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ルナの選択肢

日曜の午後。

空は気怠げなブルー、空気はちょっと湿った秋の香り。

奏汰は、ルナの家に呼び出されていた——というより、半ば吸い寄せられるように足を運んだ。


和泉家の隣にある、かつて空き家だった一軒家。

今じゃすっかりルナの“城”。

玄関先には、季節外れのラベンダーと、彼女の趣味丸出しのステンドグラス風の表札。

ドアを開けた瞬間、ふわっと漂ってくる紅茶の香りと……甘くて、少しだけ大人の香水。


「来たわね、奏汰。さ、靴脱いで。ほら、そのへんに座って」

ルナはロリータ調のワンピース姿で、リビングのソファを指差す。

ぴたりと膝上、レースのフリル。わざとらしく組まれた足が、やけに視線を誘う。


「……お前、今日ちょっと露骨じゃない?」

「ちょっと? 褒め言葉として受け取っておくわ♡」


部屋の空気は、クラシックとJ-POPと、ルナ自身の気まぐれがミックスされたカオス。

壁には自作の小説のイラスト。机には、紅茶と、手作り感あふれるフィナンシェ。

甘いのに、どこか刺激的な味。まるでルナみたい。


「玲音の進路のことで、ちょっと相談があってさ」

奏汰が言うと、ルナはクッションを抱え直し、胸元のリボンが揺れた。


「進路? ……あの子、まだ中学生でしょ。そんなに焦ってどうするのよ」

「焦ってるわけじゃないけど、あいつなりに悩んでて。

 登校は苦手。でも音楽は本気で続けたいって」

「……ふーん」

ルナはフィナンシェをかじってから、紅茶をすする。

「まあ、わからなくもないわね。私だって、毎日登校なんて拷問だったし」


「なんで通信制にしたんだ?」

「そりゃ決まってるじゃない。エロと創作のためよ♡」

「……いやいやいや」

「真面目な話よ? 朝から晩まで学校で時間潰してたら、妄想する暇もないじゃない」

ルナは胸を張る。その動きで、レースの奥のラインが……。

奏汰はあえて見なかったことにした。つもり。


「創作は“本気の遊び”。だから、自分の時間は、自分の快楽で埋めたいの♡」


奏汰は思わず笑ってしまった。

でも、その言葉にはどこか本気が混じっていた。


「玲音も、音楽を“本気の遊び”として続けたいって言ってた。

 でも、進学って“社会に合わせる”ことだって思ってるみたいで」

「それ、間違ってるわね」

ルナはスカートの裾を指で弾いて、脚を組み替えた。

「“社会に合わせる”んじゃなくて、“自分に合う社会”を探すのよ。

通信制って、逃げじゃなくて、戦略的選択肢。センスのいい反抗ってやつ。」


「なるほど……玲音にも、その感覚を伝えたい」

「“伝える”だけじゃ、ヌルいのよ。“魅せる”の。」

ルナはスマホを取り出して、自分のスケジュールアプリを見せつけた。


「週2登校、週3創作、週2は気分でデート♡」

「……それ、誰とのデート?」

「今日のところは、奏汰ということで♡」


奏汰は紅茶を一気に飲み干した。

ちょっと熱かった。


「玲音、お前のことちょっと怖がってるかもな」

「当然でしょ。才能と色気の二刀流、最強ってことよ。

オリコン1位取った女にビビらないなんて、むしろ失礼ってもんでしょ」


「でも、本気で頼りにしてるよ。

 俺もさ、創作を続けるために大学行きたいって思ってるから。

 勉強って、結局“ネタ集め”なんだなって思うし」


ルナは、ふっと視線を落として、少しだけ真面目なトーンになった。

「そう、進学はネタ集め。

 出会い、教科書、街の音、人の仕草——全部、物語になる。

 玲音がそのことに気づいたら……一気に化けるわね。きっと」


そのとき、窓の外から風が吹いて、レースのカーテンがふわっと揺れた。

午後の日差しがルナの頬に当たって、その輪郭を、妙に美しく浮かび上がらせていた。


帰り道、奏汰は駅前の書店で、通信制高校のパンフレットを見つけた。

手に取って、何気なくページをめくる。

「週2登校」「音楽活動との両立」「個別指導」——玲音の“未来”が、そこに静かに並んでいた。


——自分の快楽で未来を描く。

——音楽と、ちょっとエッチな日々と、一緒に歩いていく。


その夜、奏汰は玲音にパンフレットを渡すと決めた。

真面目な未来だって、選び方次第でちょっと官能的に見えるかもしれない。

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