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クリスマスの約束

スタジオの天井には、小さなイルミネーションライトが灯っていた。

赤、緑、金。控えめな色合いが、夜の空間に静かな熱を添えていた。


クリスマスイブ。

奏汰と玲音、ルナと小町。4人は、スタジオに集まっていた。


「メリークリスマス、ってことで。……乾杯、しよっか」

ルナが持ち込んだノンアルのシャンパンを、グラスに注ぎながら言った。

その手元はなぜか微かに震えていて、声のトーンもいつもより少しだけ甘かった。


「乾杯」

奏汰がグラスを掲げると、玲音も小町もそれに続いた。

グラスが触れ合う音が、薄く響くローズのコードに溶けていく。


テーブルには、ルナの焼いた香ばしいチキン。玲音が丁寧に焼いたクッキー。

そして、小町が持ってきたのは——なぜか、熟成された高級チーズだった。


「……これ、ワインに合うんだ」

小町がそう言って、笑った。けれどその笑みはどこか、挑発的に見えた。


「来年も、こうして集まれるといいね」

玲音がぽつりと呟いたとき、彼女の指が、奏汰の手にふれた。

まるで、さりげないように見せかけて——わざと、のように。


「集まるだけじゃなくて、もっとすごいこと、しようよ」

ルナが言う。声に湿度があった。

「たとえば、4人で曲作って、MV撮って……夜の街で、踊ったりして」


「それ、ミレイがやってたやつだな」

奏汰が笑う。

「“この街そのものがステージ”ってやつ。玲音の引きこもり改善計画、あれ、けっこうガチだったよな」


玲音は、少しだけ目を伏せて頬を染めた。

「……あれは、ちょっと恥ずかしかったけど。でも、奏汰と一緒だったから」


小町は、ローズ・ピアノの前に立ち、鍵盤をそっと叩く。

ローズは、金属音叉の振動を電気的に増幅して鳴らすエレクトリックピアノ。

その音色は、アコースティックピアノよりも柔らかく、どこか曖昧で、

触れた瞬間に空気を揺らすような繊細さがある。


けれどその姿勢は、わざと腰を突き出すように、色気をにじませていた。


「来年は、もっと音楽で勝負したいな。進学もあるし、色々変わる。

でも……音楽だけは、変えたくない。ねえ、奏汰も、そうだろう?」


「私も」

玲音の声が重なる。

「高校に行けたら……もっと堂々と“恋人”って言えるかも」


その一言に、スタジオの空気が、わずかに張り詰めた。

ルナと小町が、同時にグラスを口に運ぶ。

その視線の強さが、はっきりと「待った」をかけていた。


「……俺も、大学で創作を学びたい。物語を書いたり、映像作ったり……

でも音楽はずっと続けたい。玲音と一緒に」


玲音が、グラスを差し出した。

その手はかすかに震えていて——けれど、拒絶する気配は微塵もなかった。


「じゃあ、約束。来年も、一緒に創作しよう? ……進学しても、変わらずに」


奏汰は、玲音のグラスにそっと自分のグラスを重ねた。

「……約束するよ」


スタジオの隅では、ルナがスマホを構え、シャッターを切った。

「この瞬間、ちゃんと記録しとかなきゃ。……未来の私に見せるために」


ローズの前では、小町がコードを重ねていた。

その胸元のボタンが、ひとつ外れていることに、誰も言及しなかった。


「未来って、案外すぐ来るんだよね。

だから、今の約束って……めっちゃ、重い」


玲音がクッキーをひとつ口に運び、目を伏せながら言った。

「……高校に行けたら、放課後も、いっぱい……一緒に曲作れるかもね」


その言葉に、奏汰は照れたように笑いながら、隣に腰をずらす。

ふいに、彼の太ももと玲音の太ももが触れ合った。

誰も、それを避けようとはしなかった。


窓の外では、街のイルミネーションが静かに瞬いていた。

スタジオの空気には、音と熱と、密やかな欲望が渦を巻いていた。


——来年も、音楽と、誰かの肌のぬくもりと、一緒に。

——進学しても、変わらずに——いや、もっと深く。


その夜、スタジオには、約束と、焦がれるような気配が響いていた。

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