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第一章 出会いの輪

この作品はボーイズラブを主体としています。


ボーイズラブに理解のない方の閲覧はおやめください。

主な登場人物関係


ランマ15歳186㎝75㎏(攻め)×テンシ15歳158㎝45㎏(受け)


カケル15歳191㎝85㎏(攻め・心は受け)×ワタル15歳162㎝62㎏(受け・心は攻め)


ススム22歳182㎝71㎏(攻め)×アユム15歳160㎝47㎏(受け)


ハジメ15歳175㎝68㎏(攻め)×ツクモ22歳170㎝59㎏(リバ)×モモ15歳165㎝52㎏(受け)


ランマ⇔カケル(幼馴染)

テンシ⇔アユム(異母兄弟)

ワタル⇔アユム(師弟)

ススム⇔ツクモ(元恋人)

ランマ⇔カケル⇔ハジメ(スポーツ科クラスメイト)

テンシ⇔ワタル⇔アユム⇔モモ(普通科クラスメイト)



《天真爛漫》


【桜の園】


桜の舞い散るうららかな日に僕は公園でお弁当を食べていた。

公園では、春休みを満喫するかのような子供たちのはしゃぎ声や笑い声が絶えなかった。

それを横目で見ながら自分で作ったお弁当を食べていた。

なぜ、自分の作ったお弁当を食べていたのかというと、僕にはお弁当を作ってくれる家族がいない。


それは、今僕が15歳で、さかのぼること十五年前の僕が生まれたときの出来事。

父親は不倫をしていたらしい。相手が身ごもっていると分かると、産まれたばかりの僕たち親子を捨てて、相手のもとへと去っていった。

ひどく狼狽したであろう母親は、僕に何不自由ない暮らしをしてあげたいとの一心で、昼夜を問わず働きに出て行った。家の中では優しいお母さんだが、僕を保育所に預けるとなれない工事現場で汗水流し、夕方に僕が帰ってくると見たくもない母の派手な姿で水商売へ姿を替える。幼心には、水商売はどんな仕事だが知らなかったが、あまり見たくない姿だった。

生活はごくごく普通だが、母親のケータイにはひっきりなしで電話がかかってきた。

そのたびに母親の口調や話し声のトーンが上がる。

ものごごろがついたころには、それが「女」として生きていく糧だと思うと、嫌悪感すら覚えた。

そんな母が、肉体労働と酒とで不摂生がつのり、僕の中学生の卒業を待たずして、2年前に亡くなった。

それでも僕は生活に困ることはなかった。

いつの間に書いたのだろうか、遺言書には莫大な金額が貯金通帳にしるされてあった。

そのころから僕は、自分の居場所がなかった。


そんなことを考えながら、暖かい陽だまりの中で、うたた寝をしてしまった。

そのとき、突風みたいなものが僕の頭をかすった。

かまいたちにでもあったような錯覚に陥って、あわてて頭を触った。

血が出てないしけがしているようでもない。

驚いた僕は、目をぱちくりさせた。

何がおきているのか分からず、呆然としていた。

すると、

「わりーな。紙飛行機のコントロールをしくじってしまった。」

見覚えのない男の人がそこに立っていた。

僕は極度の人見知りだから目を合わせることが出来ずうなずいて

「だっ…だいじょうぶです。びっくりしただけですから。」

すると男の人が、

「おいしそうなお弁当を食べているな。一つ食べてもいいか。」

と、返事を待たず卵焼きをつまんで一口で食べてしまった


「俺、五十嵐爽馬いがらしそうま、よろしく。」

聞いてもいないのに自己紹介をする。

僕も自己紹介をせざるを得なくなって、

「あのー、僕は、天川詩あまのがわうたっていいます。よろしくお願いします。


それからいろんな話をした。

年齢は僕と同じ十五歳だった。高校二、三年生くらいに見える大人びた風貌で僕はてっきり年上だと思っていた。

僕が子供っぽいのかな。いつまでたっても「ぼくちゃん」呼ばわりされる。

あだなは、五十嵐爽馬を略して『ランマ(嵐馬)』…暴れ馬みたいでかっこいい。

僕は、天川詩を略して『テンシ(天詩)』…エンジェルでなんか恥ずかしい。

こんな話をしていると、とても親近感がわいてしまった。

これがいわゆる〈出会い〉だった。


春休みが明け、待ちに待った高校の入学式を迎えた。

大和ノ杜桜ヶやまとのもりさくらがおか学園という、男子学校だ。

門をくぐって、真っ先に声をかけてくれたのは、ランマだった。

「いやー、同じ高校とは思わなかったよ。」

早速の知り合いに出会えてうれしい。

「掲示板にクラス割が張ってあるから見に行こうよ。」

結果は、なんと同じクラス…と言いたい所だったが、志望している学科が違ったのだ。

僕は、大学進学を目的とした「普通科」。

ランマは、スポーツ強化を目的にした「スポーツ科」。

この学校の目玉のコースだ。

「ランマ、スポーツ科って特待生しか入れないんだよね。すごいね。」

「テンシこそ、ここの普通科は偏差値高いって有名だから、すごいな。」

こうして、楽しい高校生活が始まると思っていたのだが…


早速の委員会の選出で、僕はこともあろうかはずれくじを引いてしまった。

ランマに話したくて、スポーツ科をのぞいた。

そこには、ランマと同じような大人びた学生がたくさんいた。

と、ランマが出てきた。

「ここは、かわいい男の子が来る場所じゃないよ。飢えた獣の集まりだから、テンシなんかすぐに食べられちゃうぞ。」

かわいいって言われて、僕は赤面してしまった。

と、

「テンシ、今日は話があるから、放課後一緒に帰ろう。」


食べられる…

中学生になりかけたころ、母親に会いに来た年配のおじさんが、部屋の中に上がってきて僕にいたずらしたことを思い出した。自分で処理することも知らない僕におじさんは、恥ずかしいことをしてきて、僕はおじさんの手の中で果てた。

母親が帰ってくると同時に、勝手口から出ていってしまった。

その快感が忘れられずに、それとなしにおじさんの事を聞いてみたが、会うことは二度とはなかった。母親の「女」としての嫌悪感とあいまって、僕が、男の人でもいいと思った一件だった。


ふと、

「テンシ、なに赤くなっているんだ。」

「べっ…別になんでもないよ。」

「そうかー、食われてみたいんだな」

「ランマのいじわる。」

僕は、恥ずかしくなってその場から走り出してしまった。


正直一緒に帰るのが恥ずかしかった。

並んだ二人の身長は三十センチくらい差がある。

僕が158センチ。チビだの幼いだのといわれる所以がここにある。

ランマが186センチ。スマートなのに筋肉質でかっこいい。

話すときは、首を伸ばして顔を上げて話すから首が疲れる。

それを体をかがめて、聞いてくれる。


ランマから話を切り出した。

「お昼休みはごめんな。つい調子に乗りすぎてさ。」

「そんなことないよ、僕こそごめん。今日最悪なことがあってさ。一年生の生徒会委員役員選出で委員長になっちゃったんだ。」

くじ引きというか、勝手に担任から推薦されてほかにも推薦者がいて、立候補がいないから、二人でくじ引きして見事当選というわけだ。

「それは災難だったな。俺は、内申点を上げたいから立候補した。通例の慣わしで、学校行事の体育祭はスポーツ科の委員長が体育祭では指揮を執る、文化祭では普通科の委員長が指揮を執ることになり、学校をあげた高校生活三年間の集大成の催しの『ヤマトサクラ祭』は二人で、執り行うことになっているんだ。」

「そうなんだ。ランマは偉いね、立候補なんて。僕に務まるのかな。」


でもそれは、担任に推薦したランマのこれから始まる甘い罠だと知る由もない…


「話ってなに。」

「もうすぐ家に着きそうだから、また後でな。」

不意に、気づいているのか、気づいていないのか、あの日投げたような紙飛行機を落としていった。

おもむろに開くと、

『Dearテンシ

両想いになれますように。

Fromランマ』

ランマらしい単刀直入の手紙だなと思いながらも、直接言えない繊細さも持ち合わせているランマを愛おしく思った。


次の日、朝取り乱しているランマの姿があった。

「どうしてそんなにあわてているの。」 

「胸ポケットに入れておいた大事なお守りがないんだよ。」

「そんな大切なもの胸ポケットに入れておくからだよ。」

僕は、内心あの手紙ではないかとどきどきしていた。

「読まれたら、どうしよう。」

しかたなく、僕は昨日のあの手紙をランマに渡した。

「テンシ、これ読んだのか。」

「こんな短い文章は見ただけで読めちゃうよ。」

ランマがカァーと赤くなった。

つづけて、

「これは公園で僕に当たった紙飛行機だよね。桜の花びらが一枚紛れ込んでいたよ。」

「これは大事なお守りなんだ。」

あの長身のランマが、子供みたいに見えた。

「俺ヘンタイなのかな。テンシを一目見たときに、俺に本当の天使が舞い降りたと思ったんだ。こんな気持ちは初めてなんだ。いつも部活に明け暮れて、恋とかそんなもの幻想だと思っていたんだ。」

「ヘンタイなんかじゃないよ。まっすぐででもドジで不器用なランマのこと、僕は愛おしく思っているよ。」

そんなこんなで、ランマのかわいいドジから端を発し、スピード告白になったわけだが、付き合うことになった。


出会って一ヶ月で付き合うことになったわけだが、そもそも付き合ったことのない僕は、どうしていいかわからなかった。


クラスメイトとはなかなか馴染めにくかったが、初めて話をされた。

「天川君は恋をしているの?」

僕はびっくりして、相手の顔のぞいた。

言った相手は、七海渉ななみわたる

「どうしてさー。」

「顔に書いてあるよ。恋愛真最中だって。うちだったら、天川君をほっとかないんだけどね。かわいい顔しているし、女の子みたいだよ。」

「冗談はよしてよ。」

「うちは本気なんだけどな。」

「僕は男には興味はないんだ。」

「またまた、いつも五十嵐君と帰っているじゃん。」

僕は耳まで赤くなってしまった。

「じゃあ、当たりだね。」

何も言えないでいると、

「実は僕もスポーツ科に付き合っている人がいるんだ。大空翔おおぞらかける。」

その名前聞いたことあるな。確か、ランマの幼馴染で、同じ陸上競技のライバルでなんだ。


と、そんなことで、四人は仲良くなった。


とあるファミレスでの一コマ。

四人でご飯を食べるのは初めてで、ダブルデートとあいまって、僕は少し緊張していた。

僕から口を開く。

「二人はなんて呼び合っているの。」

「普通に大空君はかっち。僕は、わっち。」

と、七海が答えた。

さすがにスポーツ科。かっちは、190センチを越えていて筋肉隆々だった。

ワタルは、僕より身長が少し高く、160センチは越えてぽっちゃり。

と、不意にランマが、

「浮気は絶対に許さないからな。」

ほかの三人は爆笑してしまった。


でも現実のことになるとは…


夜遅く、僕の家を訪ねてきたのは、カケルだった。

開口一番、

「わし、テンシのことが気に入ってしもうた。」

僕は驚きと、同時に焦ってしまった。

何も答えられないでいると、ぎゅっと抱きしめられた。

ランマにも抱きしめてもらったことないのに、むしずが走った。

「やめてよ。どうしてなの。わっちがいるじゃない。」

急なことで大泣きをしてしまった。

その泣き声を察知したのであろう、ランマが駆けつけてくれた。

「俺のものに手を出すな。翔。」

二人は、殴り合いのけんかになってしまった。

「このことは、渉には内緒にしてやるから、今日はとっとと帰れ。」

ランマは言った。

かっちは、しぶしぶその場を離れた。

僕はさっきの恐怖で、ランマにしがみついて、声を上げて泣いた。

「すごく怖かったよ。ランマが来てくれなかったら、どうなっていたか怖くて怖くて。」

ランマは、優しく頭をなでて、耳元で甘い優しい声でささやいた。

「テンシは俺のものだ。絶対に誰にも渡したりなんかしない。テンシは、一人ぼっちなんかじゃないよ。家に帰ると一人ぼっちだから、俺は心配なんだ。俺と一緒に住もう。」


僕は、その言葉に甘えてみることにした。


次の日の放課後、ランマの家へ招待された。

大きな屋敷といったほうがふさわしいほど、広い。

ランマの話だと、両親は海外赴任でここ1年帰ってないらしい。

兄弟は、三つ年下の妹が一人いるという。今は、寮住まいとのこと。

「ランマは一人で暮らしているの。」

「えーと、お手伝いさんが二人いるよ。といっても、俺の監視係だけどな。」

「ランマの家族はお金持ちなんだね。」

「そうでもないけど、テンシなんか俺のことで引いたか。」

「そんなことないよ。ランマの家を覗けただけでも、うれしいよ。」

そんな話をしていると、お手伝いさんがお茶を出してくれた。

「坊ちゃんとゆっくりなさってくださいね。」

「フミさん、今は俺のこと坊ちゃんって呼ぶのはよしてくれよ。」

子供みたいに甘えるしぐさが、キュンとくる。

「詩様、爽馬坊ちゃんからいろいろ話を伺っていますよ。」

フミさんは、人当たりがよさそうなコロコロしている笑みを浮かべている。

そしてもう一人、紳士が顔を出した。

「あなた様があの爽馬様のお友達の詩様ですか。私は、ススムと申します。やはり、かわいらしいお方だ。」

「もう二人とも出て行ってくれよー。テンシと話が出来ないじゃないか。」

フミさんとススムは二人して、

「お邪魔みたいで、申し訳ありませんね。」

笑いながら、部屋を後にした。

「あの二人は、過保護なんだよ。両親が海外赴任でさびしいだろと思い込んで、とあることに干渉に来る。」

「それだけ大事にされている証拠だよ。」

ランマははっとした。

それに気づいた僕は、

「僕は、ランマがいるから大丈夫だよ。」

「テンシったら。」

ギューって抱きしめられた。


「テンシの部屋は、ここにしよう。」

案内されたのは、南向きの窓からやさしい春の光が差し込む、二十畳もある板の間。

ここだったらどうだ。

申し分のないくらい広い部屋。

「ここは、親父が書斎で使っていた部屋だから、特等席だよ。」

「こんな部屋もったいないんじゃないの。」

「なに親父は、当分帰ってきやしないさ。」

「ランマの部屋はどこ。」

「それが、すぐ隣の部屋だよ。」

案内されて入ってみると、とにかく広い。

インテリアも凝っていて、開かずの扉がある。

「ここには何が入っているの。」

ランマが急にあわてて、

「何も入っていないよ。」

その様子ですぐ分かる。僕には、見せたくないものがあるんだなと。あまり追求すると悪いと思ったので、話題を変える。

「今日の夕食は、僕が作るから、フミさんとススムさんは羽を伸ばしてきていいよって伝えてきて。」

「早速彼氏の手料理が食べられるんだな。楽しみだな。」

ランマはうれしそう。


まさか、出会って一ヶ月でこんなことになるとは思ってもなかった。


ところで、七海渉と大空翔はどうなったのか。

あの日の一件は、ランマの計らいで、表沙汰にならなかった。

相変わらずの、渉の一方的な甘えたで、翔と楽しい時間をすごしていたようだ。

ワタルも馬鹿じゃないから、翔の浮気癖を見破っていたようだった。

「詩に手を出してないよね。うちは許さないよ。」

「だっ…だしてないよ。」

「出したらどうなるか分かっているよね。」

釘を刺されているようだ。

このカップルは、ワタルがリードしているようだ。

長身のカケルが小さいこと小さいこと。

過去にも同じようなことがあって、結局はワタルが乗り込んで翔を取り戻したようだ。

この話はまた後でとのことで…。


僕とランマの同棲生活が始まった。

学校へ行くときは、テンシが先に家を出て、その後ランマが出て、家から100メートル先の公園で落ち合って、一緒に登校することになった。

とりあえず、学校の仲間に対するカモフラージュだ。


するとかっちとわっちのカップルに出くわした。

「今日は、大和桜学園サクラ姫の選出の日だよね。」

と、ワタル。

「毎年、かわいいと評判の普通科の少年を女装させて、それを投票することになっているんだよね。」

と、カケル。

「そういえば、スポーツ科からもヤマト神の選出も行われるんだ。」

と、ランマ。

「カッチは、うちだけ見てればいいんだからね。」

釘を刺しておくことも忘れない、さすがワタル。

「このサクラ姫とヤマト神は、大和桜学園のシンボルになるんだよね。」

と、僕が答えた。


門をくぐると、派手な張り紙が貼ってあった。

ノミネートされた、サクラ姫のプロフィールだ。

と、僕は足を止めて見入ってしまった。

僕の写真が貼ってある。なぜ、どうして。

きょとんとしている僕にランマはこう告げた。

「あのさ、サクラ姫は1年生の委員長も否応なしにノミネートされるんだ。」

「じゃあ、ヤマト神も1年生の委員長がノミネートされるの。」

「もちろんそうだよ。」

ランマが嬉しそう。

なんか、策略にはまった感じがしていた。

僕のキャッチコピーは、『幼心の舞い降りた天使』。

ものすごく恥ずかしくなった。

話題を変えようと、ヤマト神候補生のプロフィールを見に行った。

ランマのキャッチコピーは、『嵐の中から現れた暴れ馬』。

ランマは自慢げにこう続けた。

「まあ、俺たち二人で決まりだと思うんだけどな。」


早速学園を上げた、投票が行われた。

エントリーNo.1から始まって、僕は一番最後。

10名からの選出になるわけだ。

姉妹校の桃源郷撫子とうげんきょうなでしこ女子学園から応援が来ていた。

この学園もモモ王と、ナデシコ女神を決めているらしい。

だけど、男女交際は一切禁止されている。

二人のオーラは凄まじかった。

美少年としても通じるほど端正で美しいモモ王と、まさに清らかな清楚な感じのナデシコ女神は、周りを圧感させていた。

この二人が、決めた人が必然的に決まるらしい。

僕の女装の支度がなされた。

初めて化粧をほどこされた顔を鏡で見るのは恥ずかしかった。

そして、着物の着付け。と言っても、ひざ下がバッサリ着られた着物を着させられた。

男が気に入る格好だなと思いながら、自分が心も女の子になってしまったかと思うと

顔から火が出るほど恥ずかしかった。

と、またナイスタイミングでランマが現れる。

「顔も真っ赤になったテンシ、すごくかわいいよ。」

ランマの格好はというと、胸がはだけた麻の衣装という出で立ちで、原始人みたいな猛々しさがあって、つい見とれてしまった。

「テンシ。俺に惚れ直したか。」

「違うよ。みんないるんだから、あまりイチャイチャしないでよ。」

こんな光景をモモ王とナデシコ女神に見られていたとは。


結果は思ったとおりだった。

モモ王の相手、サクラ姫には僕。

ナデシコ女神の相手、ヤマト神にはランマ。

ツーショットのお披露目が、大和桜学園と(略称)桃撫子女学園とで行われた。

車の中での話。

「詩さんは、本当にかわいいですね。でも気づかないうちに周りを誘惑している可能性があるから、気をつけないとね。ナデシコみたいに。」

と、モモ王の貫禄。

すると、ナデシコ女神は顔を赤く染める。

「モモったら、何をおっしゃるの。爽馬さんに怒られてしまいますよ。」

この二人は付き合っているなと直感した。

ランマが気まずく、

「お二人さんは、ずいぶん仲がおよろしいんですね。」

僕は聞き慣れない、上品ぶっている口調に笑いが隠せなかった。


相容れない相手だと思っていたが、同じ境遇で同性と付き合っている仲間としては親近感がわいた。

あとから聞いた話だが、ワタルとカケルがモモ王とナデシコ女神に相当売り込んでいたらしい。


次の日は、まだ昨日の余韻が残っていた。

しかし、目を向けるところ、僕とランマのポスターばかりでなんか気まずい。

「よお、サクラ姫様にヤマト神様。」

ワタルが元気よく声をかける。

そして、サクラ姫ファンクラブなるものがすでに出来ていた。

会長がなんと、カケル。

「こんなことして、ワタルが怒らないの。」

小声で、会長さんに話をかける。

「なに、気にしなくてもいいんだ。副会長が、わっちだからな。」

ランマがあきれて物が言えない様子。

「何をたくらんでるのか、あいつらは。」

僕のプロマイドが売られていた。

こうして、僕のなかった居場所は、広がりを見せていた。

と言っても、ランマは気が気じゃなかったようだが。続く…


【かける世間に鬼わたる】


これは、先ほど紹介した七海渉と大空翔の壮絶な出来事。

これまでして、主従関係がどうして出来上がったのか。

ワタルの両親が経営していたセブンオーシャンズ(七海)・コンサルタントにカッチの両親が経営していたビッグスカイ(大空)・グループが吸収合併された時の話。

ビッグスカイ・グループ(BSG)は、不況の荒波を受けて経営不振に陥ったのだ。

当時は、破産宣告を受け入れなければならないほど、衰退しきったBSGをセブンオーシャンズ・コンサルタント(SOC)に経営を助言し経営を持ち直したことがきっかけだった。


まあ、難しいことはさておき、当時小学生だった二人は、同じ屋根の下で暮らすことになった。

まず目をつけたのは、ワタル。

初めて兄ができたという喜びから、カケルにイタズラをしようと考えていたのだ。

陸上部でつかれたカッチの布団に体を滑り込ませた。

そして、寝ていることをいいことに、カケルにいろいろ悪さをしたのだ。

不快感を覚え、目を覚ましたカケルは、大声を上げたいところだったが、雇われている親の手前何も言い出せずに、声を殺して耐えていた。

そんなことが度々繰り返したある朝、早熟だったカケルは初めて体の芯がうずく快感を得て、初めて放出してしまった。

なんと気持ちのいいこと。

カッチは、その快感に目覚めてからというもの、ワタルを素直に受け入れるようになった。

そんな関係がずっと続いてしまった。

親が放っておくわけもない。

いつも一緒に寝ている、ワタルとカケルの関係を薄々気づいていたのである。

そして、わが子はかわいいのでワタルはお咎めなし。

こともあろうか、カケルを島流しにさせた。

行き着いた先は、中学生全寮制の星宮スポーツスクール。

そこにいたのは、ランマだった。

持ち前の体力を活かして、大和桜学園の特待生になるわけだが、そこまでの道のりが険しかった。

規律が厳しい上に、みんなイカツイ。

カッチは、欲望を抑制させるのに必死だった。

あくまでも対象は、かわいい男の子。

自由になる休みを利用して、銭湯やら市民プールに足繁なく通った。

そこで知り合ったのが、五陸歩ごりくあゆむだった。

華奢な体つきは、少年の美しさをたたえているようでカッチは息を飲んだ。

話を聞くと、BSGの孫会社のファイブコンチネンタル(五大陸)・サービスの子だった。

ファイブコンチネンタル・サービス(FCS)とは、BSGが拾い上げたアユムの両親と祖父母が経営をする零細企業の一つだった。

アユムの荒廃しきった家に無理やり押入り、事実無根の嘘の融資話を持ちかけ、今は、全く関係のない立場だったが、これともなしに嘘をついて、自分のペットにすることに成功したのだ。

それからというもの、陸上部を無断で休み、ことあるごとに日中はアユムが一人になることをいいことに、上がり込んであられもないことをした。

アユムは、自分の親の会社の経営を一人で守ろうとしていたので、逆らうことができない。


半年が過ぎようとしたある日、ワタルはたまたま廃墟から出てくるカッチの姿を見た。

仲良さそうに話している、カケルとアユムの姿を見てワタルは不信感をいだき尾行した。

というのも、テスト休みで開いている時間を利用して、カケルが学校を度々無断で休んでいる理由を調べに、偵察に来ていたのだ。

さすが、コンサルタント会社の子。偵察はお手の物だった。

二人で銭湯に行って、仲睦まじく背中を流している光景は、ワタルを激情させた。

昼下がりだったため、お客はおじいさん二人とカケルとアユムだけ。

浴室から、カケルを脱衣所に引きずり出した。

体格が良いカケルを引きずりだすなんて、相当な火事場の馬鹿力があると周りは思ったのかもしれない。

ワタルも場をわきまえている。

ワタルのSOCの取調室って言っていいのか、そこで尋問が繰り広げられた。

アユムから出るは出るはの嘘の塊を静かにワタルは聞いていた。

こんな結果になってしまったのは、自分の責任があるとワタルは反省した。

そこで、もうアユムとは会わないでワタルだけを見るという約束…半ば強制じみた誓約書を書かせた。

哀れに思ったアユムには、FCSの為に寄付金を親にお願いして出してもらい、SOC傘下に入ることになった。

そして、新たにセブンオーシャンズ・コンサルタントはビッグスカイ・グループとファイブコンチネンタル・サービスを傘下に入れ、セブンオーシャンズ・ホールディングズ(SOHDソード)が誕生したのである。

まさに、ここにワタルとカケルの主従関係が生まれたのだ。


【歩みの詩】


春のうららかな陽気は過ぎ、新緑が美しい薫風漂う5月に入っていった。

今日は、珍しく、転校生がくる日だ。

「転校生か。早く馴染めるといいね。」

僕はランマと話していた。

門には、ワタルの高級車が止まっていた。

「なんかあの子、サクラ姫によく似ていない。」

クラスメイトたちがざわめきだす。

「そんなことあるわけ無いじゃん。」

ランマは、遠目から転校生を眺めていた。

すると、ランマの顔色が変わった。

「テンシに似ているよ。」

僕は、近づいてくる人影を目を凝らして見ていた。

本当に若干は違うが二卵生双生児みたいに似ている。

僕は驚いた。

だって、僕には、今まで兄弟なんていた試しが無い。

他人の空似と決めつけるのは早いが、そうでもないような気がする。

昔の母親の言葉が蘇る。

「あなたには、腹違いの兄弟がいるのよ。」

ランマも釘付けだった。

と、その子は、僕の前に来て

「お兄さん会えて嬉しいです。私は、五陸歩ごりくあゆむといいます。」

僕は驚いて息を飲んだ。

急なことで言葉をなくしていると、

天川詩あまがわうたさんですよね。早く会いたかった。」

ワタルとカケルも駆けつけて、僕とアユムの顔をしげしげと見比べている。

「だから言ったでしょ。テンシはアユムにそっくりだから、カッチが心配だったんだ。」

カッチというと言うのを窮している様子。

訳がわからないと言った感じで、ランマが

「本当に兄弟なのか。背格好も一緒だし、顔がそっくりだよ。」

すると、

「ワタルさんこの前はどうもありがとうございました。おかげで、僕の会社はなんとか持ち直しました。それにカケルさん、いろいろとご心配をかけてもうしわけありませんでした。」

アユムは、ひょうひょうと言う。

なんか気まずい様子だな。

ランマは気をかけて、口をはさむ。

「まあ、仲間が増えることはいいことじゃないか、テンシ。」

僕は氷漬けにされた気持ちだった。

「なにか困った事があったら、何でも言ってよね。うちには、アユムに貸しがあるわけだから。」

ワタルが言う。

カケルは無言のまま、とても驚きが隠せない。

そんなやりとりをしていると始業のベルが鳴った。


クラスは普通科の僕のクラスだった。

担任は、今日から新しいクラスメイトが入ってくるからみんな静かに自己紹介を聞くようにと促す。

「五陸歩です。アユムって呼んでください。親の会社の業績悪化でなかなか入学式に間に合いませんでしたけど、今日から大和桜学園でみんなの仲間には入れてとても嬉しいです。これも、ワタルさんのおかげです。」

無難な自己紹介を淡々とこなしていく。

ここでも、テンシとよく似ていることが話題となった。

僕はあまり良く思わなかった。

今さら兄さんだなんて、やめてほしいと思った。

ランマはどう思っているのだろう。せっかくつかんだ幸せをアユムのせいで台無しにしたくない。


そしてこのアユムは周りに媚を売ること媚を売ること。

ことあるごとにスポーツ科に顔を出した。

確かに、苦労してきた僕とは違って、守られているというオーラが凄い。

スポーツ科が剣道をしていると、ひょっこり顔を出して、声援を送る。

「皆さん、いい汗をかきましたね。キラキラ輝いていますよ。私が作ってきたサンドイッチを食べませんか。」

水筒からは氷がぎっしりと入った、ひんやり冷えたスポーツドリンクがまかなわれた。

そんなことをするから、瞬く間にアユム親衛隊なるものができた。

ランマは、そんな光景を遠くから眺めているだけだったが。


そして、ランマに近づく日が訪れた。

「爽馬さんは、いつ見ても自分を向上させようと筋トレを欠かさないんですね。なんかカッコいいと思います。」

ランマは、

「ありがとう。でも、テンシに恨みがあるのなら、ただじゃ済まさないぞ。」

アユムは笑ってあっさりこう答えた。

「ウタ兄さんには、敵視なんかしていませんよ。ただ、爽馬さんのような人には憧れちゃうなって思っただけです。気分を害されたらごめんなさい。私は、これでお暇させていただきます。」

ランマの気持ちが微かに動いたのは言うまでもない。


帰りの道で、アユムの話でもちきりだった。

「テンシは、あんな弟さんがいて幸せだな。」

「ランマ、アユムのことが少し気になっているんじゃないの。」

「そっ…そんなことないよ。俺は、テンシ一筋だからな。」

「僕はアユムを弟と認めたわけじゃないからね。」

僕は、気分が悪かった。

家に帰ったものの、僕はすぐに自分の部屋に入って閉じこもって、それっきりランマと話さなかった。

部屋の扉には、ごめんなのランマの声が響く。

僕はとても複雑だった。

母と僕を捨てた父親のもとでぬくぬく育ったアユムが、許せなかった。


アユムは、ワタルの屋敷で空を眺めていた。

「私、爽馬さんのことが好きになってしまったみたい。」

ワタルはすかさず、

「前みたいな過ちだけは起こさないでくれよ。前みたいにうちにも対処しきれなくなるから。」

カケルに犯された影響で、アユムは筋肉質で優しい男の人に抱かれたいと妄想をふくらませていた。

そんなアユムを不憫に思ったわっちは、ある人を紹介することにした。


次の日は、日曜日。

早速ワタルはある男の家にアユムを連れて行った。

ランマの世話係のススムの家だ。

ススムは、ソードから派遣された、ランマの叔父さんだ。

このことはランマはもちもん、ランマの父親も知らない。

ランマのお父さんと年が離れていて、やっと二十歳を越えたばかりだった。

なぜなら、ランマのお祖父さんの隠し子だからだ。

こういう趣味を持っていることを知っているのは、情報通のワッチしかいない。

「こんにちは、ワタルです。ススムさんいますか。」

「やあ、こんな早い時間になんのようかね。」

「実は紹介したい人がいまして。」

そこには、ランマを少し大人っぽくしたような青年が立っていたのだ。

アユムは、心臓が止まりそうだった。

「アユムって言いますよろしく願います。」

「詩さんにそっくりな人を連れてきました。」

前に、ワタルにゲンさんがテンシのことが気になると相談を受けたらしい。

ゲンさんは、優しい笑顔をみせて、

「ようこそ。では入ってくださいな。」

ワタルはというと、

「僕は御邪魔ですから、先に帰ります。」

と、踵を返してかえってしまった。

どうやら、本当の初めて人の優しさに触れて、付き合うことになったらしい。


【アユムのあゆみ】


僕は産まれてこの方、自分の存在が素晴らしいものとは思っていなかった。

ものごごろがついた時から、盗人の子供呼ばわり。

いつも人から後ろ指を指されている気がしていた。

母親の元夫が母親を譲ると言う形で、傍目には円満解決に映っただろう。

でも姓は、婿入りの形を無難にえらんだのだ。

そのことで、母親の連れ子とも折り合いがつかなかった。

兄さん、姉さんいたが、異父兄弟で仲間には入れてもらえなかった。

一番つらかったのは、元夫が起こした、ファイブコンチネンタル・サービス(FCS)に兄と姉は良くしてもらい、何不自由ない暮らしをさてもらい、(まあ、実子だから仕方ないと思うが)、海外留学に行かせてもらったが、僕が中学生になった頃には、経営がガタついていた。

それまで、元夫と父親は社長と平の関係だったが、借金苦から見を逃れた元夫の変わって、

こともあろうか、父親が社長を引き継ぐ形で、再建に乗り出したのだ。

日に日に増える借金。

母親は、ノイローゼになってしまった。

父親は、孤軍奮闘していたが、父親一人ではどうすることもできず、過労で倒れてしまった。

風の噂で聞いたのだが、元夫は、兄さんと姉さんと海外逃亡を図って、暮らしているらしい。

住む家も、とある一等地から、身を隠すようにボロアパートで母親と暮らすことになった。

母親は、身売りするようになってしまった。

その影響か、僕も身売りすることに決めた。

中学生の少年に体を求めてくるのは、中年の男のお金持ちしかいない。

はじめは身震いするほど、気持ち悪かった。

あの脂ぎった顔でキスをせがまれ、加齢臭に抱かれると吐き気がしてくる。

そして、思っても見ないところを、指でゆっくり広げ、男の物が入ってくる。

でも、割は良かった。母親よりも稼いでいたのかもしれない。

母親は、貴婦人であった頃のプライドが邪魔をして、時折ケンカし顔にアザをつくって帰って来ることもしばしばだった。

僕はというと感覚が麻痺してくるに連れ、『金の亡者』に取り憑かれていった。

このころから、自分を私と言って呼称していた。

男たちは、僕が「私」と自分のことを呼ぶことで、発情するのを覚えたからだ。

もちろん学校は、行かない。いや、行けないのだ。

こんな汚れた体と心を世間に見せようなんて、勇気がなかった。


とある日、いつもように仕事のケガレを清めようと銭湯にいった日のこと。

いつも銭湯で何故か一緒になるガタイの大きな中学生と知り合った。

僕の体を下から舐め回すように見ていたその子を面白からかい半分で誘惑してみた。

「いつも私の体をじっくり鑑賞してはいませんか。」

するとその子は、

「つい綺麗な体をしていたので、見とれてしもうた。」

と、顔を赤らめて答えた。

不意に下半身を見ると、にわかに反応していた。

「金を出すなら、相手をしますよ。」

僕はその子に言った。

まんまと家に着いてきた。

そこで、途方もないくらいの大金を提示した。

その子は、あっさりとOKした。

僕が驚くくらいに、この体を欲しがっていたんだろう。

話をしていると、今急上昇しているビッグスカイ・グループ(BSG)の御曹司と言うことがわかった。

名前は、大空翔おおぞらかけると言った。

僕の会社のFCSの親会社だった。

これは、金ヅルになるなと確信した。

カケルは、得意げに援助してあげてもいいんだ。親に言って、上場してあげてもいいんだ。

と、自慢げに話した。


それから、週に三回以上はカケルに抱かれる生活を送っていた。

カケルは初心者なので、扱いやすかった。

僕の体をくまなく触ってきて、それから口や手で奉仕するとその快感に身震いしながら喜んでいた。

そして、毎回の小遣いも半端なく羽振りが良い。

こうして、カケルのペットになり下がってでも、あの脂ぎった鼻息荒い加齢臭から逃れられると思うと、気持ちが少し和らいだ。

でも、そうは長くは続かなかった。


半年が過ぎようとした頃、いつものように体を重ねたあと、汚れた体を洗おうと常連の銭湯に足を運んだ。

というのも、ボロアパートにはお風呂がついていなかったからだ。

尾行されていると気づきつつ、カケルの相手をしなければならないと気づかないフリをした。

銭湯まで、尾行するとはどこのどいつなんだ。なんの恨みでもあるのか。

気が気ではなかったが、浴室で背中を洗いあいをしていた。

すると、これまたぽっちゃりした中学生が入ってくるではないか。しかも服を着たまま。

ワタルは、幸せの有頂天で全く気がついていない様子。

僕らの方に近づいてくるとものすごい形相で、ワタルは首根っこをつかんで、カケルを脱衣所に引きずり出した。

何が起こっているのかもわからず、急いで服を来て、その子の会社の取調室らしいところに連れてこられた。

その子は、七海渉ななみわたると名乗った。

まさに今をときめくセブンオーシャンズ・コンサルタント(SOC)の御曹司だ。

SOCの御曹司にBSGの御曹司。僕はワケがわからなくなっていた。

ワタルは、

「どうしてこんなことになったの。」

いぶかしげに僕の顔を見る。

「私はただ、カケルさんが私の会社へ融資してくれ、その上、上場までしてくれると言う約束で、契を交わしていただけなのです。」

僕は答えた。

カケルはもはや何も言えないで固まっている。

「こうなったのは、うちがカケルのことを誘惑しからいけないんだ。」

ワタルは自分を責めていた。

「でも、この機会を失うと、私の会社はもはや倒産しなきゃならないんです。」

僕は、涙が止まらなかった。


この一件の数日後、ワタルはカケルの件を伏せながらも、親に頼み込んで、僕の会社(FCS)を傘下に入れるように話してしてくれたようだ。

僕は、ワタルの行動力には度肝を抜いた。

そして、新たにセブンオーシャンズ・コンサルタントはビッグスカイ・グループとファイブコンチネンタル・サービスを傘下に入れ、セブンオーシャンズ・ホールディングズ(SOHDソード)が誕生したのである。

僕はこの将来有望なワタルについていこうと思った。


借金からまぬがれた、アユムの母親は早速精神科へ入院することになった。隣の病棟は父親が入院する内科である。時折会い、また、二人の笑い声が戻っていた。

息子の偉業を誇らしく思ったに違いない。

アユムはというと、ワタルの家に居候して、あまり通うことのできなかった中学生の勉強をワタルの計らいで家庭教師をつけて、いそしんでいた。

それは、中学三年生の春のことだった。

メキメキ成績を上げていた。ワタルと同じ学校に通うために。


カケルが寂しがったのは言うまでもない。

そこを優しくフォローするのがワタルのいいところだ。

ワタルは、カケルが寂しくないように、時々カケルの寮へ会いに行き、会ったときは思い切り甘えてあげたようだ。


それでも、なかなか大和桜学園への偏差値まで届かなかったアユムをギリギリまで見放さず、多額の援助金を出している強みを使って、1ヶ月遅れでの入学に至ったのだ。


そして、4月に入学を迎えたワタルは、テンシのことを見てたいそう驚いたようだ。

なぜなら、アユムと瓜二つなのだから。

そこで、仲良くなって詮索してみようと思ったわけである。

性格がぜんぜん違うテンシとアユム。ワタルは安堵を覚えたことだろう。

このことに関して、ワタルはアユムから話を聞いていた。

異母兄弟がいること、父親がテンシから去ってどんなに辛い思いをしたことだろう。

一度会って、唯一の血のつながった兄弟と話がしたいと。

アユムは、自分の苦労話は一切しない。

それが、ワタルが、アユムに対して不憫に思ったきっかけでもあった。


翌五月は、待ちに待ったアユムの初登校日だった。

テンシはというと、サクラ姫だのファンクラブだの祭り上げられて、アユムは少し嫉妬していたのだ。

身売りで磨き上げた、男をとりこにするテクニックを使ってみたくなった。

アユムの昔からの悪い癖だ。

やはり、カケルの影響を受けてから、大人びた男らしい人がタイプになっていた。

そこで、スポーツ科で試してみようと思ったわけである。

すぐにアユム親衛隊なるものができたが、でも、なびかない男が一人いた。

ランマだ。テンシと仲良く、羨ましい的であった。

無骨で、猛々しく見えるランマをどうにか口説いてみたくなった。

初めは、遊びのつもりだったが、次第にのめり込んでしまった。

でも、テンシのモノを取ってはいけないと自制心にさいなまれた。


そこで、ワタルに相談したのである。

もちろんワタルからはお咎めの言葉が漏れた。

自分でも良くわかっている。

それに、ワタルは、尊敬しているので逆らえない。

またしても、ワタルは直ぐに行動に移した。

ススムはという、ランマをちょっと大人っぽくした人と引きあわせてくれたのだ。

ススムは優しいこと。

ススム自身も隠し子で身内にバレないように育てられ、不憫に思ったワタルがSOHDソードの力を借りて、お手伝いさんとして、身内の世話をできるように図ってくれたのだ。

だから、ワタルは何でも知っているわけだ。

そんな合い通じることがススムとアユムの中に流れていたので、お互い身の上話をして、意気投合したのである。

そして、優しく本当の愛で心も体も抱きしめられ、初めて人肌の温かさを実感して涙したのだった。


【星のかけらたち】


これは、中学生時代、星の宮スクールの陸上競技に明け暮れていた大空翔おおぞらかける五十嵐爽馬ランマのお話。

島流しされた、カケルは、ワタルと離れたばかりで、意気消沈していた。

そんなことは知らず、ランマはいつになったら、カケルが体力づくりをするのか、気が気じゃなかった。

この二人、寮の部屋は同室だった。

カケルは、ここ1ヶ月音沙汰なしでムラムラしていた。

欲求不満の塊で、同室にはいかついランマが寝ていて、ランマでもいいやと意を決してランマの布団に体を滑らせた。

日中の疲れが溜まっているせいか、ランマは全く起きない。

止められもなく、ランマの体を触っていた。すごい胸板、太い手足、それだけで意気消沈していた。

仕方なく、自分のベッドに戻り、ワタルからされたことを想像して下半身を弄んでいた。

不意にランマが寝返りをうつ。そのスリルがたまらなかった。

悶々とした日は、限りなく続く。

ある日、寮から抜け出した。

バイブやら、大人のおもちゃを買い込んで、引き出しにしまっておいた。

それを楽しむのが、ランマが寝静まったあとの僅かな時間。

想像以上に快感が襲う。

思わず声を上げてしまった。

驚いたランマは、目を覚ましてしまった。

見たことのない光景に、ランマは見てはいけない物を見てしまったという罪悪感にさいなまれていた。

だから、直ぐに目を閉じて、見ないふりを決めていた。

毎晩のことだから、ランマも気まずい雰囲気を脱すべく、

「俺のことは気にしなくていいから、好きに遊んでくれ。」

と言った。

なぜそういうことをするのか。ランマは聞いてみた。

カケルは小学校の頃、幼なじみに犯されてから、快感が病み付きになってしまった。

思いっきり放出すれば、日中の陸上競技の練習には出られるんだなと、たしなめた。

ランマは仕方なく、筒状のものをカケルの下半身にあてがい上下に動かしてあげた。

ものの数秒で放出された。

それを見ていたランマも、ムラムラ悶々としてしまい、別の筒状のもので自分で上下に動かして、果てた。

ランマにとっては、それが初めての経験で、その快感にはまってしまった。

翌日は、照りつける夏の太陽を物ともせず、思いっきり記録を伸ばせることができた。

そして、また夜中相互放出が始まるわけだ。

最初の一年はよかったが、タイプじゃない相手とするのは、正直言って飽きる。

カケルは、小柄な男の子のようなタイプの人を探すため、学校を無断で休みがちになったのは、寮生活が慣れたた二年目の春のことだった。

プールや銭湯をうろうろ徘徊しだしたのもこのころだ。

そして、半年後の紅葉が綺麗に染まる頃、五陸歩ごりくあゆむと出会ったのだ。

華奢な体つきをして少年の美をたたえているその姿は、カケルはすぐに虜になっていしまった。

絶対に自分のものにしたいと思うと、一球入魂した。

強みの金で、なんとかアユムをとりこにすることに成功した。

まるで、歩みはペットのようだった。

お金という餌をまいておけば、自分の思い通りになる。

その快感が忘れられなかった。

そして、アユムを思う存分抱いた。

そう長くは続かなかった。

その後、ワタルが乗り込んできて、半年で別れることになるのだが。


ワタルの思いを知ったカケルは、ワタルの黄色い声援を素直に受けいれるようになった。

それは気持ちを入れ替えて、ワタルのためにも陸上競技に励むは励は。

ランマが、独走状態で1位をキープしていたが、本気を出すと、長身190センチ近い巨体から繰り出されるエネルギーというかパワーが凄い。

ランマと一位争奪戦になることもしばしばだ。

ランマは、カケルが何かを吹っ切ったかは知らないが、共に走れるのは嬉しい。


身も心も一体化してしまったのではないかというくらい、息はぴったりだった。

今や、この二人が星のかけらであることは言うまでもない。

星のかけらとは、一等星に輝けるかけらを持った少年たちに与えられる称号だ。

卒業を迎える頃には、将来のオリンピック候補生と言っても過言でないくらい成長していた。

そして、すんなりと、大和桜学園の特待生に推薦されたのである。

それから、卒業を迎え、カケルは家に戻るようになった。

と言っても、ソード(SOHD)のお屋敷は広い。

高校生を迎えるにあたって、お互い干渉されないように広い敷地に平屋三軒が建てられ、そこにワタル、カケル、アユムの三人が住むことになった。

一人暮らしというか、独り立ちの準備に為である。


その後ランマも、男としての快感とワタルとカケルの関係が羨ましくなり、スポーツスクールからいつも見える公園で、本を読んだり絵を書いたりしている陽だまりの中の輝かしい少年に心を奪われていた。

その子を自分とかけがえのない関係を続きあげられ、抱きしめたいと思っていたのだった。


【1たす99は100】


五月も半ばに入り、初夏を思わせるような強い日差しが降り注いでいた。

待ちに待った健康診断の日。

新任の保健室の先生、松森九十九まつもりつくもはウキウキしていた。

なんてったって、この機会を楽しみにしてこの仕事を選んだからだ。

男子学生のパンツ一枚の姿が見られる。

そう思うと、居ても立ってもいられない。

まず初めは、普通科の学生だ。

あまり興味ないから、淡々とこなした。

次は、待ちに待ったスポーツ科の学生だ。

顔がにやけてしょうがない、目がパンツに釘付けでしょうがない。

いい目の保養になったが、欲望を前に出すわけにはいかない。

半日で終わってしまった。

いいおかずができたなと一人でにやけていると、保健室を叩く音がした。

それは一番のお気に入りのスポーツ科の竹林一タケバヤシハジメだった。

「あの、午前中の健康診断の時にわかってしまったのですが、先生男に興味があるでしょう。」

ツクモは、血の気が引いた。

だって、あんなに注意をしていたと思っていたのに。

「そんなことはない。何かの思い違いだ。」

「自分も先生のことが好きなんだけどな。」

ハジメは言った。

ツクモは何も出来ないでいると、ふいに唇を奪われた。

そして、ベッドへ押し倒された。

ハジメは容赦はしない。

ツクモは、普通科の梅木百うめきももに悪い気がした。

モモにも言い寄られていた。

「モモはね、先生のことが大好きなんだよ。」


とにかくこのツクモは良くもてる。

大和桜学園のアイドル的な存在だった。

ハーフのようなの顔立ちはシャープで、どこか少年のような幼い印象が残っている。


なりゆきで、モモとは恋人未満で一歩踏み出せないでいる。タイプではないのだ。

モモは、まだ子供過ぎてわがままで扱いにくい。

それに対して、ハジメは大人びていて好みのタイプだ。

でも性格は、モモの方があっていた。

ハジメは、性格がきついなと思った。


なおもまだベッドで執拗に唇を重ねてくる。

すると、再び保健室の扉が開いた。

なんと、モモ本人の登場である。

その光景を目撃したモモは驚きのあまり立ち尽くしていた。

が、次の瞬間、モモも参戦してきた。

二人に責められるツクモ。

上から下か同時に。

ここは学校だからと、耐えてきたツクモもあまりの二人の刺激で我慢の限界を超えてしまった。


あとから聞いた話では、モモがハジメに相談して、なかなか折れないツクモを襲って欲しいと頼んだそうだ。

そんなことで、三人は付きあうことになったのである。

とは言っても、三人で楽しむだけの関係が続いたのである。

そして、その快感の虜になってしまった。


そんな話をモモから、テンシが聞いていた。

そして、ハジメから、ランマへ。

二人の関係が進展しないことにハジメとモモはやきもきしていたのだ。

そして、二人の関係は進展することになる。


【雨のち晴れ時々曇】


6月に入り、梅雨にジメジメは制服の着崩れを誘う。

雨に濡れながら自転車をこぐ学生は、ワイシャツが上半身に張り付いて透けて見える。

そんななまめかしい様子を、ツクモは窓から見ていた。

今日は、ハジメとモモはやってこない。

暇を持て余したツクモは、テクニックなる本を片手にコーヒーを飲んでいた。

ふと、下半身に手が伸びてしまう。

すると、突然保健室の扉が開いたものだから、驚いてコーヒーを白衣にこぼしてしまった。

入ってきたのは、ランマである。

ふいにツクモが落とした、ノウハウ本を拾い上げてみてみた。

『男を気持ち良くするテクニック』

だが、ツクモは慌てなかった。

なぜなら、ランマはテンシと付き合っていることをハジメとモモから教えてもらっていたからだ。

「なんのようだね。五十嵐くん」

「実は松森先生に相談したいことがありまして。」

事情を説明した。

どうしたら、自然にテンシを抱くことができるのか。

「何慌てることはないよ。」

「先生の場合、犯されてしまったのが、運命だったけどな。」

相手の気持を聞くことが一番。大切に思うなら、相手を尊重することだ。

とのアドバイスを受けた。

先生と予行練習してみるか。と誘われたが持ちもんランマは拒否をした。

このツクモ、なかなかのプレーボーイである。


あまりいい助言にならなかったので、ワタルとカケルにも聞いてみた。

「なりゆきに任せれば、自然とそうなるよ。テンシも男だから、そういいう快感には弱いんじゃないかな。」

と、ワタル。

「わしは、カケルのテクニックでやられてしまった。」

と、カケル。

おノロケ話をしたいみたいだ。

あまり参考にならなかったランマは意を決して実行に移すことにした。


その夜のこと、テンシと一緒に帰ってきたランマは、自分の部屋に呼んだ。

そして、開かずの扉を開けてテンシに見せた。

そこには、テンシが初めて目にするような『おとなのおもちゃ』が沢山入っていたのだ。

これは、中学生の時にはまったコレクションの数々だ。

見せるのは恥ずかしかったが、テンシのリアクションを見てみることにした。

「これどうやって使うの。」

テンシが聞く。

「ズボンの上からあてがい使い方を教えた。」

テンシは、急に真っ赤になる。

恥ずかしそうに、気まずそうに後ずさりをするテンシに、

「俺のこと引いたか。ずっとテンシとこれで気持ちよくなることを想像していたんだ。」

火が出るくらいに真っ赤になったテンシは、コクリとうなずく。

それが、たまらなくかわいいしぐさで思わずギュッと抱きしめた。

いざテンシのズボンに手をかけようとしたときに、手を払われてしまった。

ランマは、しぶしぶ思いをとどめた。

「俺は、テンシの同意を受けてからしたいんだ。それだけテンシのことを想っているんだ。だから、心の準備をしていつか俺を受け容れてほしい。」

テンシを見ると、身を預け目をつぶっていた。

そしてランマは、優しくキスをしたのである。



【付く者進まず】

これは、先ほど紹介した、アユムの彼氏のススムとハジメとモモと関係を持ったツクモの物語である。


今から八年前の出来事。九谷進くたにすすむ松森九十九まつもりつくもの出会いは14歳の中学生だった。

ススムは、隠し子という引け目があって、父親の愛人のフミさんの家でひっそりと過ごしていた。友達もあまりいなかった。

なぜ自分はこういう目にあわなければならないのだろうと、ススムは苦悶していた。


一方、ツクモはというと、子供のころから神童と言われていて、親の言うことは何でも守っていた。とても窮屈だった。いい子を演じていたのである。


この二人は、自分の今の状況が納得いかずに、夜の街にくりだしていた。

出会ったのは補導された、パトカーの中である。

繁華街にのさばる未成年を補導する少年課のお世話になったのだ。

最初は相関せずだったが、警察署館内の少年課での取り調べ後の待合室で、ポツリと話を始めたのはツクモからだった。

「警察のお世話になってしまったどうしよう。親に怒られる。」

「怒られる親がいるほうが幸せではないのかな。俺は、怒ってくれる親なんかいない。」

と、ススム。

ぜんぜん違う境遇だったが、孤立した心の中を打ち明けるうちに自然と会話が弾んだ。

すると、フミさんがあわてた様子で、駆けつけた。

「話は聞いたよ、ススム早く帰ろう。」

「ツクモはどうなるの、ここから一緒に出してあげなければかわいそうだよ。」

しかたなくフミさんは、

「あの、この子も私の甥っ子なんです。姉は入院していまして、義兄は単身赴任でなかなか戻らないので、一緒につれて帰っていいですか。」

なんと頭良い気転が効いたい嘘だろう

二人連れて帰っていいことになった。


その夜は、ツクモが帰りたくないと言い出し、優しいフミさんは警察に補導をされたことを伏せた上で、ツクモの両親に電話をかけて、ススムの家に泊まることになった。

二人はなかなか寝付けなかった。

話したいことがたくさんあるのだ。

畳の上に布団を敷いて、雑魚寝でいろんな話をした。

唯一の共通点は、一人ぼっちでさびしいということだった。

隣に誰か寝ているという安心感を持った。

ツクモは、窮屈な世界はうんざりだと言って、泣いてしまった。

そして、ススムはそんなことはないよ。隣に俺がいるでしょ。

と慰めた。

そして泣いているツクモの顔をススムの胸に当て、思う存分泣かせてあげた。

ツクモは、初めて自分を理解してくれそうな人を見つけて、心が安らいだ。

そして、初めてなりゆきでは会ったが、肌を合わせた。


それからというもの、ツクモはススムのことを頼れる兄貴みたいな存在で、どこに行訓も何をするにも、甘えまくった。胸を借りた厚い胸板が忘れられなかった。

ススムは、かわいい弟が出来たようで、初めて役割が出来たように思った。

どこまでも守り続けてやると心に誓ったのである。

美少年をたたえた幼い顔のツクモにススムはメロメロだった。


春になり、お互いに同じ大和桜学園に通うと決めてからは、ススムは部活に打ち込み、ツクモは勉強に明け暮れた。

おかげで見事、合格をすることができた。

もちろん、ススムはスポーツ科でツクモは普通科である。

相思相愛のベストカップルで学園には知らない人がいないほど羨望の的だった。

もちろん、サクラ姫には、ツクモ。ヤマト神には、ススム。まさにシンボルだった。


でも別れと時は刻一刻と迫っていた。

大学進学を決めたツクモに対して、ススムは海外でスポーツ力学の名門へ入らないかと海外にいる父親から誘いが来ていたのだ。

このままの関係では、いけないとススムを思ったフミさんからの忠告だった。

始めのうちは、密に連絡を取り合っていたが、ツクモは持ち前の美しさを武器に近くにいる男へ気持ちが移っていったのである。


そしてツクモは大学を卒業し、大和桜学園の保健室の先生として勤めるようになり、ススムは、スポーツインストラクターのかたわら、甥っランマの面倒をフミさんと一緒に見ることになった。ランマには、ススムとフミさんの本当の正体を隠して。


【雲の隙間から差し込む光】


梅雨明けは近かった。

灰色の雲をピカピカ光らせ、遠くの方で雷鳴が鳴り響いていた。


「こんな夏に体力テストなんて、体が持たないよ。」

テンシが言った。

「汗を流す心地よさを知らないからネガティブになるんだよ。俺が体を動かす気持ちよさ…」

ランマが言いよどんでしまった。

「なんで言葉を詰まらせたの。」

「いや、テンシとならいい汗を流せそうなんだけどな。」

ランマは、意地悪そうにテンシを見た。

「・・・」

「また、テンシのテンテンテンが始まったよ。」

「もう、そんな妄想ばかり膨らませないで、僕の話をちゃんと聞いてよ。」

「そうだな。俺の親が経営しているスポーツジムにいってみないか。体を鍛えて汗を流して、温泉もついてくるというおまけ付きだ。」

というわけで、フィフティストーム(五十嵐)・フィットネスクラブ、通称FIFIフィフィに行くことになった。


FIFIは、ランマの父親の健康的なダイエット論から誕生したという。

館内が男性専用の「嵐館」と女性専用の「雅館」に分かれているのが特徴だ。

さっそく館内に入ってみると、ススムが出迎えてくれたのである。

「ススムさんて、ここでインストラクターをしているのですよね。」

テンシは聞いた。

と、奥のほうでマシンを動かしているハジメとモモの姿があった。

「あの二人、男にもてるスリムな体を作るって意気込んでいたけどね。」

ススムが笑って答えた。

後ろを振り返ると、雅館のドアから美少年…いや、モモ王とナデシコ神が出てきた。

「ここでお会いするとは。あなたも姫に磨きがかかるように、お出でで。」

相変わらずの麗しゅうナデシコ女神のお言葉。

「あの二人も仲がいいんだ。毎日というくらいにここで体を鍛えているんだよ。」

ススムは言った。

体のメンテナンスを怠らない、さすがだなと感心してしまう。

「今日は体験ということで、俺がいろいろ教えてあげるよ。」

ランマに促されるまま、スポーツウェアに着替えた。

さすがテンシ、メンズサイズでは大きすぎてウェアがダボダボだった。

しかたないので女性用を着た。ライトピンクのジャージだった。

「テンシ、すごく似合っているよ。」

ランマが嬉しそうに褒めてくれた。

ランマはというと、スカイブルーのランニングシャツとブラックのナイロンのハーフパンツ。鎖骨が見えてまたしてもドキドキしてしまう。

「ランマもかっこいいね。」

すると僕と同じピンクのジャージを着た男の子。

アユムだ。

ススムの袖を引っ張って、連れていってしまった。

「あの二人も仲良さそうでいいな。」

ランマは、遠ざかる二人を見ながら言った。


始めはウオーミングアップからだと言って、ウオーキングマシンから始めた。

さすが慣れているランマは、走っているのと同じくらいの速さでトレーニングをしていく。

僕は、散歩をする速さで始めた。

二十分くらいしていただろうか。

僕は、汗だくになって息をきらせてしまった。

ランマは余裕の表情で、なおも続けている。

「情けないな、うちのサクラ姫は。」

モモがなじる。

「ウタちゃんはもうおちゅかれでちゅか。」

ハジメがからかう。

僕は、ムッとして走っているランマを止めた。

「ウオーミングアップはいいから、違うところ行こうよ。」

「じゃあ、次はマシントレーニングだな。」

一通りのマシンの使い方を教えてもらい、実際に動かしてみた。

実に重かった。全然使わない筋肉を使ったものだから、滝のように汗を流してしまった。

ランマはこれまた軽々とリズムよく動かしていく。

「よく頑張ったなテンシ。お風呂でも入りに行くか。」

ランマの裸が見られると思うと恥ずかしかったが、この汗だくのまま帰るわけにもいかないので、うつむいてランマのあとを追った。


閉館間近の温泉は静けさが漂っていた。

脱衣所ではランマが勢い良く服を脱いでいく。

あっという間に全裸になってタオルで隠さずに浴室へ先に言った。

僕は下をバスタオルで隠しながら脱いだ。

ランマは、入口付近で立ち止まっていた。

先客がいたのだ。

ススムの背中を流しているアユムの姿があった。

まるでじゃれ合っているみたいだった。

こんな無防備な無邪気なアユムの顔は学校では見たこと無い。

見とれていると、椅子に足が当たってしまった。

カラッとタイルの音が浴室にこだまする。

アユムと目が合ってしまった。

「やあ、君たちもお風呂に入りに来ていたのかい。」

ススムは、近づいてきた。

「お前もずいぶん成長したな。昔はこんなんだったもんな。」

ランマの下半身を見ながらススムは、親指と人差指で指で大きさがわかるように広げながら話す。

「ススムさんもじゅうぶん立派なモノをぶら下げていますね。」

すると、逃げるようにアユムは脱衣所へ出て行ってしまった。

「アユムどうしたんだ。」

ススムは、慌ててアユムの後を追う。

「邪魔しちゃったのかな。」

「まっ、ここは公衆浴場だからな。これで二人きりになれたね。」

ランマがにっこり笑った。

ランマの顔も体も直視できない。

「テンシ、背中洗ってくれるか。」

そう言って椅子に座った。

真っ赤になりながらも、ランマの背中を洗ってあげた。

こう見ていると、ランマの背中は広い。

贅肉なんか全然なく、腕や足の筋肉がたくましい。

昔犯されたおじさんも筋肉質だった。大きな手が僕の下半身を包む。

一番男として敏感なところを。

「テンシ、背中に何か当たっているぞ。」

僕はハッとした。

僕の下半身は、元気を増して大きくなっていた。

そして、テンシの背中をぐいぐい押していたのである。

僕は、恥ずかしくなって、湯船に飛び込んだ。

ランマは、背中の泡を落とし同じ湯船の中に入ってきた。

恥ずかしくてギュッと目をつぶっていると、唇に優しい感触が触れた。

ランマはキスをしてきたのである。

「恥ずかしがることはないよ。俺もテンシの綺麗な体を見てこんなになってしまったよ。」

僕の手を自分の股の間へいざなう。

ランマの手も僕の股の間へ伸びてきた。

僕はどうにでもなれと思った。

恥ずかしさは愛しい気持ちに変わっていった。

突然、館内放送が流れた。

〈只今を持ちまして今日の営業は終了です。お持ち物などお忘れにならないようお帰りください〉

でも、僕たちはこうして、電気の消えた暗闇の温泉で初めて結ばれたのだった。

(第一章)完


初めてボーイズラブの作品を書きました。


まだ文章は稚拙ですが、自分の可能性を出したいので、投稿いたしました。


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