第9話『異世界の成り立ち3』
魔法が存在するかしないかで、こんなに歴史が違ってくるんだ……。
サクヤ様の語りを聞き終え、この世界がゲームのように簡単に作られた世界ではないことを感じた。
しかし、今の話に一つ腑に落ちない所がある。
「サクヤ様、さっき信長が魔王になったのは、天正10年の8月って言いましたっけ?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、天正10年8月までは、ここの世界も元の世界も、どっちも魔法はまだなかったんですよね?」
「そういうことね」
「じゃあなんで、それまでは同じ歴史を歩んでいたのに、元の世界の明智光秀だけは天正10年8月よりも前の、6月に本能寺の変を起こして信長を殺したんですか?」
サクヤ様は竹の水筒に口を付け、一口だけ水を飲んだ。
「本能寺の変なんて、元々なかったのよ」
「えっ、どういうことですか?」
「信長が魔王になってからもしばらく明智光秀は織田信長に忠誠を誓っていたの。世界中の人々を滅ぼそうとする信長の企みに明智光秀が気付いたのは、翌年の天正11年。だけど、1年もの間魔王として力を蓄えていた信長を光秀は完全に討つことができなかった。だから光秀は信長を封印し、過去に跳んだの。魔王になる前の信長を討つために。それがあなたの世界で起こった本能寺の変よ」
ちょっと待て!?
今、物凄いことをさらっと聞かなかったか!?
「えっ、過去に跳んで……って、タイムスリップですか!?」
「そうよ。それで世界は2つになったのよ。魔王信長が誕生する前に明智光秀が本能寺の変を起こして、魔法が存在しない世界と、魔王信長は封印したけども魔法が未だ存在し続ける2つの世界に」
ちょっと整理しよう。
つまり簡単に言うと、明智光秀が過去にタイムスリップしたのが元の世界で、明智光秀がタイムスリップしなかったのがこの世界ということでいいよな?
「えっと、ということは、明智光秀が過去に跳ばなかったら、世界はこっちの世界だけだったということ──で、合ってます?」
「ええ、そうね」
「ということは、俺の世界は明智光秀がタイムスリップしたことによって発生した、こっちの世界のパラレルワールドっていうことですか!?」
「そういうことね。世界の本流はこっちの世界よ」
サクヤ様の言葉に、今まで味わったことのないショックを受けた。
世界の本流はこっちの世界。
つまり俺は、パラレルワールドの住民だということらしい。
俺のショック顔を見てフォローのつもりだろうか、サクヤ様は言った。
「だけどね、魔法は本来人間が使うものじゃないわ。だから、本当に正しい歴史を辿ってるのは、あんたの世界よ。こっちの世界は間違った歴史を辿ってるの」
間違った歴史の本流世界と、正しい歴史のパラレルワールド……。
どちらかの世界が忽然と消えることなんてあるのだろうか……。
消えるとしたら、それはやはりパラレルワールドの方なんじゃないだろうか?
──なんて、ふと恐ろしいことを考えてしまったが、そんなこと許されるわけがない。
サクヤ様も、正しい歴史を辿っているのは俺の世界の方だと言っていた。
だから俺の世界が忽然と消えるなんて、あるわけない。
ただ、自分の存在がオリジナルではなく、コピーペーストされた存在のように感じ、しばらく俺の気は沈んだままだった。