第一章10話『フォーレ•アイゼン』
そして数分後、ゾン介の脳内伝達によって呼ばれたチーフは、村長の前に現れた。彼の表情が不安で溺れそうになっていたのは、言うまでもない。
始まるのだ。この村のニンゲンのリーダーと、ゾンビのリーダー同士の手に汗握るような緊迫した話し合いという名の審判が。
「村長……か。俺になんの用ですかってのは、おかしい話だよな。そもそも呼んだのは俺だし」
「ーーまずは、どうもありがとう。おかげでこの村の大事な子供の命が救われた。ありがとう」
「ーーぁ」
チーフは唐突な村長の感謝に驚きを隠し切ることができず、声にならない声が漏れた。
無理もない。一体どんな心を持ち合わせていれば、これまで自分たちを襲っていたゾンビのリーダーに頭を下げられようか。
「そんな! 俺たちゾンビは、村の人たちにいろんな迷惑をかけてきたってのに……感謝の言葉はゾン介一人だけで十分ですよ。なんなら、こちらはお礼を言われる前に謝罪の言葉を言わなきゃならない。ゾンビのリーダーとして謝罪させて欲しいです。どうもすみませんでした」
「ーーーー」
チーフはゾンビのリーダーとして、村長および村のニンゲンたちに謝罪をした。深く、深く頭を下げて。
その様子をしばらく静かに見ていた村長が、遂に思い口を開いた。
「ーー皆の者。このゾンビの姿を見て、まだゾンビのことを信用できぬか?」
「それは……」
周りで見ていた村人たちは、心の奥底で悩んでいたことを村長に当てられ、戸惑いを見せた。
早い話、これまで自分たちを襲っていたゾンビを級に信用するなど無理だ。それも、ゾン介だけならまだしも、ゾンビ全てを信用するなど不可能ーー、
「何より、アリスとゾン介の姿を見よ。このゾンビは、ニンゲンの少女であるアリスを助けたのじゃぞ。命懸けでな。ーーそれに」
村長は言葉を詰まらせ、そのままチーフの元に歩み寄る。そして、自分よりも目線の高いチーフを下から見上げ、
「おそらくこの村の歴史を見るに、私たち人間は、ゾンビのことを差別していたんじゃろ? それなら私たち人間にも非はあるはずじゃ。ーー今回のことは、それでお互い様ということにせぬか?」
「そんな、そんな……」
チーフは、今この瞬間、全てのニンゲンを悪と決めつけていた過去の自分を呪い殺したいと心の底から思った。
なんて愚かだったのだろう。ほんと、自分が馬鹿らしく思えてきて仕方がない。
「ーーそれで、それでいいなら、こちらこそお願いします!」
「誓おう。フォーレ•アイゼンの名に。それでは、これからよろしく頼むぞ」
「こちらこそ、よろしくお願い……いや、よろしく!」
チーフは涙を流し、震える手で村長ーーフォーレ•アイゼンのシワシワの手を握った。
こうして、今までではありえなかった、敵対していた二種族の長達がついに握手を交わした。
「ゾン介、ありがとう」
「いえいえ、オレはただ子供……いや友達を助けただけなんで。当然のことっすよ」
「そういえば、確かお前、俺が村を襲っていいたころ、よく俺の行動を否定してくれていたな。今になって思えば、お前の言う通りにしていればよかったんだな」
「そうっすね」
二人のゾンビは馬鹿らしくなり、その場で笑い合った。腹の底から。心の底から。
そして迎えた次の日。レックスが目覚めた村は、ゾンビとニンゲンが仲良くする、夢にも見なかった光景が広がっていた。
レックスは安心してこの村を出ることができると思い、とても嬉しい気持ちに駆られた。
そして門に到着し、村の英雄、ジュリアス•レックスは、ゾンビと人間が手を取り合ったこの村ーーシェイク村とお見送りメンバーたちを見るために、後ろに振り返った。
「それじゃあ、行ってくる!」
「いつか借りを返しに行くから待ってろよ! レックス!」
「気をつけて行ってくるんじゃぞ」
そうしてこちらに背を向けて森を再び歩き始めたレックスの背中を、二種族の長が姿が見えなくなるその時まで見つめ続けるのだった。ーー否、それは二人だけではなかった。
「あれが村の英雄レックスか。ーー俺も連れて行ってもらおう」
この村は二つの種族が仲良く暮らす村、シェイク村。かつては互いに敵対していたようだが、そんな面影はもうない。
なにせここは、二種族の長が手を取り合った村なのだから。




