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覚悟と想い

弾けて散った契約紋は確かに本物で、シルヴィアは勿論、ライオネルも呆然と宙を見つめた。


「う…そだろ。そんなあっさり…」

「おやおや、聖王様は解除させたがっていたはずだろう?」


確かにライオネルにとっては願ったり叶ったりだ。そうさせようとしていたのだから。しかしシルヴィアは明らかにショックを受けていて、顔面蒼白だ。その様子を見てさすがに喜べはしない。


「シルヴィア、大丈夫か…?何か身体に変わったこととかはないか?」

「わ、分かんない…力が抑えられてるのも知らなかったし…」


契約を解かれたとて、急激に光を放ったり力が漲ってきたりとかはないようだ。感覚として分かる事といえば、ただただアシュレイとの繋がりが消えただけだ。


「聖王様はどうだい?シルヴィを通して神聖術を使えないかい?」

「俺はシルヴィアを神として崇めていないと言っただろう。その時点で神聖術の発動条件を満たしていない」

「そもそも君はそう信心深そうには見えないけどなあ。本当に力の根本は信仰心なのかな?平等でもなくただ気まぐれに与えられているものなのに」

「なっ…!」


まるで何かの揺さぶりでもかけるかのような笑顔と口調のアシュレイを、周りにいた聖騎士たちは女神に対する侮辱だと睨みつける。が、同じく怒るかと思われたライオネルは冷静に見つめている。


「… 愛は祈りを、祈りは救いを。救いは愛の祝福を。力の根本は女神のお心次第だ。それがあんたからすれば気まぐれだってことなんだろう」

「へえ?」

「愛は等価交換じゃない。見返りを求めるものでもないだろ。そのくらい理解しながら捧げている。その上で、気まぐれでも何でも貰えるならありがたく貰っとくもんだ」


ライオネルはそう言いながら、横でショックに震えているシルヴィアをそっと抱き寄せた。


「あんた、俺とシルヴィアとの出会いは女神が仕組んだとか何とか言っていたな。それが俺の今までの行いに対してのご褒美だってんなら最高だろ。ますます女神エスメラリア様を崇めるよ」

「おやおや思春期もそろそろ終わりかな?もう与えられるもので満足するような時期か」

「鼻先にぶら下げられただけで与えられてはねえよ!どれだけ手に入れるのに苦労してると思ってんだよ!」


彼女の全部を手に入れていた男の言葉に、平静を装っていたライオネルも思わずいつもの調子が出てくる。


「今は君の腕の中にいるじゃないか。ま、手に入れたとは確かに違うかもしれないけど。…で、力は使ってもみないのかな?ならもう一度…」

「炎くらい出せる!黙ってそこで見てろ」

「待て。まんまと乗せられているがいいのか、ライ?女神は晶霊王をあえて封じたんだろう?」


アシュレイに言われるがままに力を試そうとしているライオネルに、バースが確認を取る。先程からずっと炎の神聖術が使えない、それこそが女神の意思表示だ。ならばこれは女神の意思に背く形にならないかと。

その会話を聞いて、シルヴィアは気づいたかのように顔を上げた。神聖術は女神の気持ち次第だ。つまり女神に逆らうような真似をすればどうなるか。それはハウズリーグの人間にだって予想はつくし、実際見て来たシルヴィアにはよく分かる。


「ライ、そんなことしたら神聖力がなくなっちゃうんじゃ…!」

「シルヴィア。お前はどうしたい。父親と話くらい、本当はしたいんだろ?」


ライオネルの問いかけにシルヴィアはびくりと肩を振るわせる。父親。会った記憶のないその存在が気にならないと言えば嘘になる。もしかしたらライオネルは、自分が家族を羨ましがっていたことを覚えていてくれたのだろうか。


「でも、解放して何にどう影響を及ぼすか分からないし…。それに、女神様の意思でここに封じられてるなら、逆らうことになるんじゃないの?そうしたらライは…」

「俺を見くびるな。惚れた女の願いも叶えられないで

何が聖王だ。俺の愛はお前に捧げていると言ったはずだ!」


スラッ…!


言いながらライオネルは片手で剣を抜いた。それを神聖術の媒介とし、湖を溶かすために。晶霊王、いや、婚約者の父親を救うために。


「猊下…!」

「お待ちください!御身に何かあっては…」

「ライ!本気か?」


周りの制止は聞かず、ライオネルはそのまま剣を湖に向かってかざした。

神聖力が身体中を巡っている感覚はある。完全に消されたわけではない。ただその出口が塞がれているだけだ。集中すれば出来るはずだ。ジリジリと剣先に熱が集まるのを感じたその時…。

ゴロゴロゴロ…


「雲が…!」

「雷雲だ…!」

「女神様のお怒りでは…!?」


突如暗くなる空を見上げると、雷雲が集まってきている。これは神聖国の先王が打たれた時に見た、女神の鉄槌の前触れと同じではないか。


「ライ!さすがにまずいぞ…!」

「問題ない。俺に雷は落ちない」


バースが止めようとするも、ライオネルは聞くつもりはないようだ。更に降り始めてきた雨も気にせず、そのまま熱を持って来た剣先に意識を集中させている。


「抜剣しながらすごい自信だなぁ。神罰がどうこう以前に、物理的に危なそうだけどな」

「俺は少し離れます〜普通に巻き込まれたくないんで〜」


アシュレイやその晶霊トラッドたちは、まるで他人事のように見ている。晶霊術を使って止めることも手伝うこともする様子はない。ザーザーと強まってくる雨だけは防いでいるが。


ゴロゴロゴロゴロ…


「ラ、ライ、危ないからもう止めた方が…」

「止めない。シルヴィア、お前は俺の母親を助けてくれただろう。なら今度は俺が助ける番だ」

「だけど…!」

「お前はそこで成就でも祈ってろ。いや、祈りは無駄だな。今そんなものは意味がない」

「ライ!?」


完全に聖王としてアウト発言すぎないか。言われたシルヴィアは目を見開いて驚く。ともすれば目の前の少年は、やはり無神論者なんじゃないかとすら思う。


「シルヴィア、お前が力を貸せ!必ず助ける!」


ガシャーンッ!


「あっちの木に雷が落ちたぞ…!」

「猊下…!」


雷鳴が響き渡り、周囲はさらに騒ぎ出す。神聖国の聖騎士たちにとって、女神の雷による先王の死は記憶に新しい。そして今や王家唯一の直系たるライオネルを失うわけにはいかないからだ。


「ここで怯む方が女神はお怒りになるだろう。俺の捧げた覚悟を黙って見てろ!」

「聖王猊下のご命令だ、皆下がれ!」

「隊長…!」


こうなったライオネルは一歩も引くことなどしないだろう。バースはそれをよく分かっている。ずっと近くで見て来たからだ。ならばと近衛隊長として周りを下がらせ、友人として見届けることにしたのだ。


「何をしているんだ聖王は…!?」

「神聖国の王が何故女神に逆らってまで…??」

「正気かあの男!?」


ハウズリーグの兵たちは一から十まで訳がわからないという顔だ。それはそうだろう。女神の意思に背くことは聖王といえど本来許されることではない。下手をすれば何もかも失うのではなかろうか。


「ライ…!ど、どうすればいいの?私もともと力の使い方なんてよくわからないし…!」

「浄化の雨降らせてたろ?今思えばあれは晶霊術っていうより女神由来の力だったんじゃないか?ならその応用だ」

「応用…雨の応用で炎って言われても…」


ドシャーンッ!


「ひっ!」


また少し離れた場所で雷が落ちた。女神様は完全にお怒りだ。シルヴィアは慌てたが、焦れば焦るほど力の出し方がわからない。無駄に力んでみても何も起きない。


「わ、わ、わ…力…出ろ〜!」

「シルヴィア!素直な気持ちだ!ライに対する思いを叫べ!」

「バース!?き、気持ち!?ええーと…えーと…!ライ…ライ…」


バースがアドバイスをするかのように叫ぶと、オロオロしながらシルヴィアはライオネルを見た。彼に対する気持ち…思い…。そうだ、ずっと強く思っていた。どんどん膨れ上がるこの思いは…。


「ライに…今すぐかぶりつきたーいっっ!!」


そう叫んで抱きついた途端、ライオネルの剣先から青い炎が吹き出した。


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