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リリカル・ノイズ  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
わたし、ライブやってみたい
9/70

――ふたりで作る音

翌朝。

目が覚めたとき、スマホの通知はひとつだけだった。


――Yunoから。


いつもより返信は遅かった。

それが逆に、本気で読んでくれたんだなってわかって、ちょっと嬉しかった。


「おはよう、玲音。……返事来てる?」


キッチンでパンを焼いていた俺に、玲音がスマホを持って走ってきた。


「うん、来てた。読んだ? 読んでない? どっち?」


「読んでない。どうだった?」


玲音は、小さく息を吸い込んで、画面を見せてきた。


『君の歌詞、すごくよかった。

 こんなふうに誰かに“ことば”を返してもらえたの、はじめてかも。


 ちゃんと曲にしたいと思いました。


 よかったら……このまま一緒に仕上げまでやりませんか?


 アレンジとか得意じゃないし、

 君の声を聴いたら、歌詞にもアイデアが浮かびそうで。


 Yuno』


「……直接、話すって」


「うん。オンライン通話」


玲音は、スマホを握る手にちょっとだけ力を入れた。


「どうする?」


「……やる。

 曲、ちゃんと作りたい。

 ――それに、わたし、もう逃げたくない」


玲音は、はっきり言った。


「わかった。じゃあセッティングするよ。

 午後イチくらいでどう?」


「それくらいがいい。……午前中は準備する」


「準備って?」


「……いちおう、顔出すかもしれないから」


「!?」


玲音が顔を出すオンライン通話……事件レベルじゃないか。


「べ、別に確定じゃないし。

 でも、マイクだけだと緊張するかもっていうか……見えた方が安心するっていうか……」


「誰に言い訳してんの?」


「うるさい」


玲音はぷいっとそっぽを向いた。

でも、その頬がほんのり赤くなってたのは、俺は見逃さなかった。


午後一時。

セッティング完了。


マイク、カメラ、接続チェック。完璧。

玲音は――緊張で、ソファに正座していた。


「そんなに堅くならなくていいって」


「うるさい。これが落ち着くの」


「じゃあそのままでいけ」


数秒後、通知音。

画面に「Yuno」が表示された。


玲音が、深呼吸ひとつして、通話ボタンを押す。


接続音――ピッ。


「……あっ」


向こうのカメラはOFFだった。


「こんにちは。Yunoです」


玲音は一瞬固まって、それから――カメラはOFFのまま。


「……玲音、です」


「音源で聴いてたのと、同じ。……落ち着く声」


玲音は、ちょっとだけ口元を緩めた。


「Yunoさんの、声……」


「ありがとう。よかった」


「うん。……わたしも」


そのとき、ふたりの間の空気が、

少しだけ――変わった気がした。


俺はそのまま、そっと席を外した。

こういうとき、口を挟まないのが“伴奏者”の仕事だ。


通話は30分ほどで終わった。


戻ってきた玲音は、ちょっとぼーっとしてた。

でも、口元はずっと笑ってた。


「……どうだった?」


「うん。……楽しかった」


たぶん、音楽の話もしたんだろうけど、

それ以上に“ふたり”で話した時間が、玲音には大きかった。


「曲、仕上げることになった。ふたりで」


「じゃあ、タイトルとかも?」


「そう。まだないけど……“ふたりで作った”って感じのがいいな」


玲音の声は、なんだか少しだけ、大人びて聞こえた。


そのとき、俺はちょっとだけ思った。

この曲が完成したら、玲音はもっと遠くへ行くんじゃないかって。


でも、それでいい。

そう思えるくらいには、俺も前を向いてた。

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