清潔石鹸
生徒たちにとって一日のうちの一番の楽しみは、なんと言っても給食の時間だ!
今日のメニューはハムカツ、トースト、いちご牛乳、それにデザートは何と生徒も先生も大好きなあんみつ……この日は皆特に、給食の時間を待っていた。
運が良ければ、おかずやデザートのおかわりが有る場合だって夢じゃない‼
おかわりを手に出来るのは、給食を早く食べ終わり、なおかつじゃんけんで勝利をおさめた幸運な者だけなのだ。
給食を早く食べ終わるには、早く食べ始めることであって、誰よりも早く手洗いをするのがポイント。
給食は、手洗いから既に始まっているのだ!
「早く洗ってよ!」
「急かすなよ!
こっちだって急いでるんだから……」
手洗い場はどこも行列が出来ている。
先に手を洗っている生徒たちは、急に急ぐ手を止めた。
ガツガツした様子が突如なくなり、のんびりとした動きになった。
「早くしてってば!」
「はあい……お先にどうぞ」
「え……?」
「順番代わるよ。
なんなら先に給食食べてて……僕は後から行くよ」
「この石鹸、宝石みたいにキレエ……!」
「もう、いっそ給食全部あげるよ」
先に手を洗っていた生徒たちは、のんびりと動き始め給食への欲望が消えていた。
「何……まあ、いっか。
この間に洗っちゃえ……」
手洗いの順番が来た生徒も、洗っている途中でホンワカした気分になりだした。
「給食、おかわりいらないわ……余った分は、休んでる子に持っていこう……」
その言葉を聞いた生徒たちは、一斉に声をあげた。
〈さんせえっ!〉
給食の時間が始まり、生徒たちは行儀よく食べ始める。
「「「「「いただきます‼」」」」」
デザート、おかず、いちご牛乳が余ると、皆は欠席した生徒へ配る事を提案したのだ。
この噂を耳にした校長先生、教頭先生は笑顔を見せ合う。
「あの石鹸効果ありましたね、校長先生」
「教頭先生が『心までキレイキレイ石鹸』を教えてくれたおかげです」
「あの石鹸があれば、生徒さんたちは、休んだクラスメイトさんに、デザートを譲る心を持ってくれますね」
二人は嬉しそうだが、半分複雑。
「ですが、石鹸なしで分け与える心をもってほしいのですがね」
「いつかそんな心に育ってほしいものです」
校長先生と教頭先生の生徒も先生も心まで清潔、キレイキレイ作戦は始まったばかりだ。