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アフタートーク、そしてまた音が始まる

最終日の朝。

南の島は、ひと雨降ったあとのように静かで、風は少し湿っていた。


ヴィラのリビングでは、俺たち4人がスーツケースに荷物を詰めながら、それぞれの余韻に浸っていた。


「……終わっちゃったね」


ルナがため息混じりに窓の外を見つめる。


「ね。ずっとこのままいたかったな」


玲音が髪を結びながらぽつりと言った。

その声は、ほんの少しだけ寂しそうだった。


「でも、音はちゃんと残ったわ。

 あの曲たちが、あたしたちのこの夏を、全部覚えてる」


小町がノートPCを閉じて、ふふっと微笑む。


「恋のバンドバトルとか言って、ただの“本音のぶつかり合い”だった気がするけどね」


「それがよかったんじゃない? 

 誰も嘘ついてなかったし」


俺はソファに座って、少し冷めた珈琲を啜った。


玲音が立ち止まり、ゆっくりと言葉をつむぐ。


「……わたし、ほんとにやっと気づけたんだ。

 “兄さんのそばにいること”が、音楽じゃなくて、“生き方”になってたんだって」


その言葉に、胸が少しだけ熱くなる。


「……それ、かなりの名言なんだけど?」

ルナが冷やかし気味に笑う。


「バカ。真面目に言ってるのに」


玲音がぷいっとそっぽを向いたその頬は、ほんのり赤かった。


「でも、あたしも見てて思ったよ。

 玲音、ほんとに変わったよね」


「最初の合宿じゃ、リモート参加だったもんなー」


「うるさい……でも、まあ、確かに」


玲音が照れたように肩をすくめると、全員の笑い声が重なった。

それはまるで、合宿全体のエピローグみたいな、やさしい音だった。


出発直前。

タクシーを待つ間、玲音はひとり海辺に立っていた。


俺は後ろからそっと近づく。


「……帰りたくない?」


「ううん、ちがう」


玲音は小さく首を振った。


「帰っても、もう迷わないって思ってる」


「じゃあ……?」


「さっき、小町さんとルナと話したの。

 “また勝負しようね”って」


「……うん」


「今度は、“わたしの物語”で、勝ちたい」


その声は、波よりも静かだったけど、確かに力を持っていた。


「いいね。

 玲音の歌が、また始まるんだ」


「うん。

 だから兄さんも……これからも、ずっとそばにいて」


「もちろん」


俺たちは見つめ合い、そっと手を重ねた。

誰かと誰かの距離が、音楽とともに近づいていく。

それが、俺たちの物語の進み方だった。


タクシーに乗り込む直前。

ルナが、何気ない声で言う。


「ねえ、次の合宿、冬にしない?」


「雪山とか?」

「鍋合戦とか?」

「え、ラブソングじゃなくてホラーソング回とか?」


「ちょ、待って、また“バトル系”になるの!?」


笑いながら、俺たち4人のシルエットが、南の島から遠ざかっていく。


だけど、音楽と恋は、まだまだ止まらない。

ここから、次の章が始まっていく――。

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