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奏汰と玲音のラジオ再出演

「……やっぱり、緊張する」


玲音がそう呟いたのは、スタジオの控室。

ゆるめのパーカーに、ショートパンツ。

膝までぴたりと伸びる黒のニーソが、素肌のやわらかさを際立たせていた。


部屋着みたいなラフさなのに、今日はどこか違って見えた。

髪は軽くまとめられて、リップもほんのり色づいていて。

最初にこの番組に出たときの、震えるような少女の影はもう、なかった。


玲音は小さく、息を吐く。

「声は……出せるよ」


その横顔に、俺はそっと頷いた。

「うん。無理しなくていい。

 でも……出せたら、きっと、響く」


スタジオブースに入ると、MCのシバタさんが明るく迎えてくれた。


「おかえりなさい、3年ぶりの登場、待ってましたよ!」


マイクの前に並んで座る。

玲音は膝にキーボードを抱えていたけど、今日はそれに触れようともしない。


言葉で、ちゃんと戦うつもりだ。


「この3年でおふたりの音楽、ほんとに進化しましたよね。

 SNSでも“生活と音楽の境界がない”って話題になってて」


「ありがとうございます。ほんとに、生活と音楽、どっちも“ふたり”で作ってるんです」


俺がそう言うと、玲音が静かに頷いた。


「……朝ごはんの音が、そのまま曲になることもあるし」


その声は、少しだけかすれて、色っぽかった。

シバタさんが「さすが玲音さん、もう“声”で語ってくれるんですね」と笑う。


玲音はちょっとだけ頬を染めて、イヤホンのコードを指でくるくると巻いた。

何気ない仕草が、妙に色っぽい。

白く細い指先が、コードの柔らかなカーブをなぞるたびに、

俺は視線を逸らす理由を探していた。


番組はその後も、順調に進んだ。

玲音は言葉を選びながらも、しっかり自分の“声”で語っていた。


そして――


「……これは台本にないんですけど、聞いてもいいですか?」

シバタさんが、少しだけ声を落として切り込んできた。


「おふたりって……ほんとに“恋人”なんですか?」


玲音が、ふっと俺を見る。

その視線はまっすぐで、少しだけ挑むようで。

そしてすぐ、マイクに向き直る。


「……うん。大切な人です。

 音楽も、生活も、一緒に作ってる」


まるで告白みたいに。

その響きに、俺の胸が一度だけ、高く鳴った。


「俺も、同じ気持ちです」


言葉を重ねた瞬間、ブース内に俺たちの楽曲が流れ出す。

『未来の声』――静かなパッドとローズが、

玲音の言葉の余韻を、包み込むように広がっていく。


「いや~沁みますねぇ……“大切な人”って言葉、いいなぁ」


シバタさんが言葉をほぐしてくれて、スタジオがまた柔らかく笑った。


やがて、エンディングが近づいてくる。


「じゃあ最後に、リスナーに向けてひとことお願いします」


俺は、マイクの前に口を寄せた。

「音楽って、誰かと一緒に作ると、生活そのものになるんです。

 俺たちは、そういう音を、届けたいと思ってます」


玲音は、少しだけ考えてから、ぽつりと言った。

「……今日の音、きれいだった」


その言葉に、俺は思わず微笑んだ。


言葉の代わりに、俺の鼓動が応えていた。


番組が終わり、スタジオを出る。

スタッフの拍手を受けながら、俺たちはマイクを外して頭を下げた。

玲音も、ゆっくりと、ていねいにお辞儀していた。


帰り道、まだ街がまどろんでいる時間。


玲音がふっと口を開く。

「……ちょっとだけ、楽しかった」


俺は横を見て、笑った。

「また出よう。……次は、もっと“ふたりの音”を聴かせような」


玲音は、座席の上でニーソの足を揃えて、

イヤホンのコードをまた指でくるくると巻いていた。


その指の動きが、どこか艶っぽくて、

俺の頭の中まで、ゆっくり熱を帯びていく。


答えは返ってこなかったけど、

玲音の頬がほんの少し赤く染まっているのが見えた。


きっとそれが、今日いちばん素直な“YES”だった。

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