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リリカル・ノイズ  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
わたし、ライブやってみたい
13/90

――その日が来るのが、ちょっとだけ怖いけど

「3日後、だね」


「うん。3日後」


玲音はカレンダーの画面を見つめながら、小さく息を吐いた。


『やさしい透明』――

リリースから1週間。

再生数はすでに10万を超え、反応も上々だった。


ファンの間ではすっかり“新しい玲音”として定着しはじめていて、

ライブ告知の投稿にも、コメント欄には応援の声が並んでいた。


「新曲、生で聴けるの嬉しすぎる」

「Yunoさんとの曲、最高でした。ライブも楽しみ!」

「玲音ちゃん、がんばって!」


「……がんばって、って、書いてあるのにね」


「何が?」


「わたし、今、がんばれてるのかなって」


玲音の声は、いつもの調子より少しだけ細かった。


「なんかね、こう……“自分の中の期待”と“外からの期待”の間に、ズレがある感じっていうか」


「プレッシャー、感じてる?」


「ううん。……嬉しいんだよ。

 すごく嬉しいの。ちゃんと“聴いてもらえた”って実感あるし。

 でも、たぶん……怖いの」


玲音は指先で、自分のスマホ画面をそっとなぞった。


「次、間違えたらどうしようとか。

 想像と違ったって思われたら、どうしようとか。

 それよりなにより、“自分が思ってたように、歌えなかったら”って。

 ……それが、一番、こわい」


俺はしばらく黙って、玲音の言葉を聞いていた。


「……歌う前から、答え出そうとしてんだな」


「え?」


「不安ってさ、たいてい“未来のこと”だろ。

 でも、未来はまだ来てないんだからさ、そこで悩んでもしょうがない」


「でも、“今”が“その未来を決める”んだよ?」


玲音はまっすぐ俺を見て、言い返してきた。


「歌は……録音じゃなくて、生だもん。

 取り返しがつかないんだよ。ひとつでもズレたら、伝わらないかもしれない」


「……それでも歌うんだろ?」


玲音は、目を見開いたまま、しばらく何も言わなかった。


「……うん。

 “やめる”って選択肢は、ないんだよね。不思議と」


「そりゃそうだ」


「うん。……わたし、歌うよ。ちゃんと。

 こわいけど、それでも、“あの曲”は、自分の中から出てきたものだから」


玲音は立ち上がり、深呼吸ひとつ。


「リハ、付き合って」


「もちろん」


「……でも、その前に、チョコレート食べていい?」


「それ、ルーティーンになってるよな」


「うん、だから今日も崩さない」


玲音はにやっと笑って、小さな板チョコをひとかけ口に放り込んだ。

そして、真っ直ぐ俺を見た。


「その日が来るのが、ちょっとだけ怖いけど、

 ……ちゃんと“その日”を迎える準備は、できてきたと思う」


その目は、まだ少し揺れていたけど――

確かに、“前を向いてる”目だった。


リハーサルは深夜まで続いた。

何度も音を止めて、何度もやり直して、それでも手は抜かなかった。


途中、何も言わずに楽譜を見つめる時間もあった。


けれど、玲音は最後の最後まで、自分の声を止めなかった。


「……やっぱり、いい曲だな」


リハーサルのあと、ぽつりと呟いた玲音の声は、

不安でも、自信でもなく――ただ、まっすぐだった。


「ねえ」


「ん?」


「もし、ライブで泣いちゃったら……どうしよう」


「それも含めて、ライブだろ」


「……そうだね。

 わたし、ちゃんと歌う。泣いても、ちゃんと、歌う」


それは誓いでも、決意でもなく。

ただ、静かで、強い“覚悟”のことばだった。

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