第4話『著作権のルール』
武器屋に行き、槍を購入する。
俺は剣が欲しかったが、サクヤ様いわく、野盗に襲われないようにするには、剣よりも武器として目立つ槍を持つ方が効果があるらしい。
小学生の頃に剣道を習っていたけど、本物の剣を持ったことなんて勿論ない。
どのみち剣だろうが槍だろうが、まともに扱い方なんて分からない。
ここは素直にサクヤ様に従い、ビジュアル面で効果があるという槍を持つことにした。
余ったお金でリュックと食料3日分を購入し、町を出発する。
日は高くなっていた。
一泊して、明日の朝から出発する方がいいのだろうが、サクヤ様はすぐにでも元の世界に帰りたいらしい。
俺もそこに異論はないので、すぐ出発することとなった。
「そういえばサクヤ様」
緑が生い茂る草原に出来た1本の街道を歩きながら話す。
リュックと槍が重いが、いい天気で風が気持ちいい。
「何?」と返事され、俺は続けた。
「ギターを売った時、サクヤ様はバッハのG線上のアリアを弾きましたよね?」
「ええ」
「俺、著作権のタブーがあるのに、なぜG線上のアリアを聞いても胸が痛くならないんでしょう? 今もG線上のアリアって言えてますし」
「ああ、それはね、著作権は作者の死後70年までしか有効じゃないからよ。だから1750年に死んだバッハの曲は、あんたが聞いても問題ないわ」
「えっ、その著作権って、神様じゃなくて人間が決めたことですよね?著作権法っていう国の法律ですよね?」
日本では、著作権の保護期間は作者死後70年と著作権法で定められている。
「違うわよ。死後70年っていうのは、神が決めたことよ」
「はい?」
首を傾げる俺を見て、サクヤ様は腕を組み自慢気に言った。
「神が昔に決めたことよ。昔の日本では著作権の保護期間が50年だったんだけど、神の法に合わせて70年に直したのよ。神の法が元々70年だったからね。その神の法に人間が合わせてきてるの」
サクヤ様は何かを思いついたようで、イタズラっぽく笑った。嫌な予感しかしない。
「江戸川乱歩、怪人二十面相」
サクヤ様がそう言った瞬間、突如に俺の胸に激痛が走った。
「ぐわああ!」
サクヤ様は微笑しながら言う。
「ほら、禁忌が発動したでしょ? 江戸川乱歩は1965年に亡くなってるから、神の法ではまだ70年経ってないの。でも、江戸川乱歩の著作権保護期間は日本の著作権法が神の法に合わせる前、2015年に終了しているのよ。日本の法では著作権法に触れない作品名でも、あんたの禁忌は発動したでしょ?」
胸が痛すぎて、あまり話が頭に入ってこない。
「つまり、それはどういう……?」
「つまりね、あんたの禁忌は、神の法で発動するの。決して人間が決めた著作権法で発動してる訳じゃないのよ」
それが言いたかったのかよ!
こんな激痛を味わう必要、今あったか?
「は、はい、分かりました。著作権法は、神様が決めたんですね。決して国が、人間が決めたものではないと……」
「そういうことよ」
サクヤ様は満足気だ。
「ちなみに、現存する企業名、店名、商品名なんかでも、神の法の下あんたの禁忌は発動するわよ。例えば、海岸にある消波ブロックは一般的に呼ばれているものが商標名だから、名前を言えば胸が痛くなるわよ」
俺はサクヤ様を抑止する。
「分かりました! もう分かりました!」
もうこの話は終わりにしよう。身が持たない。
サクヤ様は「あら、そう」と少し残念そうに言った。
この女神様はドSだな、間違いない。