表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リリカル・ノイズ  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
わたし、ライブやってみたい
1/65

――ライブって、なにから始めたらいいの?

「……ライブ、出てもいいよ」


そのとき、俺はヘッドホンのイヤーパッドをちぎりそうになった。


「……え? 今、なんて?」


「聞こえてるくせに、うるさい」


玲音は、パソコンのモニターから目を離さずに言った。

椅子はいつも通り背もたれを倒しきった体勢、フードを深く被って、白い脚を抱えるようにして座っている。


……まさか、あの玲音が、ライブに出てもいいって?


「いや、ちょっと待ってくれ。

 それって“客として行ってもいい”って意味か?

 それとも、“兄さんが出るなら見てやらなくもない”とか、“そのときだけ部屋から出てリビングのテレビで見る”って意味?」


「“出てもいい”って言ったんだけど」


「……俺たちが、だよな?」


「そうだけど」


「お前が、“人前に出てもいい”って言ってる……のか?」


玲音は返事をしなかった。

けど、足先がちょっとだけ動いた。


それだけで、答えはわかった。


「まじかよ……!」


「うるさい」


「ごめん」


そう言いながら、俺はちゃぶ台のノートパソコンに向かい、受信ボックスを開いた。

本当に、来ていた。とあるインディーズ系の音楽フェスから、出演オファーのメール。

俺たち――「リリカル・ノイズ」の名前で。


最初に見たときは冗談かと思った。

いくらネットでちょっとだけ話題になったとはいえ、顔出しもしていない無名の兄妹ユニットに、よく声をかけてきたなと思った。


「なあ、玲音。理由、聞いてもいいか?」


「……ライブ、どんな感じになるのか……知りたいだけ」


「それだけ?」


「……それだけ、じゃないけど」


玲音は、キーボードの上に手を置いたまま、うつむいた。


「兄さん……ステージに立つとき、楽しそうだった」


「……あれは昔、バンドやってたときの話だぞ。

 今はちょっと違うっていうか、あの頃みたいにノリでできるもんでも――」


「でも、楽しそうだった。

 ……わたし、知らなかった。兄さんが、あんなふうに歌うの」


「玲音……」


「……だから、わたしも見てみたい。

 ……一緒に」


モニターに映っているのは、玲音が作った新曲のプロジェクト。

まだボーカルも、歌詞も入っていない。

空白のまま。


だけど、コード進行だけでわかる。

これは――俺の声を、前提にして作られている。


「わかった。じゃあ、出演しよう。スケジュールも合わせる」


「……うん」


玲音は、少しだけ頷いた。

フードの奥から覗いた表情は、真っ赤だった。


「でも……兄さんが横にいないと、無理だから」


「もちろん。絶対、そばにいる」


「……そういうこと、平気で言うの、ほんとやめて」


「照れてるのか?」


「うるさい。ばか」

その声が、ちょっとだけ震えていた。


俺は、ノートパソコンに視線を戻し、

フェスの担当者に、返信を書き始めた。


その横で、玲音の椅子がまた軋んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ