第二章15話『希望の色と絶望のドス黒い色』
三人はコルトを離れ、スイプの案内の元、隣街のナサへと続く砂漠をラクダに乗って突き進んでいた。
「なぁ、コルトとナサってこの問題が起こる前どんな感じだったんだ?」
「前はそれこそ、場所は違えど仲はいいみたいな感じだったぜ? 少なくとも数ヶ月前までは」
「まぁ、あれだけしか見てない俺たちには、そんな感じの名残も見えなかったがな」
「まあロンがそう言うのも分かるさ。なんせオレも驚いちまったし。とりあえず一刻も早く戦いを止めねぇとな」
レックスは無駄な血を流させないために、より一層ラクダの手綱を強く握るのだった。その様子をレックスの後ろからロンとスイプが眺める。
そして三人はいよいよナサに辿り着いた。ナサの街並みはコルトとすごく似ていていた。
人々の様子といえば、戦いが起こるのではと、どうも落ち着かない感じだった。
なんせ、急いでナサの長に会わなければならない。そして止めるのだ。戦いを。
「スイプ、案内してくれ!」
「あぁ! こっちだ!」
二人は焦りを隠せないスイプについて行った。否、焦りを隠せないのはスイプだけではない。
そんな緊迫した空気を背負い、三人はナサの長の元へと辿り着いた。
スイプは扉を開け、ナサの長と対面した。
「君は……確かここ数ヶ月遠征中と聞いていたが、帰っていたのか。コルトの狙撃手、シルフィルド•スイプ。そしてようこそ客人達よ。私の名前はツタン•ネオンだ、よろしく」
「ネオンさん! 話は聞いてるよ。でも多分誤解だ! 俺たちコルトはそんなことをしていない!」
「まあ無理もないよ。私だってそんなことをするとは到底思えない。ーーいや、思えなかった」
「じゃあなんで……?」
コルトの狙撃手はナサの長、ツタン•ネオンに問う。なぜコルトがやったと決めつけるのかを。
「しかし私は見てしまった、この目で。複数のコルトの兵士達が、ナサの物資倉庫に侵入し、物資を盗んで行ってしまったところを」
「そんな……」
目の前が真っ暗になる。目の前が絶望の色に染まる。時間が進むにつれ、だんだんと明るい希望の色がドス黒い絶望の色へと変わるのが。
ーー誰かが呼びかけてくる。何も聞こえない。もう何も考えたくない。しかしそんなことを許さない者の声がーー、
「スイプ、しっかりしろ!」
「っ!……悪い」
聞こえたのは、どんな状況になっても希望の色を残し続ける者の声だ。
「絶対に何かがある! だからスイプ、まだ諦めるな!」
「うん、そうだよな。ありがとう、もう大丈夫だ」
レックスの声により、スイプは正気をーー否、希望を取り戻した。
「まあ俺もそう信じたいんだけどよ、この目で見ちまったものはどうしようもねえんだ」
「スイプ、この話何かがあるはずだ。絶対にそれを暴くぞ」
「ロン。ーー分かった。必ず成し遂げてやるよ!」
「ネオンさん、頼むから早まらないでくれよ」
「……あぁ」
ネオンはどうもはっきりとしない顔でそう答えた。どうも目を合わせようとしないのは気のせいだろうか。
いずれにせよ、三人はネオンの元を離れて作戦を練ることにした。
しばらくして、ふとロンが口を開く。
「なぁ、この話なんかおかしいと思わねえか?」
「そりゃおかしなことは山ほどあるが、なんか閃いたのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「仮にコルトとナサの二つの勢力がぶつかった時に、一番得をするのは誰だろうって思ってさ」
「……! まさか」
話についていけてないレックスとは裏腹に、スイプはロンの言いたいことに気づいたようだ。
この戦いで得をするであろう人物、いや勢力。それは、
「魔王軍だろうな」
「えっ、魔王軍!? でもなんで?」
レックスも流石に驚いたようだ。そんなレックスにスイプが説明に入る。
「まあ侵略が楽になるのが一つだろうな。もともとどっちの街も決して武力に欠けているわけではない。というか強い。どうせ攻め込むならどっちも弱った状態にして攻め落とす。そんな感じなんじゃねえか?」
「あぁ、俺が考えるのはそんなとこだ」
スイプの考えは、ロンのものと合致していたようだ。
「なら急いで知らさねえと……っ! なんだ!?」
レックスたちがこの事件の真相に辿り着かんとする時、ナサの外で大きな爆発音が響いた。その後、砂を乗せた突風がこちらに打ち付ける。これが示すもの、つまり、
ーー戦いの開始だ。
「そんな……早まるなって言ったのに……」
「急いで説得しよう!」
「おう」
三人は急ぎネオンの元へと向かった。
家に入るがそこにはもう誰もいない。代わりに一枚の置き手紙が置いてあった。
「客人たちよ、そしてスイプよ、これは我々の問題だ。私たちは仮にコルト側について敵対しようと責めはしない。だが、くれぐれも後悔のない選択を選んでくれ」
「なんだよこれ!」
スイプは手紙を読み終わるあまり、その手紙を机ごとと強く握った拳で思いっきり叩いた。
「スイプ、やるぞ」
そんなスイプにレックスは呼びかける。
「やるって言ってもこれじゃぁ……」
「まだ、まだ終わってねえよ! 最後までどんな状況でも絶対に諦めちゃダメだ」
「そうだな。悪い悪い。ーー急いで戦地に向かって戦いを止めよう」
そんなスイプにレックスは優しく、そして強く笑いかけた。
少年たちは歩き始める。無意味な戦いを行うワイド砂漠の戦場の地へと。




