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タブーな英雄~ウチの妹がオタクのくせに勇者らしい~  作者: しーなもん
第1章『異なる歴史の二つ世界』
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第6話『異世界初のモンスター』

 焚き火はモンスターを近付かせない効果があるんじゃなかったのか……。

 話が違うとサクヤ様に文句の一つでも言ってやりたいが、それを許さない緊張が走る。

 俺はすぐに逃げれるように、リュックを背負った。


 モンスターは暗闇の中、未だ姿を現してはいない。

 サクヤ様も、モンスターが近付いていることは察知したらしいが、どの方角にいるか分からず周囲を見回していた。


 物音を立てず、辺りを警戒する。

 静かな夜だ。焚き火の中に入れた木の枝が時折『パキッ』と割れる音しかしない。


 街頭のない草原というのは、これほど暗闇だったのか。

 周りは全く見えない……。

 ふと夜空を見上げた。

 元の世界の都会では見ることのできない輝く星たちと月……。

 綺麗なまんまる満月だ。


「月が綺麗ですね」


 そう言った瞬間、サクヤ様に頭を叩かれる。


「痛っ!」


 サクヤ様は囁くように怒った。


「こんな時にふざけんじゃないわよ!」


「すみません」

 

 しかし、本当に月が綺麗だと思う。

 こっちの世界は大気汚染なんかもないだろうし、きっと空が澄んでいるんだろうな。

 しばらく月を眺めていると、月の光を遮る何かの影が、宙にフワフワと浮いていることに気付いた。

 えっ、モンスターって、あれなんじゃ……?

 そう思った瞬間、心臓が飛び出しそうになる。


「サクヤ様、あれ!」


 そう言って指差すと、サクヤ様は即座に月に向かって槍を構えた。


 そしてしばらく月を睨みつけたサクヤ様は、緊張の解けた声を出した。


「あれはもしかして……」


 そう言って、サクヤ様は槍の構えを解く。


「ねえ、ユウキ。あんたスマホ持ってない?」


 はい?

 なぜこんな時にスマホ?


「えっ、いや、持ってますけど?」


「ライト点けてあいつ照らしてみてよ」


 あっ、なるほどな。

 この世界では通信や電話は使えないからスマホを使うっていう発想がなかった。

 そうだ。

 スマホにライト機能あるじゃん。


 俺はスマホをポケットから取り出し、ライトを点けて空を照らした。

 すぐさま、空に浮かんでいた奴が正体を現す。


「えっ、傘?」


 空には、傘が一本フワフワと浮いていた。

 ただよく見ると、傘の柄の部分が立派な一本の足になっている。


「あれは、からかさ小僧だわ」


「からかさ小僧?」


「かなり低級のモンスターよ。はっきり言って弱いわ。多分あんたでも素手で倒せるレベルのモンスターよ」


 えっ、なんだそれ。

 俺が素手で倒せるって、めちゃくちゃ弱いじゃないか。

 なんだ、緊張して損した。


 サクヤ様は続けた。


「ただね、厄介なのは、あいつが現れると、次の日その辺一帯は雨になることが多いのよ。傘買うの忘れてたし……」


 明日は箱根越えだと言っていた。

 雨の中傘も差さず山道を歩いて行くなんて、苦行の何物でもない。

 傘ならあそこに飛んでるんだけどな……。


「あいつを倒して、傘代わりに出来ないですかね?」


 半分冗談だ。

 あいつの立派な足を持って傘を差すなんてこと、本気で出来るとは思っていない。


「あいつは生地の部分をビリビリに破かないと倒せないのよ。そうすると傘として使えなくなるのよね……」


 ビリビリに破れた傘……。

 まぁ、無いよりはマシなんだろうけど。


「あれってモンスターなんですか?なんか日本の妖怪であんな奴いませんでしたっけ?」


「言い方が違うだけでモンスターも妖怪も一緒よ。ここが神社だったら私がお祓いして、あいつをただの傘に戻すことができるんだけど……」


 そう言い終わるやいなや、突然閃いたようにサクヤ様は続けた。


「ユウキ、あいつに今日覚えた魔法を使ってみて!」


「えっ、魔力を奪う魔法ですか?」


「そうよ!」


 何やら分からないが、サクヤ様の指示どおり、宙に浮いているからかさ小僧に魔法を使ってみる。

 辺りは暗闇のため黒いモヤは見えなかったが、何かが俺の体に入ってきたような感覚はあった。


「けどサクヤ様、これに何の効果が……」


 そう質問した次の瞬間、宙に浮いていたからかさ小僧は横向きに地上に落下し、パスッと軽い音を立てた。


「モンスターは魔力がゼロになると、元の姿に戻るのよ。あんたがからかさ小僧の魔力を全部吸い取ると、からかさ小僧は元のただの傘に戻るってわけ」


 そう言って槍を置き、からかさ小僧に近付いてそれを拾い上げた。

 さっきまで立派な足が生えていた部分は、ただの棒に変化している。

 確かに、ただの傘のようだ。


「それ、大丈夫なんですか?」


 そう聞くと、サクヤ様は傘を広げた。


「ええ、穴も空いてないし、問題ないわ」


 いや、聞きたかったのは傘として使えるかどうかではない。

 モンスターとして突然襲ってこないかを聞いたのだが……。

 機嫌良さそうに傘をチェックしているサクヤ様を見て、モンスターに戻って襲ってくることはないのだと察した。


 モンスターは魔力がなくなると元の姿に戻る──か。


「サクヤ様、俺の魔法ってもしかして、対モンスター戦だとかなり有効な攻撃魔法なんじゃないですか?」


 サクヤ様は、傘をチェックしながら平然と返事する。


「そんなことないわ。あんたの魔法が攻撃として有効なのは、からかさ小僧みたいな魔力が低い弱小モンスターだけよ。ちょっとでも魔力の強いモンスターに使ったら、あんたの魔力許容なんてすぐに越えて魔人になってしまうんだから」


 からかさ小僧は俺でも素手で倒せるとサクヤ様は言っていた。

 そんな、素手で倒せるようなモンスターだけしか有効じゃないなんて……。


「やっぱ、使えねー魔法だな……」


 そう呟き、座り込んで先ほどサクヤ様から渡されたパンを噛った。

 味は何もしない。

 口の中の水分を一気にもっていく、ただ空腹を満たすだけのパサパサで固いパンだ。

 竹の水筒を口に当て、水でパンを流し込む。


「まっ、どーでもいいか」


 どうせもうすぐオサラバする世界だ。

 元の世界に帰ったら魔法なんて使えないだろうし、そんなもので気を落とすのもバカらしい。


 パンを食べ終えた俺は、仰向けに寝転がり夜空を眺めていたが、いつしか眠りについていた。

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