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ルナの司会宣言

「……やっぱり、そうなると思ってたよ」


その声は、ふいにスタジオの静けさを破った。


ルナは、ソファの背にもたれかかりながら足を組み、スマホの画面を指でなぞっていた。

けれど、目はずっとこちらを向いていた。

俺と玲音が、並んで座っているこの空気の重さを、ずっと見透かしていたような目で。


「てか、私ってほんとタイミング悪いよね。

 そういう話、するなら先に言って欲しかった」


そう言いながら、ルナは長い髪をくるりと指に巻きつけて、わざとらしく笑った。

けれど、その笑顔の奥にある影は、簡単には隠せなかった。


「悔しいな。

 ……あんたの隣に立つの、ずっと夢だったんだけどな」


その言葉に、玲音がぴくりと肩を揺らす。俺も、咄嗟に言葉を失ってしまった。


「……ごめん」


「謝んないで。誰も悪くない。

 ……って、頭では分かってんだけどさ」


ルナはソファの肘掛けに肘を置いて、手の甲で唇をなぞった。

なんてことない仕草のようでいて、妙に艶っぽい。

そういう無意識の色気を持っている。


「なんか……ズルいよ、あんたたち」


その声音には、ふいに滲んだ感情があった。

ルナは俺たちの顔を交互に見つめる。

その視線に、わずかに涙の光が浮かんでいた。


「ふたりだけで、こんなとこまで来ちゃってさ。

 置いてかれたみたいで、ちょっとムカつく」


「ルナ……」


玲音が絞り出すように言うと、ルナは笑った。

笑って――そして、ゆっくりと立ち上がった。


「ま、でも最後くらいはさ、ちゃんと見届けさせてよ。

 どうせなら、いちばん近くで」


ルナはそう言って、スタジオのホワイトボードに歩み寄ると、マーカーを手に取り、大きく文字を書き始めた。


「リリカル・ノイズ婚式進行案――!」


俺と玲音は、同時に言葉を失った。

だって、ルナの動きに迷いはなかった。

まるで――ずっと前から覚悟を決めていたみたいに。


「台本は私が作る。

 デコ文字も入れるし、“ふたりの歴史ざっくりまとめ”もするし。

 ゲストコメントは先輩バンドからもらって、新曲披露もね」


「え、ちょ、早すぎ――」


玲音が慌てて突っ込むと、ルナはクルリと振り返り、イタズラっぽくウインクしてみせた。


「だって、ふたりのこと、ずっと見てきたんだもん。

 あたしの方が、ふたりよりふたりのこと知ってるかもよ?」


そのとき、ようやく俺は気づいた。


スタジオの隅。

照明機材をいじっていたミレイが、いつの間にか立ち止まってこちらを見ていた。

静かに、でもその目は笑っていた。


「……じゃあ、映像と照明はオレ様がやる」


玲音が驚いた顔を向ける。

「……ミレイちゃん、聞いてたの?」


「全部、な。

 ふたりの音楽、いちばん近くで照らしてきたから。

 今さら降りられないっしょ?」


スタジオの空気が、少しずつ変わっていく。


ルナが悔しさをかき消すように奔走して、ミレイがそれを静かに支えて――

俺と玲音の決意は、もうふたりだけのものじゃなかった。


その温度が、心の奥にじんわりとしみていく。


「……ありがとう、ふたりとも」

そう口にした玲音の声が、わずかに震えていたのは、たぶん俺にしか分からなかった。


そしてその声に、ルナは背を向けたまま、ぽつりとこう呟いた。


「今日だけは祝ってあげる。

 あんたの隣に立てなかったあたしのこと、ちょっとでも思い出してくれるならね」


その背中に、玲音も、俺も、何も言えなかった。


でも、心だけは――たしかに震えていた。

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