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君と、夏が、交差する

合宿五日目の昼下がり。

ヴィラのリビングは柔らかい陽射しで満たされ、蝉の声が木々を揺らしていた。

俺は譜面と向き合う玲音の横に座り、作業の手順を確認しながら彼女の手元を見つめていた。


「ねえ、兄さん……」

玲音の小さな声が、静かな室内に響く。視線は譜面に落ちたままだった。


「明日のラブソング対決、どうやって書けばいいのか……」


その言葉に、俺は少し息を呑む。

「焦る必要はないよ。テーマは“好き”だろ? 嘘をつかなければ、それだけで十分響く」


玲音は鉛筆をくるくる回しながら考え込む。

「……うん、嘘はつかない。ほんとの私で書く」

その声には、いつもより大人びた強さがあった。


ピアノの前に座る玲音を見て、俺は胸の奥がざわつくのを感じた。

指先で鍵盤を確かめ、音をひとつひとつ選ぶ彼女の姿は、慎重で、でも確実にメロディを紡いでいた。


「コードはGからCに進むけど……なんか切なさが足りないかも」

「なら、Emに落としてみろ。声が映えるはずだ」

俺が横からアドバイスすると、玲音は素直にうなずいて試す。

指が白鍵から黒鍵へと滑るたび、メロディが少しずつ形を帯びていく。

彼女が音に迷いながらも、自分の思いを探す姿は、どこか愛おしかった。


そのとき、玲音がぽつりとつぶやく。

「歌詞も、どうしたらいいんだろ……直接“好き”って書くの、恥ずかしいよね」

「恥ずかしいけど、それがラブソングのど真ん中じゃないか」

俺の答えに、玲音は小さく笑った。

「……うん。じゃあ、書く。本当の“好き”で、勝ちにいく」


窓の外では、夕暮れの光が木々を赤く染め始めていた。

空気が少しひんやりして、夏の昼と夜が交わる瞬間。

その中で、二人だけの時間が静かに流れていく。


一方、別室では小町とルナも作業中だった。

ギターを掻き鳴らすルナと、冷静にピアノで和声を組み立てる小町。

「ねえ小町、このコードでサビを転調させたらどう?」

「悪くない。でも、転調のあとにもう一段階落ちる感情を入れたほうが、胸をえぐる」

二人の音はぶつかりながらも、不思議と調和していて、明日の本番を思わせる緊張感を漂わせていた。


ルナが小さく笑う。

「当たり前じゃん。“好き”で負けるなんてありえない!」

小町も静かにうなずく。

「ええ……音で、気持ちで、負けるわけにはいかない」


夜が近づき、リビングに再び戻った俺と玲音。

「兄さん……これ、私の歌になってるかな」

「なってるよ。誰の真似でもない、玲音の声だ」

微かに照れたように笑う玲音。

「……明日、絶対に負けたくない」

その言葉に、俺も力強くうなずいた。


窓の外では、夏の夜風が木々を揺らす。

虫たちの声が、夜の到来を告げる。

明日はいよいよ――ラブソング対決本番。

恋と音楽が、正面からぶつかり合う夜が、すぐそこまで来ていた。

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