攻撃する対象をスイプに定め、レーザー攻撃を始めようとする。
スイプはそれを避けようともしない。むしろ撃つべき的が正面にあるのだ。好都合と言えば好都合だ。
しかし逆に言えば、外せば即終了だ。万が一そんなことがありでもすれば、スイプにレーザーが命中することとなるだろう。
手も震え足がすくむ。心臓の音が爆発の音のように大きく聞こえる。その鼓動音はスイプの不安を煽るように早くなる。
ーーしかし、ロンはスイプに『信じる』と言った。
人を『信じる』ということは簡単なことではない。なんせ自分の命運を、命を相手に預けるということなのだから。
それをまだ会って短期間で行うというのは、とてもじゃないが難しい。
しかしロンはスイプを『信じる』。スイプにとってはそれはどんな言葉よりも背中を押してくれるものだった。
『ーーお前を信じる』
その言葉はスイプの心に、そして銃に火をつける。そしてその火に風が纏われる。
「ーーレーザーハッシャ!」
「圧縮銃!」
風属性の魔力がスイプの銃に圧縮され、圧縮された魔力が一斉に解放し、絶大な威力の銃となった。それは普通の銃とは比べ物にならないほどの威力だった。
そして、風を纏った弾は、魔王軍の戦闘兵器ー『破壊の象徴』が撃ったレーザーを撃ち抜き、そのまま真紅の瞳も撃ち抜いた。
それによりキラーは視界を奪われ、混乱する。
「ーーシステムニイジョウハッセイ!シカイヲウバワレタ!コウゲキフカノウ!」
その惨めな姿はもう誰も『破壊の象徴』などと呼べない。そして無情にも背後には炎が迫る。
ーー否、それは一人の少年だ。
「ならもう戦えねえよ。とっとと壊れやがれ! ファイヤーパンチ!」
その炎を纏った拳は、煙を上げる大きな顔を吹っ飛ばした。そして、胴体と離れ離れになった顔は、大きな自分の体を置いて、たちまち大きな音を立てて爆発した。
『破壊の象徴』は、二人の少年によって惨めにも破壊されたのだ。
「「しゃぁーー!!」」
今日このワイド砂漠のど真ん中で、大きな機械が壊れる音と、二人の少年の大きな歓声が響き渡った。




