第8話『異世界の成り立ち2』
天正10年(1582年)8月、この世界に魔王と呼ばれる存在が誕生した。
魔王の名は、信長。
歴史にも名高い、あの織田信長である。
欲界の最高所、第六天より魔力を手に入れた信長は、この世に魔法と呼ばれる概念をもたらした。
信長より解き放たれた欲界の魔力は、日本だけに留まらず、世界中に蔓延した。
そしてその魔力によって人々は奇跡とも呼べる手段である魔法を使うことが出来るようになったのである。
人々は魔法により農作物を育て、それまでとは比べ物にならないほどの食料を得た。
そして世界中で飢える心配がなくなり、人々はかつてない幸せを感じていた。
しかし、魔法の概念をもたらした信長の目的は、魔法で世界中の人々の飢えを無くすことではなかった。
魔力の影響を受けた、モンスターと呼ばれる動植物が世界中で発生しだしたのだ。
また、人も魔人と呼ばれるモンスターになっていった。
信長の目的は、そのモンスターを操り、世界中の人間を支配して、徐々に世界を滅ぼすことであった。
そのことに一早く気付き、魔王信長を封印した勇者と呼ばれる存在がいる。
勇者の名は、光秀。
本能寺の変を起こしたことで有名な、あの明智光秀である。
しかし、この世界で明智光秀は本能寺の変を起こしてはいない。
元の世界で本能寺の変が起きた1582年6月2日、この時はまだこの世界の明智光秀は信長に心酔していた。
本能寺の変が起こっていない為、山崎の合戦も起こっていないし、織田家重臣による跡目争いも発生していない。
そのため豊臣秀吉が天下を取る歴史も存在していない。
豊臣秀吉が天下を取っていない為、豊臣家を倒して天下を取った徳川家康の江戸幕府も存在していない。
だから江戸は発展せず、未だ小さな街なのだ。
代わりに、関東では北条家が勢力を伸ばし、北条家の居城がある小田原は発展を続けた。
小田原が首都として巨大な街になったのは、そのためだった。
信長がもたらした魔法は、明智光秀の信長封印後も存在し続け、人々の飢えを救い続けることになった。
反面、その影響で科学の発展は停滞した。
この世界では多くの事を魔法で賄える為、産業革命は起こっていない。
世界中多くの人命を奪った第一次世界大戦も第二次世界大戦も起こっていないが、代わりに未だ封建的な社会となっている。
明治維新も版籍奉還も廃藩置県もなく、未だ大名と呼ばれる存在が土地を治め、土地の奪い合いの戦争が今なお続いている。
1467年に発生した応仁の乱から550年以上、未だに戦国の世が続いている世界なのだ。