面接練習
スタジオの一角。
ローズの前に置かれた椅子に、玲音がちょこんと座っていた。
その姿勢は、やけに背筋が伸びていて、口元がぴくぴくしている。
「じゃあ、始めようか。面接練習」
奏汰が言うと、玲音はなぜかピンと姿勢を正し――
「よろしくお願いします!」
急にバイトの面接テンションになっていた。
「え、何その声。接骨院の受付?」
「違うもん! 通信制高校だもん! 清楚風志望動機だもん!」
「清楚“風”って言っちゃってる時点でアウトなんだが」
ともあれ、面接ごっこが始まる。
「志望理由を教えてください」
奏汰の声は、やや芝居がかっていて、面接官を演じるつもりらしい。
玲音はおすまし顔で、膝の上で手を組んでから――
「……わたしは、音楽を続けたいと思っていて……」
まではよかった。だが途中で――
「あと、自分のペースで……可愛い服を着て登校したいし……」
「急に制服アピール!?」
「だって! 自由な校風って書いてあったもん! ニーハイもOKってことだもん!!」
「そこだけ読むな!」
玲音は、ローズ・ピアノの椅子をくるくる回しながら、上目遣いで続ける。
ローズは、金属音叉の振動を電気的に増幅して鳴らすエレクトリックピアノ。
その音色は、アコースティックピアノよりも柔らかく、どこか曖昧で、
感情の揺らぎや言葉にならない想いを、そっと音にしてくれる。
「でも本当はね……兄と一緒に、音楽を作りたくて」
その声が急にトーンダウンして、奏汰も一瞬素に戻った。
「……今の、すごくよかった」
玲音はにやっと笑って、上着をはだけ――
「でしょ? そういう“スキ”見せた方が、男の面接官ウケいいって女子の間では……」
「だから面接は色仕掛けじゃないからな!?」
「でもさ、奏汰には甘えていいんでしょ?」
そう言って、玲音は膝をすり寄せ、奏汰の目をじっと見つめる。
「志望理由、言っていい? ……“奏汰と、毎日いちゃいちゃしたいから”」
「それ志望動機じゃなくて下心じゃねえか!」
「じゃあ、面接終わったら……ご褒美ちょうだい?」
「ご褒美って、何をだよ!?」
玲音はローズの上に手を置き、わざとらしくキーを押しながら言った。
「えっちなコード、奏でてみよっか?」
その瞬間、スタジオのスピーカーから流れ出したのは、エレクトロ・サウンド。
まるでふたりのノリに感応したように、機材までその気になっていた。
「……なんでこうなるんだろうな、うちの面接練習」
「未来が明るいってことだよ」
その夜、スタジオにはふたりの声と音が入り混じっていた。
面接の練習だったはずが、いつのまにか“愛の重低音”セッションへと突入していた――。
——進学は、夢のための一歩(とちょっぴりの煩悩)。
——創作は、ふたりをつなぐ言葉(とスキンシップの口実)。
その夜のセッションは、いつもより少しだけ、刺激的で、やかましかった。




