――君の名前も、ちゃんと入れたから
数日後。
リリース手続き、無事完了。
ストリーミングサービスと、動画投稿サイトに同時アップ。
タイトルは、ふたりで決めた。
『やさしい透明』
作詞 玲音
作曲 Yuno
歌 玲音
カバー画像は、Yunoが描いてくれた手書きのイラスト。
青くにじんだような空と、そこに浮かぶ白いイヤホン。
どこか、ふたりの距離感みたいだった。
「再生数、3日で……3万いってる」
「すご……」
玲音がソファに倒れ込んだまま、スマホを突き出してくる。
「コメントも……“優しすぎて泣いた”とか、“声がしみる”とか、“Yunoさんの曲調に玲音の声がぴったり”とか……なんか、もう、すごい……」
「ちゃんと、届いてるんだな」
「……うん。届いてる」
玲音はスマホを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「――届いたって、わかったの、初めてかもしれない」
「今までだって届いてたさ」
「でも、“直接返ってくる”のは、やっぱり違う。
コメントって、こんなに重いんだね」
玲音の声には、少しだけ震えが混じっていた。
それはたぶん、喜びと、怖さの間にある感情だった。
その日の夜。
Yunoから、ひと通のメッセージが届いた。
『曲、すごく反響あって嬉しいな!
カバー画像、ちょっと手直ししてみました。
もしよかったら、使ってください。
それと……
“作曲:Yuno”って入れてくれて、ありがとう。
名前出さなくていいって言ったのに、ちゃんと載せてくれてて、
すごく、嬉しかった。
――で、ちょっとだけ、照れた。笑』
玲音はメッセージを読み終えて、しばらく動かなかった。
それから、画面を見たまま、ぽつりとつぶやいた。
「……やっぱり、わたし、勝手だったかな」
「勝手って?」
「名前、入れたこと。
Yunoさんは、裏方でいたいって言ってたし……。
それでも、わたしが“ちゃんと伝えたい”って理由で、勝手に名前出したの、
もしかして、負担になってたりしないかなって」
俺はちょっとだけ考えて、それから言った。
「玲音さ。
Yunoが“ありがとう”って言ってる時点で、答え出てるじゃん」
「……うん」
「照れてるってことは、“うれしい”ってことでしょ。
それに、“ふたりの曲”って、玲音が信じたことは、間違ってないよ」
玲音はスマホを胸に当てて、目を閉じた。
「――よかった。
わたし、ちゃんと伝えられたんだね」
「うん」
「ほんとに、これでよかったんだよね」
「うん」
しばらく、静かになった。
それから、玲音はふっと笑って、ぽつりと。
「……なんか、やっと“誰かと一緒に音楽やる”って意味、わかった気がする」
「だろ?」
「でも、たぶん、これで終わりじゃないよね。
むしろ――これからが、始まりなんだよね」
「うん。
そのために、まずはライブで披露しないとな」
「っ!?」
玲音はその言葉に、耳まで赤くして反応した。
「そ、それは……また別の勇気がいるから……!」
「逃げるなよ?」
「逃げてない! でもちょっと心の準備が……!」
玲音はクッションに顔をうずめて、じたばたしていた。
でも、心の奥では、ちゃんと“覚悟”していたはずだ。
今度のステージは、“誰かと作った曲”を、“みんなの前で歌う”場所。
それは、これまでの玲音にとって――たぶん、一番怖くて、一番大事な試練。
でも、彼女ならきっと越えていける。
そう思える理由が、今の玲音には、ちゃんとあった。




